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【特集:SFC創設30年】
SFCの情報技術教育

2020/10/06

現在のSFCの情報技術教育 ──カリキュラム改定

そこで今年度よりSFCでは、新入生を対象とした情報基礎科目で、これまでのJavascriptとHTMLを題材としたものに代わって、Python(パイソン)を主体としたものを導入している。Pythonは、データサイエンスでよく使われるプログラミング言語であるとともに、もちろんそれ以外のあらゆる分野で活用できる。ただしプログラミング言語の中では易しめの部類に入るスクリプト言語であることから、もともとプログラミングが得意な学生にはよりチャレンジングな選択肢を用意しておく必要がありそうだ。

またデータサイエンス科目と同様に、様々な応用分野に特化したプログラミング科目を設けて、学生が自らの研究に役立てられるようにすることも検討されている。例えば街とプログラミング、アートとプログラミング、あるいは経済とプログラミングなど、機械による計測や処理、可視化などを特定の領域に特化して取り上げることは、複数の学問分野をまたがるSFCでの学びに適している。

データサイエンス分野においても、これまで実施してきた応用領域ごとの授業を継続するとともに、手法とデータの双方にフォーカスした教育を推進していく。統計解析やデータマイニングの手法を授業で取り上げることは当然として、今後はそれが対象とするデータの独自性が重要となる。公的な研究機関等が整えた一般的なデータセット群に加えて、SFC独自のデータセット群を構築することが、特色ある研究・教育を推進する上で極めて重要である。

レアアースから特色ある物質が生まれるのと同様に、レアデータからは唯一無二の研究成果が生まれる。そこで現在、SFCが独自につながる様々な企業や自治体等と協力して、人や地域、社会に関するデータを網羅的に収集・整備する計画が始まっている。結果として構築される大規模データ基盤と、プログラミング科目、データサイエンス科目、および様々な一般科目とが相互に連携することで、SFCの教育・研究はより豊かになっていく。

同じく今年度、SFCでは一部を除く特別教室から全てのパソコンを撤去して、いわゆるBYOD(Bring Your Own Devices)をさらに推進した。もともとSFCでは学生が自分のノートパソコンを教室に持ち込んでノートを取ることが一般的だったが、新入生の情報技術科目は特別教室に設置したパソコンを用いて実施されていた。

しかしこのことは、前述のように、学生が自らのコンピュータを電子文房具として使いこなす力をスポイルする。そこでプログラミングを含む情報技術の授業においても、自らのパソコンに自ら環境を構築し、ウイルス等へのセキュリティ対策も自ら行うということを徹底することにした。学生はWindows でもMacでも、自分の好きなパソコンを入手すれば良いことになっている。このため情報技術の授業では、環境を統一できない分、授業の実施が複雑になる。今年度のオンライン授業では、それぞれ環境の異なる学生のパソコンで、教員やTA・SAが遠隔からプログラムの不具合に対応することは容易ではなかった。けれども、大学のパソコンに依存せずに情報技術科目の授業を実施可能としておいたことが、大きな問題なくオンライン授業を実施できたことの1つの要因だったと言える。

これからの30年

SFCが開設されて30年が経ち、その間に様々な技術が進歩した結果、これまでにないプログラミング教育やデータサイエンス教育が可能となっている。その一方でキャンパスの設備、特にキャンパス・ネットワークの設備は、開設当初と比較して機能的にはさほど変わっていない。これからの30年で、SFCにはまず大規模データ処理を可能とするクラウドシステム基盤が必要である。これを用いてものを定量的に考える力を高めることは、社会における問題発見・解決の能力に直結する。また、仮想化されたコンピュータや、その上で動くAIを自らのプロジェクトに役立てる力は、今後の社会で重要となるだろう。

次に、全く新しいコンピュータ・アーキテクチャに関する素養が必要となる。量子コンピュータのような革新的なアーキテクチャが可能とする新しい常識を学ぶことが、やはり問題発見・解決の能力に直結する。このような、総合政策学部、環境情報学部、政策・メディア研究科の卒業生に新しい力を生み出す教育とその基盤を見極めて、着実に実装していくことが、これからのSFCにおけるプログラミング教育とデータサイエンス教育で極めて重要となる。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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