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【特集:新春対談】
新春対談:夢を育てる学塾

2020/01/06

  • 福澤 克雄(ふくざわ かつお)

    TBS テレビディレクター、演出家。1964年生まれ。86年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。塾生時代は蹴球部に所属し、大学選手権、日本選手権で優勝。89年TBS テレビ入社、ドラマ演出家として活躍。2013年演出の『半沢直樹』は数々の賞を受賞。『私は貝になりたい』(08年)、『祈りの幕が下りる時』(18年)など映画監督としても活躍。19年は『ノーサイド・ゲーム』が大きな話題となる。福澤諭吉の玄孫。

  • 長谷山 彰(はせやま あきら)

    1952年生まれ。75年慶應義塾大学法学部卒業。79年同文学部卒業。84年同大学院文学研究科博士課程単位取得退学。法学博士。97年慶應義塾大学文学部教授。2001年慶應義塾大学学生総合センター長兼学生部長。07年文学部長・附属研究所斯道文庫長。09年慶應義塾常任理事。2017年慶應義塾長に就任。現在、日本私立大学連盟会長などを兼務。専門は法制史、日本古代史。

『ノーサイド・ゲーム』の影響力

長谷山 新年おめでとうございます。今日はどうぞよろしくお願い致します。

福澤 おめでとうございます。こちらこそ、どうぞよろしくお願い致します。

長谷山 福澤さんといえば、今や押しも押されもせぬテレビドラマのディレクター、演出家として有名ですが、それに加えて慶應時代、ラグビー日本一に輝いた時の選手だったということもよく知られています。

つい先日まで、日本はワールドカップラグビーで大変な盛り上がりを見せましたが、私が感じるに、今回のワールドカップがこれほどの盛り上がりを見せた背景には、その直前に放映された、福澤さん演出のテレビドラマ『ノーサイド・ゲーム』の影響があるように思うのです。ワールドカップではルールはよく分からないけど、とてもおもしろくて興奮したというファンが、私の周りでも多かったのですが、その人たちは大抵『ノーサイド・ゲーム』を見ていました。

そして、何より慶應義塾の後輩である元日本代表主将の廣瀬俊朗さんを俳優に起用し、番組の中で現役の日本代表経験のあるラグビー選手が、迫真のプレーを見せてくれたことも、この非常なラグビーの盛り上がりに一役買ったと思います。そのあたりは、ドラマの企画段階で狙いはあったのですか。

福澤 『ノーサイド・ゲーム』のきっかけは、4年前のワールドカップ・イングランド大会日本代表チーム「エディージャパン」の団長だった稲垣純一さんとお話ししたことから始まります。

稲垣さんは中等部から塾でラグビーを始め、サントリーにラグビーチーム(サンゴリアス)をつくった方で、僕も慶應高校や大学の時にコーチをしていただきました。その稲垣さんからイングランド大会後に、「ちょっと会わないか」と言われたのです。

イングランド大会は、ウルグアイ、アルゼンチン、ジョージアといった、それほど有名なチーム同士ではない試合もすべて満員だった。ところが、日本ラグビー協会のリサーチでは、今度の日本開催のワールドカップでは、こういった国々の試合は、スタジアムの半分も埋まらない危機的な状態なんだ、という話でした。そこで、「どうにかならないか?」と相談されたのです。でも僕は正直に言いますと、ラグビーが嫌いで、あまり関わりたくなかった(笑)。

長谷山 そうだったんですか。

福澤 幼稚舎から普通部、高校とずっとラグビーをやってきて、高校まではよかったんです。しかし、大学ではとにかく練習がきつくて、ほとんど鬱病状態の毎日でした。ですので、日本一にはなったんですが、卒業後は「ラグビーはもういいや」という感じでした。

その一方、仕事上、嫌な思いをした時に、精神的に乗り越えていけるのは、「あの時の練習のお蔭」という気もしていました。自分は幼稚舎から塾に入った、はっきり言ってボンボンです。それがなぜ強くなれたのだろうと思うと、やはり、あの強烈な4年間があったお蔭なんだ、という気持ちはあったのですね。

そこで、稲垣さんのお話を聞いて、「ちょっとラグビーのために頑張るか」と思いました。そうしたら、ちょうど池井戸潤先生もラグビーをテーマにした小説執筆の準備を進めていらっしゃっていて、いいタイミングでドラマ化に進んでいったんです。

長谷山 なるほど、そういう経緯でしたか。

福澤 TBS社内には、ワールドカップが始まってから放送するほうがいいのではないか、という声もありましたが、大会前の盛り上がりとともに、ドラマも沢山の方々に見ていただいたほうが良いだろう、という話になりました。

このドラマにはラグビーのおもしろさ、奥深さを伝えるために、どうしても本物の選手が必要でした。また、未経験者ですとケガの心配があります。そこで、普通、ドラマでは役者にラグビーを教えますが、逆にラグビー選手に芝居を教えることにしたんです。原作上、浜畑という廣瀬さんが演じた役は非常に大きいものだったので、あそこに誰を起用するかがカギでした。

僕は原作を読んだ時から、日本代表で、少し苦しんでいたり、クレバーなところなど「どこか廣瀬っぽいな」という感じがしていたんですね。引退して何年か経っていた廣瀬に「君にあっている役があるから、この役をやってくれないか」と言ってリハーサルをしたら、結構いけるなと。それで何カ月か練習をした後、撮影したんです。

長谷山 見事にはまりましたね。

福澤 はまりすぎてしまって、「紅白」に出るのではないかと(笑)。

長谷山 NHKのテレビ解説ものびのびやっていて本当におもしろかったですし。

福澤 頭がいいんですね。セリフも大体忘れない。大したものだと思っています。

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