【特集:慶應義塾の国際交流】
座談会:国際化をさらに進めるために何が必要か
2024/10/07
U7+アライアンス学長会議の経験
土屋 昨年2023年の3月、U7+アライアンス学長会議が三田キャンパスで開かれ、加盟大学の声を「東京声明:平和と安全保障のためのイノベーションを促すエンジンとしての大学」にまとめ、首相官邸で岸田文雄首相に手渡しました。
ライルズさんにも来ていただき、私たちは非常に緊密に協力しました。ライルズさんにはその後もいろいろな形で私たちの国際活動に関わっていただいていて、今年度の一部を慶應義塾のグローバル教授として過ごされています。
ライルズ まず、米国から見た慶應義塾の国際化の取り組みについてお話ししたいと思います。私たちは慶應義塾と様々な場所で様々な強い関係を築いていますが、特に強いのは医学部間のパートナーシップです。医学部生の交換が非常に活発で、ノースウェスタン大学の学生の多くが慶應義塾で研修を受けています。これは素晴らしいことです。
しかし、最近、私たちはいくつかのエキサイティングな新しい方法で協力関係を拡大しています。これは伊藤塾長と常任理事の土屋さんのリーダーシップのお蔭です。
また、グローバル本部事務長の隅田英子さんも本当に素晴らしい同僚です。彼ら彼女らのリーダーシップのもと、慶應義塾はU7+アライアンス学長会議のリーダーになりました。
これはG7諸国のトップ大学と、グローバル・サウスを代表するために追加された、いくつかの大学の連合です。このアライアンスには合計約50名の大学学長が参加しており、2023年にはアライアンスのすべての学長を慶應義塾が迎えました。それは多くの理由で注目に値することでした。
学長会議が慶應義塾で開催された、まさにその同じ日に慶應義塾は韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領を迎えていました。そして、なんとか伊藤塾長と土屋さんは50の大学の学長を1つのドアに、韓国の大統領を別のドアに入れることに成功したのです。それは本当に素晴らしいことでした。そして、キャンパスで最も重要なゲストであるかのように、誰もが歓迎されていると感じました。本当に素晴らしかったです。
この会議の年は広島でのG7首脳会議の年でもあり、その会議のテーマは安全、世界平和、安全保障でした。そこで私は、土屋さんと協力して、これらの大学の代表者からなる委員会を招集し、全学長が署名した声明を起草するという栄誉に浴しました。声明では、世界平和と安全保障を主導する上での大学の役割や、私たちができることについて語られ、それが首相に渡され、その文言の一部は実際にG7コミュニケに盛り込まれました。
私たちはとても嬉しかったのですが、それはすべて、土屋さんが裏で働き、あらゆる人間関係に働きかけて、すべてが上手くいくようにしてくれたおかげです。慶應義塾が日本政府といかに緊密に連携しているかは、外部の私たちにとって非常に印象的でした。アメリカの大学では必ずしもそうではないからです。
土屋 優しいお言葉を有り難うございます。
ライルズ これは日本の大学にとって非常に重要な瞬間だったと思います。今はアメリカの大学がリーダーシップから少し後退していて、日本の大学が前に出て、世界にリーダーシップを発揮する絶好の機会です。慶應義塾はまさにそのビジョンを持っていると思います。
そして、U7+アライアンスでは、伊藤塾長と慶應義塾、そして土屋さんのリーダーシップに多大な尊敬の念を抱いており、慶應義塾のリーダーシップのもとで将来進んでいくことを心から期待しています。
最高の研究者を集めるために
土屋 QS世界大学ランキングでは、ノースウェスタン大学は世界第50位です。これは素晴らしいことです。ノースウェスタン大学には2万466人の学生がおり、慶應義塾大学には3万3437人の学生がいますが、慶應義塾大学の留学生の割合は9.3%です。ノースウェスタン大学は22.2%で、大学院レベルでは留学生が80%を占めています。アメリカの大学が留学生を集めるのは簡単なのでしょうか。
ライルズ 私たちの役割はできる限り最高の研究を行うことです。つまり、出身がどこであるかにかかわらず世界最高の研究者を揃える必要があります。私たちはただ最高のものを求めています。ですから、おっしゃる通り、大学院生のほとんどが米国生まれではありませんが、それは私たちにとってまったく問題ありません。
最近は難しくなっていることもあります。研究室に中国人学生を受け入れる規制がはるかに複雑になっているのです。ビザ取得が思ったほど簡単ではないこともあります。10年前とは環境が変わっています。
しかし、国際関係の仕事に携わるもの、さらにすべての教員は、これは良いことではないと考えています。人々が自由に移動し、米国で過ごすことで世界はより良くなるわけですから。そして、彼らが米国を好きになり、国に戻って米国を支持してくれることを願います。それは私たちの国にとって良いことなのです。また、最も優秀な人たちが私たちと一緒にいることは科学研究にとっても良いことです。
そうした人々の多くは、卒業後も米国に留まるという結果も出ています。それは良いことです。なぜなら、そうすれば、私たちの国で世界最高の頭脳が私たちのプロジェクトに取り組むことになるからです。ですから、私は政治情勢が少し落ち着き、国と国の間が以前と同じようにオープンになることを願っています。
バンミーター 私は慶應義塾大学の量子コンピューティングセンターの副センター長を務めています。そして、私たちは過去20年間、商業的な競争と国家安全保障上の懸念の両方に対する関心が高まるのを見てきました。
そして、それが現在の地政学的緊張と相まって、契約上許可されていて、国籍に基づいて誰と研究を行うことができるのか、それが許されていたものについても、多くの反発や変更を受けています。当初は、国籍は関係ないと言われていたのです。日本で合法的な学生ビザで滞在している限り、研究に参加できるはずです。これらの規則は、私が気に入らない方法でここ数年変更されてきました。
ライルズ 私たちの大学では、他の大学とは異なり、機密研究は行いません。私たちの研究はすべて公開研究です。ですから、アソシエート・プロボストとしての私の立場は、政府に対して、もしそれが非公開であるべきだと考えるなら、それを機密扱いにしてください、そうすれば私たちはそれを行いません、ということです。その研究を機密扱いにしたくないのであれば、誰でも取り組めるようにすべきです。
バンミーター 110%賛成です。私は自分のグループの学生の国籍や、特定の研究への参加が許されるのかどうかを確認するよう求められていますが、私は個人として彼らの国籍情報にアクセスできません。
学生が学生ビザを必要とする場合、学生部の誰かがそれを手伝います。しかし、彼らがすでに他のビザで日本に居住していたり、二重国籍を持っている場合、私の知る限り、それを調べていません。今、私は伝聞に基づいて、誰が量子コンピューターを使用できるのか、誰が使用できないのかを決定するよう求められています。
国際化のカギとなるもの
土屋 3つ目の質問に行きたいと思います。これからの大学のあり方についてビジョンやアドバイス、希望、要求、不満などを教えてください。未来の大学とはどのようなもので、慶應義塾は何をすべきでしょうか。
三木 私たちは世界中の人々の循環を促進しなければなりません。私は、慶應義塾が、学部生、修士学生や博士学生、さらには研究者や教員の世界的な循環のハブになってほしいと心から願っています。世界中の人々が研究や交流のために慶應義塾に立ち寄るのです。そして彼らと交流することで、慶應義塾の学生も世界に出ていく準備ができます。
例えば博士課程修了後、海外に渡り、そこでポスドクをし、その後世界のどこかで仕事を得ます。すぐでなくとも、20年後に彼らは日本に戻ってきて国に貢献してくれるかもしれません。それは素晴らしいことではないでしょうか。私たちはすぐにそのような環境を整えなければなりません。
慶應義塾は福澤諭吉によって創立されたのですから、私たちこそ国際化を高く評価しなければなりません。彼はアメリカやヨーロッパに行った最初の日本人の1人です。慶應義塾が学生や研究者の国際的な循環を支える良い一部となることが私の希望です。
また、日本の経済が大きく後退している中、ポスドクの給料の話をしなければなりません。ポスドクの給料というのはおおよそその地域の最低賃金なのですが、例えば現在のMITに雇用されているポスドクの最低給与は7万ドル近く、日本円で1000万円なのです。わが国からの支援ではここまでの給与は出ません。経済的な支援をさらに行うか、もしくは現地の大学、プロジェクトに直接雇用されるように教育する必要があります。
土屋 バンミーターさんは慶應義塾の国際化について100の課題を挙げることができると思いますが、トップ3くらいを教えてくれますか。
バンミーター 日本の科学の進展を妨げているものは4つあり、そして、慶應義塾の将来はそのことと非常に密接な関係があると思います。
一番のポイントは、三木さんも触れたように大学院生に最低の賃金を支払うことさえデフォルトではないという事実です。デフォルトは何も払わないことで、そうではなくて教授に研究費がある場合、プロジェクトに取り組んでいる学生は時給1100円ほどをもらえるかもしれません。マクドナルドで働けばそれより稼げます。これは受け入れられる金額ではありません。そして少しのお金を払うためにも時間とエネルギー、背景の理解が必要で、常に不確実なのです。海外からの大学院生に生活賃金を約束しなければ、彼らは来ることができないでしょう。
私たちは学生に、入学後に数千ドルの追加の奨学金に応募できるかもしれないと伝えています。彼らは「たぶん」や「わからない」、「入学してから」というのでは、入学するかしないかの決定を下すことはできません。それは不可能です。
プリンストン大学では、すべての博士課程学生に給料として4万~4万5千ドル支払われます。今日の為替レート換算では600万~700万円近くになります。しかも授業料はかかりません。日本の大学院生は授業料を払わなければなりません。資金の問題が日本の科学全体に横たわる1番の問題です。
2番目は言語の問題です。私たちは矢上とSFCの両方で国際プログラムを正しい方向で展開してきたと思います。私が2007年にSFCに着任して以来、大学院政策・メディア研究科の学生の約25%は外国人学生だったと思いますが、彼らはいくつかのプログラムに集中することができ、他のプログラムではそうではなくなりました。
3番目の問題は「サイロ化」の問題です。サイロ化とは、学生が同じ大学に留まるということです。学部と大学院の間で学生の出入りをもっと流動化させる必要があります。他の大学院により多くの学生を送る必要があり、海外の大学からより多くの大学院生を受け入れる必要があります。
そして4番目は、慶應義塾が直接制御できるものではありませんが、日本の博士号取得者のキャリアパスが不明確であることです。日本では、博士号取得が米国ほど魅力的なキャリアパスではないと思います。日本では博士号取得者の多くが独立した研究者ではなく、比較的平凡なエンジニアリングの仕事に就いていると思います。
そして、私たちが話していないもう1つの大きな問題はジェンダーです。2013年から2023年の間に、日本の女性研究者の割合は14.6%から18.3%に増加しました。10年間で3.7%の増加です。つまり、このままだと男女比が均衡するまでにはさらに80年かかるということで、これは受け入れられないことです。私たちはその問題を解決する方法を見つけなければなりません。私の研究分野であるコンピューターサイエンスと物理学では、さらに悪い状況です。
2024年10月号
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