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【特集:新春対談】
新春対談:ポストコロナへ向けた大学のあり方

2021/01/08

女性活躍をサポートするシステム

長谷山 もう1つ、働き方改革ということが社会で言われています。大学にとっても教職員、特に職員の働き方が大きく変わっていくので、それに向けたいろいろな制度改革をしなければいけないと思っています。女性活躍ということでいうと、慶應義塾は教員も女性が多いですが、職員部門でも幹部に割と女性が多い。しかし、中堅層ぐらいの管理職が少ないので、これはまだ育児支援などいろいろな面で支援策が必要で、女性が力を発揮できるように慶應内部の働き方改革を加速していかなければいけないと思っています。

中谷 ぜひお願いします。そうしなければ、慶應を出た有能な女性が皆外に行ってしまいます。

実際、国際機関で働いている慶應の卒業生は女性が多いのです。例を言えば、ビル&メリンダ・ゲイツ財団の日本常駐代表、WIPO(世界知的所有権機関)のリーガルオフィサーで日・米両国の弁護士資格も持っている方も女性塾員です。それから先輩としては、国連退職者のOB・OG会があるのですが、会長を文学部社会学科を出られた伊勢桃代さんが長らく務められてきました。

国際機関は日本よりもガラスの天井がない感じで、日本人職員の7割近くが女性ではないでしょうか。国内を改革しないと、海外のほうが働きやすいと感じて、優秀な人材こそどんどんブレーンドレインをしてしまうのではないかと恐れます。

長谷山 本当にそうですね。2017年は世界銀行女性CEOのゲオルギエヴァさんが慶應に来られて講演してくださり、学生にもっと国際機関へいらっしゃいというお話をしてくださった。2019年にはドイツのメルケル首相も来られて学生といろいろな討論をしていただいたのです。

その中で女性が役員とか、リーダーとして活躍する上で何が必要か、とある女子学生がメルケル首相に問いましたら、もし将来管理職やリーダーの話がきたら、とにかくためらわずに引き受けなさいというアドバイスをされていた。この話のポイントは、女性自身の意識をさらに変えていくということもあるけれど、ためらわないですむようなサポートシステムをつくっていかなければいけないということです。

「30%Club」というイギリス発祥で企業の役員の女性を30%にすることを目指している団体があります。日本では「30%Club Japan」がつくられていて、そこのバイスチェアが慶應の卒業生で評議員・理事もお務めいただいている後藤順子さんです。後藤さんが「30%Club Japan」の創業者である只松美智子さんとお2人で私を訪ねてこられ、「30%Club Japan」の中に大学のグループをつくるので、参加してくれないかというお話でした。同じく塾員で義塾常任理事の岩波敦子さんのお勧めもあり、それはぜひということで私も「30%Club Japan」に名前を連ねているのです。

参加した以上は慶應義塾でも30%の目標を達成しなければいけないので、大変なことを引き受けてしまったと思うのですが、慶應卒の女性は皆元気が良いし、いろいろなところで頑張っていますので、塾長としても一緒に頑張っていきたいなという気にさせてくれますね。

中谷 女性の感性はこれから非常に重要になると思います。私自身、ボスはたいてい女性で充実した職業人として活動できました。WHOではマーガレット・チャンさんでしたし、厚生省でも横尾和子さんといって、社会保険庁の長官をしてから最後は最高裁の判事になった方が上司でした。彼女からは本当にいろいろ教えてもらいました。猛烈に仕事をされる方でしたが、いつも葉書を持っていて、少しの隙間時間に、「昨日はありがとうございました」と葉書を書いているのです。非常にヒューマンな方でした。

長谷山 そういう心遣いは本当に心に響きますよね。昨年、連合三田会会長が交代して、医学部出身の菅沼安嬉子さんが会長になられた。就任早々、連合三田会大会も自粛せざるを得なくて大変だったのですが、菅沼会長は、会員を励ますメッセージを発信したり、医療支援や学生支援の募金活動に力を入れて下さっています。今後も三田会をどのように盛り上げるか、いろいろ考えていかれると思うので大変期待しています。

コロナ時代を乗り切る学術の拠点

長谷山 今年は塾生たちも大変な目に遭ったわけですが、1つうれしかったのは、そういう中で塾生がいろいろな工夫をしてくれたことです。SFCでは1、2年生の有志が先端技術を駆使してバーチャル七夕祭を実現した。三田祭も三田のリアルの会場と観客をオンラインでつなぐハイブリッド型で開催されましたし、医学部では学生が大変詳細な感染防止ガイドラインをつくって、それを全塾協議会の学生がウェブ上で公開しました。制約の多い中で体育会の各部も輝かしい戦績をあげてくれました。

ただ大変だ大変だ、と言っているのではなく、いろいろな工夫をしてできることをどんどんやっていく。そういう気風がいろいろなところに見られたのはうれしく思っていますし、そういう塾生がもっと活躍できるようにしていかなければいけないと思います。

最後に1つ、新春ですので景気のいい話をしますと、いろいろな伝統の蓄積の上に次の進化を目指すという意味で、2021年の春には三田キャンパスに2つのミュージアムができます。一つは「福澤諭吉記念慶應義塾史展示館」と言い、慶應が過去に蓄積してきた学術史と、それから創立者福澤諭吉と慶應義塾を日本の近代化の中に正確に位置付けていくことを目指す展示館です。もう1つは「慶應義塾ミュージアム・コモンズ(KeMCo)」という、デジタル技術をふんだんに使って、アナログとデジタルの融合した学術コンテンツを展示配信することで、新しい教育、研究発信の拠点にするものです。

慶應義塾の培ってきた広い意味での人文学の蓄積と、先端的な技術、これを人文学か科学かという2項対立ではなく、両者が上手く融合して力を発揮する、新しいタイプの学術の拠点としたい。理系も文系も備えた総合大学として発展していく1つの象徴的な出来事だと思っています。

中谷 ぜひますます発展をされますように。今年はサンフランシスコ平和条約から70年ということで国際協調を回復する年でもありますので、国際的な学塾として激動の日本を先導されることを、OBとして大いに期待しています。

長谷山 本日はお忙しいところをどうも有り難うございました。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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