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【特集:慶應義塾の国際交流】
座談会:国際化をさらに進めるために何が必要か

2024/10/07

国際的な課題解決のための拠点に

土屋 ライルズさん、慶應や他の日本の大学へのアドバイスをお願いしたいのですが。

ライルズ 私はアドバイスをする立場ではないですが、この座談会に科学者が2人参加しているのは興味深いことだと思います。なぜなら、現在、多くのグローバルな仕事の重心が伝統的な社会科学から科学技術に移っていると思うからです。

私の専門分野ではありませんが、おそらくこれらの分野は、グローバルな使命を理解し、グローバルに行われている活動の中心により位置づけられるべきである、ということを心に留めておくことが重要なのだと思います。私は、三木さんの「グローバルなハブになる」という考えが大好きです。慶應義塾は間違いなくグローバルな拠点になれると思います。

国際化に関するデータを見ると、学生交流の問題以外にも多くの問題があります。共同執筆や共同研究という本当に難しいことに比べれば、交流は比較的簡単です。共同研究が始まれば、学生交流は自然に起こります。教員、ポスドク、大学院生、そして学部生の流動性を備えた分野を横断した共同研究の拠点になることは、まさに「ゴールド・スタンダード」だと思います。

次の大きなステップは、いくつかの大きなグローバルな課題を特定することです。つまり、気候危機をどう解決するか、AIが兵器産業を運営するようになる世界でセキュリティをどう確保するか、デジタル世界で市民がどのように情報に適切にアクセスできるようにするか、といった問題があります。

どんな問題でも構いませんが、世界中の誰もが理解できる大きな問題を選んでください。そうすれば、こうした問題に関する研究拠点となることができ、その問題を理解し、変化を起こしたいなら、慶應に行かなければならない、ということになるでしょう。

それが、将来に向けて慶應を確立していく方法になると思います。政府や産業界との関係が深い慶應なら実現可能です。もちろん、研究は極めて優れているわけですから。

多様性を理解するための国際化

土屋 「QS世界大学ランキング2024」で研究分野別に見た場合、慶應義塾大学は人文学と社会科学で良いスコアが出ています。なかでも、Classics & Ancient History(古典と古代史)が非常に高く評価されていることに驚いています。大串さん、この結果も見ながら、慶應はこれからどのようにすべきでしょうか。

大串 古典と古代史に関しては、慶應は中世ヨーロッパ研究が非常に有名で、本塾の図書館にはグーテンベルク聖書をはじめとした稀覯本の所蔵があることとも無関係ではないでしょう。本塾が誇る非常に重要な分野だと思います。

おそらく私のコメントは、国際センター所長としてではなく、人文学者としてのコメントになります。ここまで言われていたようなデータや数字などの目に見える目標は、重要なものですし、理解しやすいものだと思います。しかし、私にとって国際化の最も重要な点は、可視化されない心の問題にあります。それは人間のまさに基礎となるものです。

私は学生たちに、私たちの外にはどれほど多くの異なる世界があるかを知るためにも、海外に行ってほしいと思っています。そして、今自分が見ている世界が、自分が住んでいる世界が、唯一の世界ではないことを知ってもらいたいのです。

言語の面では英語が支配的ですが、世界にはたくさんの言語があり、たくさんの異なる文化があります。異なる文化間の知識は、異なる視点を得るための基礎だと思います。自分が見ている世界の外に、どれほど多様な文化や思考、生活があるのかを知ることが重要だと思うのです。

国際的な経験とは、自分が持っている価値観を壊し、新たな価値観を再構築することだと思います。それが国際化とグローバル化のまさに基礎だと思います。

他の文化や異なる世界に対して寛容になることも重要だと思います。自分なりの価値観を持つことは良いことですが、世界に対して寛容になってはじめて見えてくるものもあります。そしてまた、自分も「他者」として見られることを意識することも必要だと思います。そのことが性別やセクシュアリティ、階級、人種、エスニシティーなどの多様性の理解につながっていくのではないでしょうか。

だからこそ、私は学生たちに、彼らが知る世界とは異なる世界についてもっと知ってほしいのです。ナイーブに聞こえるかもしれませんが、人文学者として、このことは言い続ける必要があると思います。

世界中で紛争があり、抵抗運動があり、改革への叫びがあります。解決は難しいかもしれませんが、私たちはその背景を知り、なぜそれに取り組んでいるのかを知る必要があります。国際化、グローバリゼーションには、そのような背景を考える力を養うことができると思います。

土屋 今日はとても素晴らしい議論をすることができました。ご参加いただき、有り難うございました。

(2024年7月24日、オンラインにより収録。英語で行われた討論を和訳・編集して掲載した。)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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