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【特集:SFC創設30年】
SFCとわたし:考え方を、考える

2020/10/07

  • 森 裕介(もり ゆうすけ)

    アマゾンジャパン合同会社マーケットプレイス事業企画部長・2007総

私の在学中にSFCは15周年を迎えました。あれから母校が倍の年齢になったかと思うと不思議な感じがします。卒業して10年も経った時に自分がどうなっているかなど、当時全く想像できていませんでした。ただその時々の環境変化に悩む中で、運良く目の前に出てきた選択肢から概ね満足できそうなものを選んできた結果が現在です。とはいえ、要所でSFCにおいて学んだ、「考え方を、考える」発想が役に立ったことは間違いないことだと思います。

SFCの特徴のうち、私が気に入っているものを2つ挙げたいと思います。1つは自由度の高さです。

SFCには必修科目があまりなく、1年生の春学期から好きなように時間割を組むことができます。加えて毎年何十もの学生団体が新たに組織され、学外での活動も常に推奨されます。活動の新陳代謝を加速させるように、興味関心に合わせて、初対面の先生とも簡単にオフィスアワーでお話しすることができます。これは素晴らしいことであり、一方で大変恐ろしいことでもあります。自分自身の方向性を入学初週から言語化できていないと、履修登録すらできないからです。

学生は自分が今何をしていて、これから何をしようとしているか常に問われます。同時に、級友に対しても同じ問いをかけます。その時の答えが面白いほど、仲間内での尊敬を集めます。SFCでは、どんな方向を向いているにせよ、「普通」から離れていればいるほどスクールカーストの上位に位置づけられるのです。ここは日陰者のオアシスです。

自由度の高さを当然視する態度の背景には、自分の頭で考えられない者への厳しさと、行動する者への寛容さがあります。外れ値が外れ値を呼ぶ中、先生方も事務室の皆さんも、学生の傍若無人に腹を立てたり肝を冷やしたりしていたことでしょう。今、思い当たる人はそれぞれに反省してください。でも、その空気感が、数多の世界で活躍する卒業生を育てた原動力になっているのだと思います。私自身が難しい選択を迫られるたびにも、自分がどうありたいかという問いに対し、常に答えを持っていることが役に立ちました。

もう1つ、私が気に入っている特徴は「問題発見・問題解決」の発想です。これは変化に対する対応力を高めます。

私は入学当時から、ぼんやりと「技術の発展」と「国際関係」をテーマに勉強したいと思っていました。卒論はインターネットガバナンスをテーマとしました。専攻は情報社会論と安全保障論です。今は新しい技術の影響評価と社会実装を専門としています。ここまで落とすには、「問題発見」のための長く苦しい思索がありました。それを乗り越えてこその楽しい研究に、私は多くの時間を注ぎました。

就職面接で必ず聞かれる「学生時代に注力したこと」には、正直に研究と答えていました。多くの面接官からは、珍しいね、と言われました。ひどい話です。憤慨して、楽しかったですよと返すと、大抵の日本企業から落とされました。やっぱりひどい話です。

結局最初の就職先に選んだのは米系のネットワーク機器メーカーです。主に公共営業として7年弱従事しました。その次は、もう少し売り物に縛られない提案ができる立場を探して、経営コンサルタントに就きました。5年弱勤務した後、成長領域で計画立案と実行の両立を図れる場所を探した結果、今は通販サイトの企画に携わっています。

どれも畑違いに見えるかもしれませんが、頭の使い方はさして変わりません。内外の状況を踏まえて、落とし所が「これ買ってください」なのか、「ここに投資しましょう」なのか、「これを目標にこんな施策を打ちます」なのかという違いだけです。いずれも大切なのは、問題発見と問題解決です。業種も製造業、サービス業、小売業と変わり、職種も営業、研究、企画と様々です。にもかかわらず、頭の使い方を基本的に変えずとも、かぶっている帽子を変えるだけで、仕事の内容に大きな違いが出てくるというのが面白いところです。問題発見とは取り組むべき課題を明確にする作業です。SFCで初めて身につけたこの技は、応用範囲が極めて広く、かくも柔軟性の高いものなのです。

時間と共にキャンパスにも様々な変化があることは承知しています。それでも自由な環境下で問題発見・問題解決を試みることは、SFCの役割の1つであり続けるでしょう。だから世の中で何が起きていても、どんなに校舎の見た目が変わっても、気持ちの上は通常営業でいるのだと思います。これからもSFCは変化の実験場であることを願っています。どうせ40周年目の時も、50周年目の時も、世界は混迷しているし、社会は激動の渦中にあるはずです。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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