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【特別記事】メルケル首相、塾生と語る

2019/06/12

日本とドイツの協働について

学生8 マルティン・ルター=ハレ=ヴィッテンベルク大学からの交換留学生です。私の質問は、日本とドイツは経済政策を超えて国際レベルでどういう協働ができるかということに関してです。例えば、中国と台湾の対立や朝鮮半島南北の対立において、日本とドイツはどのようにしたら協働して仲介的役割を果たせるでしょうか。

メルケル 日本とドイツはいろいろなことで協働していけると思います。昨日は(日独首脳会談で)、G5サヘル諸国、つまりニジェール、モーリタニア、マリなどで共通の開発援助を行っていくことを確認しました*7。そもそも日本の開発援助政策からは学ぶところが多いと思います。日本で行われる次回のアフリカ開発会議に、ドイツからも開発援助担当大臣を派遣することで合意しました。日本はこれまで東アフリカを中心に、ドイツは西アフリカを中心に幅広く援助を進めてきましたが、開発援助の方法などについて情報交換ができます。

中国に対しては、東シナ海における日本との対立について日本と意見が一致しています。日本と韓国との対立に関しては、ドイツは、日本が韓国に向けて行っている要請を支持することしかできません。私たちは過去の問題を清算することに賛成です。従軍慰安婦問題など、日韓の歴史に重くのしかかっている問題がありますが、ドイツとしては、どのように自国の犯した問題を解決してきたかをお伝えしていく以上のことはできません。

他方で、北朝鮮に拉致された日本人の問題の解決が成功裡に実現することを望んでいます。また、朝鮮半島の非核化が持続的に行われること、その際に第三者の負担を前提とするような条約が締結されたり、約束を聞くだけに留まったりするようなことがないように、日本とともに常に力を注いでいきます。北朝鮮の核兵器の存在は日本への直接的脅威なのですから。

嬉しいことに、日本はドイツとともに、西バルカン問題に尽力しています*8。距離は離れていますが、日本はこの問題をヨーロッパに対する地政学的・戦略的な挑戦であると見ているからです。

また「自由で平和なインド太平洋地域」という日本の取り組みについては、ドイツとしても支援していけると考えています。直接軍事的に支援できるわけではありませんが、この地域の強化につながる良い提案であり、中長期的にさまざまな形で協力が可能でしょう。

また日本とドイツは多国間主義を標榜し、国際貿易機関(WTO)の改革を目指しています。G20プロセスにおいても日本はドイツの挙げた重点項目のいくつかを取り上げています。例えば女性のエンパワーメントはその好例です。日本国内で女性の就業支援が政策的に進められていることもその背景にあるでしょう。また日本はドイツが力を入れてきた国際保健政策についても取り組んでいます。エボラ出血熱が発生した際の国際社会の対応は充分ではありませんでしたが、世界のどこかでまた感染症が大流行したとき、どう対応すればよいのかということで、世界保健機関(WHO)を強化して進展を図ってきました。これらは皆、日本とドイツが非常に効果的に協働できる分野であろうと思います。

女性活躍について

学生9 韓国から来た留学生です。今、私の中での一番のイシューが性平等についてです。数少ない女性の首相として、またガラスの天井を壊した女性として、これから性が平等である社会を築き上げるために、制度や福祉も含めて、私たちの立場でできることが何かあるか、質問したいです。

メルケル (男女の違いについては)色々固定化したイメージがあります。女性の場合、チャンスがあるのに、「私にできるだろうか」などと考えがちで手を伸ばそうとしない。一方、多くの男性は、自分にできるかどうかに拘らずとりあえずやってみるというのもその1つで、本当にできるかどうかは、まあ結果を見ればわかるわけです(笑)。私は、女性も選択肢があったら、とりあえずやってみたらいいと思います。ただ、キャリアを積む中で、子どもができて子育てをする時期になると、男女の役割分担ということでは真の意味の(家事)分担というよりは、女性の方が家にいなければならないと感じる傾向があります。ですから指導的立場への女性の進出を含め、男女の平等が実現するには家庭内の役割分担を改善しなければなりません。女性として美しく、仕事もバリバリこなし、キャリアも積んで、同時に優しいお母さんで子育てもしてなどというのは、1人でできることではありません。

こうした家事育児の分担の他に、社会のメカニズムにも変化が必要でしょう。多くの女性と仕事をしていると、何もかも夜遅い時間になってからやる必要はないと、はたと気付くことがあります。党の集会が土曜日に開催されることがありますが、本来なら子どもと過ごせる時間のはずです。政治活動の環境があまり魅力的ではないと考える女性も少なくありません。少なくともドイツだと長々と無駄な話も続き、ビールも付き物ですし(訳注:ドイツでは政治集会がビアホールで行われることも多い)、もっとスピードアップできることもあるでしょう。でもそういう習慣になってしまっているのです。女性を政治に取り込みたければ、政治活動のあり方全体を変えなければならないかもしれません。

仕事のキャリアについても同じです。現在はいろいろな可能性があり、基本的にモバイルワークも可能になっています。連邦首相府に勤務する女性たちには午後4時に帰宅する人もいますが、子どもたちを寝かしつけた後で、また仕事をしたり、自分のことをしたりすることができます。フレキシブルなしくみをつくり、女性が仕事と家庭の両立を図れるよう、そして男性にとってもそうなるようにしていかなければならないわけで、その上で、女性たちには自信をもってチャンスをつかんでいってもらいたいと思います。私は、何かに取り組んでみてその後どうにもならなくなった、という女性に出会ったことはほとんどありません。

また女性が全くいない、という印象がある自然科学研究などの分野では、ターゲットを絞ってシンポジウムで講演するなどの女性を探していかなければならないでしょう。そもそも女性を探さないことが多いのが問題で、探せばどこにでも優秀な女性はいるものです。

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