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【特別記事】メルケル首相、塾生と語る

2019/06/12

  • アンゲラ・メルケル

    ドイツ連邦共和国首相

  • 訳・注 三瓶 愼一(さんべ しんいち)

    慶應義塾大学法学部教授

長谷山塾長 皆さん、こんにちは。ドイツ連邦共和国のアンゲラ・メルケル首相をお迎えしております。皆さんもご存知だと思いますが、首相はドイツ連邦共和国初の女性首相であり、また現在の先進国首脳の中で最も在任期間が長く、この間ドイツ国内のみならず、EUを含む国際政治をリードしてこられました。現在ドイツはAIやIoTといった先端技術を活用した第4次産業革命、インダストリー4.0を掲げておりますし、また日本もソサエティ5.0という、サイバー空間と現実空間が融合した新しい社会の中で人々が幸福に生きる道を模索しています。

首相は博士号をお持ちの物理学の研究者でもいらして、学術研究にも大変造詣の深い方です。慶應義塾の学生の皆さんは、ぜひ首相と率直に意見を交換して、テクノロジーと人類が調和して生きていく未来に向けて議論をしてみてください。それではこの後の進行は首相にお願い致します。

メルケル首相 お招きいただき大変光栄です。時間も限られていますから、早速皆さんが考えてきてくださった質問をしていただきましょう。皆さんが勉強していること、関心を持っていること、知りたいことなど、いろいろと伺ってみたいと思い、こちらの大学に参りました。どんな質問でも結構ですよ。政治について、人生について、世界についてなど、臆することなくどうぞ。

日独の自由貿易での連携

学生1 私はケルン大学からの交換留学生です。日本とドイツは協働して、どのように米国に対峙できるでしょうか。日米関係の変化、あるいは独米や欧米の関係の変化の中で、特に貿易政策に関してはどのように協力できるでしょうか。

メルケル 日本とドイツは地理的に遠く離れていますが、共通点がいくつかあります。米国は北大西洋条約機構(NATO)におけるドイツの同盟国で、安全保障の後ろ盾であり、日本の安全保障も米国に依存するところが大変大きいというのも同じです。つまり貿易に関していろいろな困難があっても、米国との繋がりは非常に強いのです。日独とも米国と密接な経済関係にあり、私たちは最近の貿易問題に注目しています。日本はドイツと同様にアルミニウムと鉄鋼に追加関税を課せられ、対抗措置を講じなければならない状況にあります。

しかし私たちが現在、特に注目しているのは中国との貿易交渉です。というのも、中国と米国は二大プレーヤーであり、中国の動きに変化があり、消費が若干でも減速傾向になると、私たちはすぐにその影響を感じます。ドイツでは自動車産業においてこの変動を感じますし、日本でもファーウェイへの部品供給などで実感があるかもしれません。日独の経済は国際情勢に密接な関わりを持っており、だからこそ両国は多国間貿易体制を推進しているのです。

今夏、日本はG20の議長国を務めますが、世界貿易機関(WTO)の改革も重要な議題となるでしょう。この点に関しても日独には大きな共通点があるのです。

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