【特集:SFC創設30年】
座談会:グローバル社会を牽引するSFCへ
2020/10/08
10年後のフロントランナーの姿
土屋 1期生、2期生、4期生の皆さんはいつまでもSFCのフロントランナーとして引っ張っていく役割を担わされていて、皆さんの生き様がSFCの成果そのものなんです。そのような皆さんは10年後、20年後の未来をどんなふうに考えていらっしゃるでしょうか。また、今の学生たちにこんなことを期待したい。最後に一言ずついただければと思います。
林 私はピースボートの後、商社に入り、三井物産で3年前まで勤めていました。そのあとネットベンチャーに行って、その間に台湾駐在、北京駐在も経験しました。
それで、縁があって台湾に帰ってきたのですが、商社時代に事業譲渡した個人投資家の方が、今、私がいる京城銀行と台湾紙業等のオーナーで、私は社会性やコミュニティとの絆を重視する経営哲学を持つ彼の後を追いかける状態にあります。不確実で多様性に富むこのような時代に過度に同調圧力が強い日本は、やはり個人で判断することが迫られ、自らへの誠実さ、自らの真の役割に向き合う主体性が否が応でも求められてくるのだと思います。
日本企業は、合議制で計画を緻密に立てて、皆の責任のもと、後はそれを実行するだけという3カ年計画や5カ年計画をつくりますけれど、そんなものは中国も台湾もつくらない。想定外の変化があるのは当たり前だから臨機応変柔軟に、人や物事に対して寛容で、スピーディーで変化にも強い。有事の時にはできる人が勇気を持って仕切り、全体感と透明性を持って一致団結して遂行する。レジリエンスというか、転んでもただでは起きないしたたかさと根性みたいなものもある。そういうものが日本社会にもどんどん浸透していかざるを得なくなるのだろうなと思います。
私は数年前までは日本で忖度をしていましたが、台湾や中国での経験を経て、今の流行りの言葉で言うと自分のなかでトランスフォーメーションがされてきたように最近は感じています。私が日本と台湾、日本とアジアとの間で仕事をしていく中で、一緒にそういうものをつくっていく側に10年後は変わっていくのかなと想像しています。
廣瀬 自戒を込めて申し上げると、紛争の研究を始めた当初、自分は中立的な立場で研究をしたり、発言する人間になりたいと思っていたのですが、紛争研究を続けるとそれが非常に難しくなってしまっています。
アゼルバイジャンとアルメニアの関係で言うと、どうしても私はアゼルバイジャンの弁護者みたいな位置付けになってしまう。さらに、ロシアに敵対している国の味方のような位置付けにもなってしまっていて、例えば、ウクライナ危機の際には、ウクライナ大使と一緒に外国人記者クラブで話すようになり、当然ロシアから批判的な目で見られたりするんです。それは本来、自分が中立的に研究したかった意図に反するので、すごく居心地が悪いです。
同時に中立的な立場でいろいろな国の和平に日本がもっと貢献できればいいなとずっと思っています。ここ数年、外務大臣に旧ソ連地域について意見をさせていただく場があり、実際に政策にも関わらせていただいています。しかし、やはり日本も実際の外交ではロシアに対して気を遣って、なかなか中立的に立ち回ることはできません。
それがすごく残念で、自分は微力な一研究者なので、平和を仲介することに貢献するのは難しいと思うのですが、論文を書くだけではなく、もっと実体的に平和に貢献できるようにはなりたいと思っています。
自分ができなくてもそれを支えられるような人材を育て、政府に働きかけて日本政府がそういった役割を果たすことに貢献したいと思っています。10年後、20年後に向けて、まずはSFCの教育を通じてそういった人材を育てていきたいですね。
加藤 私は新しいスポーツの世界を見ていきたい、つくっていきたいという思いがあります。一昨年ぐらいからeスポーツの研究をしているのですが、今までのスポーツの対極にあるようなものなので、スポーツ関係の人たちから「おまえ、裏切ったな」と言われる(笑)。でも、たぶん今後はよりバーチャルな世界が進んでいくと思うんです。
最近、小学生でもeスポーツをしながら、海外の人と普通に英語でコミュニケーションをとっています。そういう世界が現にある中で、では、「スポーツをするとはどういうことなのか」を改めて考える必要があるのかなと思っています。
慶應義塾にはそもそもスポーツ科学部がないので、まず塾内でスポーツや体を動かすことの研究に関心がある人たちを集められるような場所があればと思っています。スポーツとは関係ない分野の研究をしている人からも、逆におもしろい視点を提供してもらえるので、それができるのが慶應義塾の特徴でもあるのかなと思います。
それから、体育会も、新しい形で発展してほしいと思っています。最近、野球部やバレー部に、選手ではなく、アナリストとして入ってきた学生がいるんですね。それはすごく新しい流れで、おもしろいなと思っています。学生が研究をして、実践的にも活躍できるような場を作ることが大事かなと思っています。
また、SFCが設立から重視してきたウェルネスについては、単に授業を受けるだけではなく、なぜ体育や心身ウェルネスという科目があるのかを学生たちに分かってもらいたいと思っています。大学大綱化のあった90年代には多くの大学が体育を必修から外しましたが、逆に今、体育が大事だという流れになっているそうです。そういう部分でSFCが率先してアピールしていければと思っています。
「知的ワクワク」に溢れたキャンパス
吉浦 10年後には、私がいるような主要メディアがどうなっているかわからないのですが、それでも私は通信社の役割は大きいと思っています。リアルタイムにニュースを常に発信していく。これはSFCができた時にネットワークで世界とつながっていて、世界で起きていることがすぐに分かるという1つの私の原体験とかかわっています。
いろいろな情報が溢れる時代だからこそ、自分なりに情報の優先順位を付けて、皆さんがより良く生きていくための判断材料を提供する仕事をこれからも続けていきたい。未来からの留学生であるわれわれが生きている時代の「未来」が今起きていて、これからもわれわれにとっての未来は続いていくわけです。本当に未来からの留学生であってよかったなと思います。
なぜこんなにSFCが楽しかったのかなと考えると、1つは「知的ワクワク」に溢れていたこと。もう1つは人がおもしろかったということではないでしょうか。現役の学生もきっとそれを体験されているのでしょう。そういった学びや人との関わり合いの中で、すごくかけがえのないものを、まさに自分の体の中に蓄積している時期なのだということをぜひ理解してほしい。
そこで得たものや知り合った人たちから感じたもの、自分の力になったものは、たぶん卒業後に自分がどう生きるかを考える上で、とても大きなヒントや力になるはずです。SFCはこれまでもそうだったように、これからはより以上にそういう場になってくれるのではないかと期待しています。
廣瀬 1つ付け加えると、自分が4年間あれ程楽しかったのは先生方がご自身の時間を学生に惜しみなく割いてくださっていたからだと思うんです。当時は学生や授業数が少なかったので先生方も余裕がおありになったのだと思いますが、例えばアドバイザーでいらした小島朋之先生からは、直々にお電話がかかってきて、暇だから飲み会設定してよ、というノリがあったりした。
現在、私たちは忙し過ぎて、そんな余裕はないですよね。オフィスアワーも事前にメールをください、とやっていますけれど、昔はアポなんか取らずに、いつでも研究室に行くことが許されてしまうようなゆったりさがあった。
今は先生方はどなたもとても忙しくされていて、まったくそういう余裕がなくなってしまっていると思います。かつてのそういう状況を彷彿させるような、ゆったりしたSFCがもう1回体現できたらなとちょっと思いました。
土屋 いいところはもう1回取り戻して、新しいことも付け加えて、いいキャンパスにしていきたいですね。
大学生活はたった4年しかない。でも、そのたった4年を今日は4人とも皆さんは楽しかったとおっしゃっていて、いい時代だったんだなと思うんですね。
今の現役の学生たちは、この4年間のうち半年をコロナ禍で失ってしまったと思うのか、あるいは、オンラインで授業を受け続けた貴重な半年だったと思うのかは分かりませんが、キャンパスに戻ってきて、楽しくて知的ワクワクに溢れた学生生活を過ごしてもらい、30年後に「ああ、あの頃はよかったな」って言ってもらえるようになるといいなと思います。
そのための努力をわれわれは続けていきたいと思います。皆さん、今日はお忙しいところ、有り難うございました。
(2020年8月24日、オンラインにて収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
2020年10月号
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