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【KEIO Report】U7+ アライアンス学長会議開催――平和と安全保障のための教育研究に投資を

2023/05/10

東館での会議
  • 土屋 大洋(つちや もとひろ)

    慶應義塾常任理事

2022年5月、伊藤公平塾長とともに英国出張中だった私は、ロンドンのホテルのロビーでリモート会議に参加していた。スクリーンにはU7+ アライアンス(以下U7+)の幹事校の担当者たちが並んでいる。「2023年のG7サミットは広島で開かれる。U7+ アライアンスの学長会議は慶應義塾大学でホストし、平和と安全保障をテーマにしたい」と提案した。会議を抜けてしばらくすると、「来年、東京で会いましょう」と連絡が来た。

この背景を説明するのにはいささか紙幅を要する。G7とは先進7カ国首脳会議のことである。2021年は英国、2022年はドイツで開かれ、2023年は日本の広島で開催されることが決まっていた。広島は言うまでもなく岸田文雄首相の選挙区であり、核兵器による最初の被爆地でもある。2022年2月から始まったロシアによるウクライナ侵攻では、たびたびロシアのプーチン大統領が核の使用を示唆し、この数十年間ほとんど考えにくかった核兵器の使用の可能性が一気に高まった。

G7に関連して、エンゲージメント・グループと呼ばれる、G7への提言を目指す団体が存在する。財界によるB7(ビジネス7)、フェミニストによるW7(ウィメン7)、労働者団体によるL7(レイバー7)などだ。G7のホスト国の意向次第でそれらが公式エンゲージメント・グループに認定される場合もあるが、一般的には各国の関係者・団体による任意団体である。

慶應義塾大学が参加するU7+ は、2019年にフランスのビアリッツ・サミットの際に結成された。フランスのマクロン大統領が、フランスの有力大学であるパリ政治学院に呼びかけ、大学(ユニバーシティ)からなるU7の提案を求めたのが始まりである。しかし、U7はG7に参加する7カ国に閉じず、グローバル・サウスも含む他の国々にも門戸を開いた。そのため、U7の後ろに「+」が付く。ただし、参加大学は民主主義国に所在する大学に限っている。世界40大学以上が積極的に参加しており、日本からは慶應義塾大学、東京大学、大阪大学、一橋大学が参加している。

U7+は、フランス・ビアリッツ・サミットの後、2020年の米国、21年の英国のコーンウォールのサミットにおいては、新型コロナウイルスによるパンデミックのため、オンラインで学長会議を開催せざるを得なかった。22年はドイツでG7サミットは開かれたが、直前まで新型コロナウイルスの影響を見極めるのが難しかった。そこで急遽、ドイツではなくフランスのコートダジュール大学でU7+ 学長会議が開催された。その意味で、23年の慶應義塾大学でのU7+学長会議が、コロナ禍後の学長会議とG7へのエンゲージメントの本格的再開という位置付けにあった。

慶應義塾大学での開催が決まった後、毎週のように幹事校の担当者たちとオンライン会議を重ねた。

そして、広島で開催されるG7サミットに合わせ、平和と安全保障に関するワーキング・グループを新設することにした。ここには日本の知り合いの研究者たちが多く参加してくれたので心強かった。並行して外務省を通じて岸田首相との面会も数カ月前から準備を重ねた。

G7サミットが開かれるのは5月19日から21日である。しかし、その直前にU7+ からインプットしても、G7の検討には入らないだろう。政府関係者に聞いてみると、1月から意見は受け付けるという。しかし、1月と2月は日本の大学にとっては受験シーズンで忙しい。そこで、3月16日と17日を三田キャンパスでの会議開催日に設定した。

ワーキング・グループの下案がまとまったのは2月に入ってからだった。それから幹事校の担当者たちに回覧したところ、あれこれと注文が入った。ようやくそれらが収束した後、U7+ 加盟大学全てに回覧したところ、さらに多様な意見が入り、最終案がまとまったのは学長会議直前だった。

ほっとしたのもつかの間、物事はなかなかうまく運ばない。本来であれば、学長会議に参加する多くの学長たちで岸田首相に面会したいと考えていた。そこに、韓国の尹錫悦大統領来日が重なってしまい、首相の日程が急にきつくなったのだ。そのため、U7+の学長がまだほとんど東京に来ていない段階で、3人の学長だけで首相官邸に行くことになった(驚くべきことに尹大統領は3月17日に三田キャンパスで学生との対話を行うことになる)。官邸で面会した岸田首相は我々の話を好意的に受け止めてくださった。大学での研究成果を政策決定に活かし、戦争や地域紛争によって学ぶ機会を奪われた若者への支援をG7首脳たちに求めるとともに、私たち大学は平和と安全保障のイノベーションを生み出すエンジンになることを約す文書を手渡した。参加できた学長の数が少なかった点は残念だが、首相が時間をくださったのはありがたいことだ。

学長たちが揃った16日と17日の会議は、平和と安全保障、学問の自由と表現の自由、高等教育へのアクセスといったテーマについて熱心な議論を行った。国際文化会館で行った夕食会では、関係国の駐日大使も参加し、サミットのシェルパを務める小野啓一外務審議官も広島サミットについて説明してくださった。

G7首脳たちが私たちの提言をどこまで受け止めてくれるのかはまだ分からない。しかし、各大学の学長たちは自分の国に戻り、自国の政府への働きかけを約束して解散した。10カ月の準備はとても大変だったが、慶應義塾のグローバル本部を中心とする教職員が力を合わせてU7+ 学長会議を成功裏に終えることができたのは大きな成果である。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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