【特集:慶應義塾の国際交流】
座談会:国際化をさらに進めるために何が必要か
2024/10/07
矢上の多彩なプログラム
土屋 矢上の理工学部以外にももちろん慶應義塾のダブルディグリープログラムがあります。でも、なぜ矢上キャンパスにはこれほど多いのですか。
三木 これまでの国際交流委員長のおかげです。海外の大学とよい関係を築くには非常に長い時間がかかり、基本的には個人的、属人的な関係に基づいています。欧州の大学と理工学部が結んだ最も古い協定は、ドイツのアーヘン工科大学とのもので、1956年に遡ります。
また2003年にIGP(国際大学院プログラム)を開始しました。2005年にはフランスのÉcole Centrale Groupとのダブルディグリープログラムを開始しました。2007年には、T.I.M.E.Association(エンジニアリング分野のトップ大学による大学院ダブルディグリープログラムの枠組み)に加盟しました。この5年行っているJEMARO(Japan-EU 高度ロボティクスマスタプログラム)は、少し異なるタイプのダブルディグリープログラムで、ロボット工学分野に特化したものです。このようなプログラムのどれもが、長いコラボレーションの歴史に基づいています。
土屋 科学技術分野では英語で論文を書かなければならないですよね。人文社会科学と比べると、学生は英語に慣れていますか。
三木 それは正直よくわかりません。IGPは2003年に始まり、英語で行う授業を留学生向けに用意し、日本語ができない留学生も慶應に来られるようになりました。これは大きな前進だったと思います。今でも英語で講義することに前向きでない教員もいますが、当時の学部長や国際関係の中核メンバーの強いリーダーシップがあったと思います。
もう1つの問題は、学部に国際プログラムがないことです。学部では英語で教えている授業がほとんどないからです。
現在、特にアジアの大学では、学部での国際プログラムを積極的に推進しています。たとえば、IISMA(Indonesian International StudentMobility Awards)はインドネシアのプログラムで、多くの学生を海外に派遣しています。SFCには7人のIISMAの学生がいます。今年理工学部で2人のIISMA学生を受け入れる予定です。
ただそのためには英語で行う授業を準備する必要があります。幸い、私が主任を務める機械工学科は国際化に非常に積極的で、十分な数の英語の授業を用意し、留学生を受け入れる準備ができました。今後、理工学部として何ができるかをさらに検討する必要があります。
なぜ英語のプログラムが学内に必要か
バンミーター 特に学部の国際化プログラムについて話す際の重要なポイントの1つですが、PEARLとGIGAは、プログラムを立ち上げる際に2つの非常に異なるアーキテクチャの選択をしました。
GIGAプログラムはPEARLプログラムよりも数年前に設立されました。私たちは開始時にGIGAの学生をキャンパス全体の生活に直接統合することを決定しましたが、PEARLプログラムでは、PEARLプログラム自体と通常の経済学部の学位取得課程の間に壁があります。
私が皆に伝えていることの1つは、教員やスタッフが、なぜ少数の学生のために、英語での授業やプログラムを設置するのかを必死に訴える必要があるということです。確かに、私たちは留学生の数を増やすべきですが、これは入ってくる留学生のためだけに行っているのではないのです。私たちは日本人学生のためにも行っているのです。
英語を母国語とする私が、大多数の人が英語で育っていない国で、自分の言語を話すべきだ、と言うことはセンシティブなことです。しかし、ご存知のように、17世紀には科学をしたいならラテン語でした。18世紀に外交をしたいならフランス語でした。19世紀から20世紀初頭にかけては、工学や科学をしたいならドイツ語でした。戦後は、外交、ビジネス、科学、工学はすべて英語です。
私たちは日本の次世代のリーダーを教育しているので、そのリーダーはグローバルな環境で働く必要があります。彼らの中には英語以外の言語を学ぶことを選択する人もいますが、しかし、ほとんどの学生はキャリアのどこかの時点で英語が必要になります。
三木 多様性ということが非常に重要なのだと思います。私は体育会スケート部の部長を務めていますが、その活動の中でGIGA、PEARLプログラムの学生と出会いました。これらの学生は他の日本人学生と異なる背景を持ち、それゆえ異なる見方、ビジョンを持っています。このようなGIGAやPEARLの学生に、日本国内の学生とコミュニケーションをとってもらい、彼らの視野を広めてもらいたいと強く願っています。
日本では、多様性と言うと、男性と女性の比率の問題だけのように思われることがあります。もちろんこれも重要な問題です。しかし、日本に本当に足りない多様性は国際性です。米国では、たとえ教室の学生がすべてアメリカ人であっても、彼らの背景はまったく異なります。白人、アフリカ系アメリカ人、アジア系、中東やインドなどをルーツとする学生もいます。同じアメリカ人でも非常に多様なのです。
しかし、日本の教室、特に学部の教室では99%が日本人で、非常に似たような家庭で暮らし、同じような年齢で、多くは関東圏から来ています。多様性は革新を生み出します。私たちは異なる背景を持つ学生を受け入れなければなりません。
バンミーター SFCでは、私の現在の研究グループは約40人ですが、皆で17の異なるパスポートを持っていますよ。
2024年10月号
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