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【特集:SFC創設30年】
SFCとわたし:「ミネルバの森」がもたらした30周年の気づき、50周年への礎(いしずえ)

2020/10/07

  • 松田 龍太郎(まつだ りゅうたろう)

    SFC三田会代表、 株式会社oiseau代表取締役社長・2003環

私がSFCを2003年春に卒業し、丸17年。SFCは今年度30周年という記念すべき年度で、日吉キャンパスに構える日吉記念館リニューアルに伴う入学式、そして今夏、東京オリンピックが待ち構える年がスタート。僕にとっても卒業してから18年目の春、昨年より大学側と共同で立ち上げ、総合政策学部初代学部長であった加藤寛氏が退職時に当時の塾生に根付かせたメッセージ「ミネルバの森」を具現化した授業を、気合十分、進化させる年でもあった。

プロセスとして、塾生、卒業生、そしてキャンパスがある藤沢市遠藤地区と連携、SFC30周年特設科目として、一部卒業生にも参加、連携いただき、食をテーマに「生きる」ことを「つくる」「保証する」「演出する」を、SBC(スチューデントビルトキャンパス)を活用した合宿形式での授業「ミネルバの森」を開講する直前、そのすべての状況を変えた「COVID-19(以下コロナ)」の蔓延が世界的に始まった。

感染防止対策として、慶應の全てのキャンパスは封鎖、卒業式、入学式は中止、そして東京オリンピックも延期。さらに授業の全てを「オンライン」で実施するという新たな生活様式が始まったのだ。

その生活環境の中、この原稿を書かせていただいている時期に、ちょうど春学期の授業が全て終了した。4月末に授業が開講、7月まで開催された授業を振り返ると「オンラインならではの、授業・コミュニケーション」は、非常に示唆に富み、その授業を受講した塾生たちの反応が素晴らしく、新たな時代の幕が開いたと感じずにはいられなかった。

塾生の中には遠く離島から参加した学生もいれば、入学したばかりの新入生も積極的に受講、一度もSFCに通わず、春学期の全ての授業に参加し、単位を取得するという状況がもはや日常だった。大学教育における新たな視座を与える試みに帯同できたという認識とともに、絶えず問題発見と提案、その中での自問自答の繰り返しのさまは、まるでオフラインと同じように、相変わらずの「SFCらしさ」を見ることができたと感じている。

そもそも「ミネルバの森」という構想は「時代の波に呑まれ、疲れてしまった羽を休めるため、この藤沢、SFCに戻ってきてもらい、また学び直して次に進んで欲しい」と加藤氏が塾生に伝えた「親心」だと私は感じている。

しかし、卒業した私も17年の中で、そのミネルバの森の意識を感じず過ごしてきたことが大半で、2015年秋、先代よりSFC三田会の会長職を譲り受け、その任に就いた際、このミネルバの森という意識が、諸先輩ほど心中に根づいており、卒業してもなお「SFC」という場をリスペクトするさまを改めて感じた。

その気持ちを抱くのはなぜか。慶應義塾の他のキャンパスにはない親近感はどこにあるだろうか、と私自身も疑問と同時に、三田会代表として大いなる好奇心となった。また、昨年より両学部長もそれぞれSFC卒業生が担うことになり、より「学校と卒業生の連携が可視化」されるタイミングが近づいている。そういう認識もあり、不思議とSFCとの距離感が以前より近くなったという印象を感じている。これが、30周年を迎えた私自身の気づきであった。

だからこそ、塾生とSFC三田会の連携をもっと強くできるのではという気持ちが強くなった。コロナ禍がもたらしたオンラインへの可能性と、従前のオフラインが融合してもたらす、大きくいえば「つながりの可視化」の具現化がヒントと感じた。このコロナがもたらした環境こそが、次のつながりを生む財産になるはずだと。

在学時、僕が得た卒業生の評価は「なぜSFC生は早く会社を辞めてしまうのか」だった。一流大手企業の先輩らは早々に退職し、ベンチャー企業を創立、いわゆる「起業家」が多かった。僕らもつながりを持ちようにも持てなかったし、今ほどベンチャー企業に対するサポートや、SNSなどの共感に紐づいたファンは少なかった。だから一流大手企業への就職が主流だったが、実は諸先輩らは、退職した企業で培ったコネクションとネットワークを生かし、「新たなつながり」を作り始めていた。それが今、多くのベンチャーや新ビジネスにおいてSFC卒業生が大いに活躍している実情だと思う。

この春学期、授業を共にした塾生のほとんどは、僕が在学時に産声をあげた子たちだ。その塾生らが20年先にどんな人間でありたいか、今自分の時間をどのように活かすかを如実に今回の授業最終レポートで窺うことができ、とても感慨深かった。その成果はすぐに出てくるものではなく、これからの20年後、例えば「SFC50周年」に改めて気付くことができれば「ミネルバの森」の意識は続いている。この素晴らしい30周年の年に私は、ミネルバの森に戻り、新たな2020年を迎えているのだと確信している。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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