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【特集:SFC創設30年】
SFCとわたし:SFCで看護医療を学ぶことの意義

2020/10/07

  • 田村 紀子(たむら のりこ)

    看護医療学部専任講師、2005看、2017健マネ博

「ふぅ、やっと湘南台…」。千葉県柏市から電車を乗り継ぎ、片道2時間弱。そこからバスでSFCに向かう。空気の澄んだ日には、バスの中から見事な富士山を拝むことができる。私は、2001年に1期生として看護医療学部に入学した。長距離通学であったが、SFC周辺の景色に癒され、毎日ワクワクしながらSFCに通った。

看護医療学部生は、SFC本館ゾーンから徒歩10分程離れた看護医療学部校舎で行われる授業が多く、ほとんどの時間をそこで過ごす。1、2年次は、語学等、看護学以外の科目も学びたいと思い、毎学期の初めに総合政策学部・環境情報学部の時間割やシラバスを見て、面白そうな授業をリサーチしていた。しかし、看護医療学部の必修科目と重なっていたり、休み時間内の移動が難しかったりして(現在は本館ゾーンと看護ゾーンを結ぶシャトルバスが運行されているが、当時は本館まで歩いていくしかなかった)、履修が叶わず断念するということを繰り返した。ただ、看護医療学部で行われる授業でも、総・環の教員が講義をしてくださったり、総・環の学部の先輩や、政策・メディア研究科の院生がSA・TAを担ってくださった科目もあり、その方々との交流や、意外な角度からのアドバイス、ディスカッションに、多くの衝撃を受けたことを鮮明に覚えている。

4年次には、さらに自分の世界を広げたいと考え、念願であった本館ゾーンの授業をいくつか履修した。中でも特に印象に残っているのが、「脳情報科学」という授業である。人間の脳の機能、運動や感覚、記憶、思考のしくみなどについて学ぶ授業であったが、毎回、授業の終盤には、「コンピューターに置き換えると…」「機械のシステムで言うと…」という展開になっていた。「人間がコンピューター⁉」と、慣れるまで若干、拒絶反応を起こしていた。しかし、今思うと、他学部の方々が、追究しようとしている関心テーマを知る機会であったし、人間の脳や身体のしくみを解析することで、コンピューターや情報技術を活用して、人間の暮らしをより豊かにするアプローチを模索されていることを間近で感じる経験であった。

また人間とは何か、社会における様々な課題に対して看護として何ができるか、何をすべきかを改めて考えるきっかけとなった。そして、他の学問分野における研究や知見を、医療や看護分野に柔軟に活用していかなければならないこと、あるいは看護学の知見が他の学問分野にも役立てられるようアピールしていかなければならないことを学んだ。

学部時代のこのような経験は、現在にもつながっている。人間が健やかに暮らし、成長していくことを支える看護においては、多角的な視点で対象を捉え、分析し、解決策を見出すことが重要である。高齢化や医療技術の進歩、社会の多様性が進み、人々の生活を取り巻く環境はますます複雑化している。これまでの看護の方法では解決できない課題や、より効果的な介入が求められる課題も山積していくと考えられる。そのため、多様な視点で、学際的な知見を融合し、創造的にエビデンスを構築しながらケアを生み出し、看護や医療の実践へとつなげていくことが急務であることを強く認識している。

慶應義塾大学では、2011年より医学部・看護医療学部・薬学部による医学系3学部合同教育プログラムが行われており、これももちろん、医療の専門職として非常に重要であるが、看護学の基礎をSFCで学ぶことも、同等に重要なものであると思う。最先端の技術を駆使し、常に自由で豊かな発想で、クリエイティブに問題解決の糸口を探究する風土が形成されているSFCにおいて、多様な領域の学問に触れ、課外活動も含めた様々な経験を通して、視野や関心を広げていくことは、社会の多様化、グローバル化に対して、創造的に挑戦し、未来を先導していく力を養うことにつながる。そのような環境で看護学を学ぶことの意義は非常に大きいだろう。

現在、看護医療学部の教員として学生に関わっているが、先日も学部4年生のプロジェクト(ゼミ)の報告会に参加した際、看護や医療に留まらず、経済学的な視点を交えて、収集したデータを考察していたり、自己の捉えた課題をユニークな視点で追究していたりなど、独自性に溢れた発表を聴くことができた。さすが、看護医療学部の学生だと心から感心したのと同時に、非常に刺激を受けた。私が学部生の頃から、学生の関心事や、学内外での様々な活動を、共に楽しみ、支援してくださる教員が大勢いらっしゃることも、看護医療学部の大きな強みである。

私自身、現在は信濃町キャンパスに所属し、主に臨床の場を研究のフィールドとしていることもあり、残念ながらこれまで述べてきたような学際的な活動はあまりできておらず、もどかしい気持ちであるが、いずれ、SFCの方々と協働して、研究や実践の活動に取り組みながら、看護学の専門家として人々の健康をサポートできるよう努力していきたい。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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