【特集:慶應義塾の国際交流】
中妻 照雄:次世代のグローバルリーダーを育てるCEMS MIMプログラム
2024/10/07
CEMS MIMプログラムの概要と歴史
拙稿では日本から唯一の加盟校として慶應義塾大学が参加しているCEMS MIM(セムズ・ミム)プログラムの概要とその魅力についてご紹介します。
CEMS(セムズ)は世界トップレベルの大学(ビジネススクール)やグローバル企業、非政府組織(NGO)が参加する国際的なネットワークで、国際経営に特化した実践的な修士プログラム、CEMS MIMプログラム(以下、本プログラム)を提供しています。MIMはMaster in International Management の略称であり、本プログラムを修了すると国際経営学修士号が授与されます。本プログラムは、世界大学ランキングとして有名なQS World University Rankingsの経営学修士部門において2024年に第11位にランクインするなど、世界トップレベルの経営学修士プログラムとして高く評価されています。
もともとCEMSは欧州にあるビジネススクールのネットワークとして1988年に設立されました。その後、CEMSは欧州の外へと拡大し、アジア、アフリカ、南北アメリカ、オーストラリアと全ての大陸に加盟校を増やしてきました。CEMSに各国から加盟できるのは原則として1校のみです。CEMS発祥の地である欧州からは、LSE(イギリス)、HEC(フランス)、ボッコーニ大学(イタリア)、ケルン大学(ドイツ)などの有力校が加盟しています。さらに米国からはコーネル大学、中国からは精華大学、韓国からは高麗大学、シンガポールからはシンガポール国立大学、オーストラリアからはシドニー大学という錚々たる加盟校がCEMSに名を連ねています。2024年現在の加盟校の総数は33です。そして、日本からは2010年より慶應義塾大学のみがCEMSに加盟しています。
CEMSの大きな特徴は、単なるビジネススクールの連合体ではないということです。経営学の修士プログラムを実践的なものとするためには、実務に関する豊富な経験を持つ企業の協力が必要不可欠です。そこで、CEMSのネットワークには70社を超えるグローバル企業がコーポレート・パートナー(以下、CEMS提携企業)として加盟しており、CEMSの組織運営のための資金を提供するだけでなく、インターンシップの受け入れやプロジェクト型授業への協力など本プログラムを物心両面で支援しています。さらには昨今の社会課題解決に対する要請の高まりを受けて、WWFを始めとする8つの国際的なNGOもCEMSに加盟しています。
これらCEMS提携企業などと連携しつつ、本プログラムは、気候変動、格差と分断といった深刻な社会課題に直面しているグローバル社会において、よりオープンで、持続可能な、そして、協調的な世界の発展に貢献し得る、良識あるリーダーの育成を目的としています。これは福澤諭吉が「慶應義塾の目的」で唱えた「気品の泉源、智徳の模範」たること、そして「全社会の先導者」を育て世に送り出すという慶應義塾のミッションと合致するものであるといえます。
CEMS MIMプログラムの仕組みと特色あるカリキュラム
次に本プログラムの仕組みについて説明します。まず重要な点ですが、本プログラムは単体の修士課程ではありません。このプログラムに参加し修了要件を満たした学生は、CEMSに加盟する所属校(例えば慶應義塾大学)の修士号と同時にCEMSが認定する国際経営学修士号を取得できるダブルディグリー・プログラムとなっています。そのため本プログラムに参加する学生(以下、CEMS生)は、まずCEMS加盟校に入学しなければなりません。慶應義塾大学では、経済学研究科・商学研究科・メディアデザイン研究科の修士課程に在籍する学生が本プログラムに参加することができます。このプログラムに慶應から参加する大きなメリットとして、学費を留学先の現地校ではなく所属校である慶應に納入すればよいことがあげられます。海外のビジネススクールの学費が高騰していることを考慮すると、慶應の学費で国際経営学修士号を取得できるのは大変魅力的なプログラムといえます。
本プログラムは、約1年間、3つの学期(ターム1、ターム2およびターム3)で構成されます。まずCEMS生は、ターム1とターム2にわたりCEMS科目を履修し、後述するビジネスプロジェクトなどに参加します。そして、ターム3では企業での8週間連続インターンシップにより実務経験を積みます。慶應から派遣されるCEMS生にとって、ターム1は派遣年の秋学期、ターム2は翌年の春学期に相当し、春学期終了後の夏休みにインターンシップを行うことになります。CEMS生はこれら3学期のうち2学期間を所属校がある国以外の国で履修することが義務付けられています。さらに交換留学が2学期間(ターム1とターム2)にわたる場合は、それぞれの学期で別のCEMS加盟校に留学することになります。例えば、ターム1にロンドンにあるLSEに留学し、ターム2ではシンガポール国立大学で学ぶということができます。また、CEMS生は、グローバルに活躍できる人材となるために、授業言語である英語に加えて2つの言語(母語を含む)を修得しなければなりません。
以上説明したように、本プログラムのカリキュラムには交換留学と語学学習が必須のものとして組み込まれているため、異なる文化的背景を持つCEMS生が同じ教室で肩を並べて学ぶ機会を得ることができます。そうすることで、CEMS生は多様性に富んだメンバーからなるチームをまとめられるリーダーに育つことになります。さらに本プログラムは、CEMS提携企業などと密に連携して、理論だけではなく実践にも強いプログラムを提供しており、各CEMS加盟校は、CEMSとして共通する高い質を保ちつつも、独自の強みを生かしたカリキュラムを組んでいます。慶應義塾大学では、経済学研究科、商学研究科、経営管理研究科、メディアデザイン研究科の4研究科より、幅広い分野のプログラムが英語で提供されています。
ここで本プログラムが提供する数ある科目の中から特徴的なものとして、「ビジネスプロジェクト」を紹介しましょう。これは、CEMS提携企業と直接協力し、現実のビジネス上の問題を解決するための提案をグループワークで行うプロジェクト型授業です。このビジネスプロジェクトでは、与えられた課題に対する解決策を見つけながら、その業界について深く学び、実践的なビジネス経験を積むことを目的としています。さらに、ビジネスプロジェクトは、国際的なマネジメントのための学習プログラムを共同で形成することで、大学とCEMS提携企業間のパートナーシップを強化する場でもあります。
CEMS MIMプログラムを通じた学生の国際交流とキャリア支援
本プログラムは、交換留学プログラムという性格上、各CEMS加盟校は他の加盟校からの学生受け入れを積極的に行っています。特に日本は留学先として人気の高い国であるため、慶應義塾大学では毎学期定員がほぼ埋まるほどの盛況を呈しています。
ここでCEMSネットワーク全体における国際交流の規模と多様性について少し説明しましょう。現在、本プログラムでは、世界80カ国近くの国々から毎年1300人を超える学生を受け入れています。しかも学生の男女比は50:50であり、極めて多様性に富んだ学習環境が提供されるプログラムとなっています。さらに35年に及ぶ歴史の中で、本プログラムの修了生は2万人を超え、その国籍は100カ国を超えるところまで成長してきました。本プログラムは国際的に極めて高い評価を受けているため、CEMS提携企業に限らず、数多くのグローバル企業からも大きな信頼を得ており、現在、多数のCEMS卒業生が世界中で活躍しています。就職先もコンサルティング会社、テクノロジー企業、金融機関など多岐にわたっています。
このようにCEMS生の就職がうまくいっている理由は、CEMS提携企業を中心とした様々な企業との接点を持つ機会にCEMS生が恵まれているからです。まず最も重要でかつ最大規模のキャリア支援イベントとして、CEMS生限定のキャリアフォーラムがあります。対面のキャリアフォーラムは例年11月にスペインで開催されていて、世界中のCEMS提携企業が参加します。そして、CEMS生および卒業生は企業担当者と直接話すことができるほか、企業による採用面接の機会が与えられます。加えて3月には5日間にわたってオンラインのキャリアフォーラムが開催されています。CEMS提携企業にとっても、年に2回、CEMS生と卒業生に直接リーチできる機会が用意されていることになります。CEMS全体のキャリアフォーラム以外にも、地域限定キャリアイベントが年に数回、地域別に開催されています。さらにCEMS生および卒業生には、オンライン上に履歴書を登録し、管理できるシステムが提供されています。履歴書はCEMS提携企業の担当者にも公開されており、担当者は直接本人に連絡することができます。これに加えて、CEMS提携企業がCEMS生および卒業生限定の求人情報を公開しているオンライン掲示板も用意されています。
このようなキャリア支援の仕組みを活用できるのはCEMS生だけのメリットではありません。企業の立場から見ると、CEMSが提供するキャリア支援の仕組みは、極めて優秀で多様なCEMS生と卒業生を採用できる絶好の機会といえるでしょう。CEMS提携企業となるためにはCEMS本部に年会費を2万5千ユーロ(2026年より2万6千ユーロ)納める必要があります。しかし、CEMS提携企業となることで、世界中に散らばる1300人を超えるCEMS生と2万人を超える卒業生にリーチできるため、費用対効果は高いと言えます。拙稿を読まれた企業関係者の皆様は、ぜひCEMSへの加盟をご検討ください。CEMSについての詳しい情報は、こちらをご参照ください。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
2024年10月号
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中妻 照雄(なかつま てるお)
慶應義塾大学大学院経済学研究科委員長