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【特集:新春対談】
新春対談:夢を育てる学塾

2020/01/06

「ONE TEAM」をつくる

福澤 ワールドカップはご覧になりましたか。

長谷山 日本vs南アフリカ戦をスタジアムで見ました。負けたけれど、いい試合でしたし、日本チームはここまでできるのかと興奮しましたね。現場で見ていると伝わり方が違いますね。

福澤 「ONE TEAM」と言いますが、ラグビーチームは家族にならなければいけないので、合宿を行うのです。ラインアウトやスクラムはサインを出しますが、サインが通じるのは3次攻撃ぐらいまでです。そのあとはどうなるかは分からないので、1人のボールを持った人がどう動くかを、皆がテレパシーを使っているかのように察知する。あれがおもしろいのです。

アメリカとアルゼンチンの試合を見たのですが、アメリカチームはフェーズの4次攻撃ぐらいからバラバラになって、何をしているかがお互いに分からなくなってしまっていた。だから、すごい体格をしていても勝てない。こいつだったら絶対に捕ってくれると信じて、見ないでパスをしないと勝てない。合宿をしていろいろな悩みを共有し、テレパシー同士で通じ合うような関係にならないと、ああいう大舞台では活躍できないんです。

長谷山 決勝のイングランドと南アフリカの試合はどのように評価されますか。

福澤 南アフリカのつらかった歴史みたいなもの、イングランドには負けるか、という魂は感じました。あとは、やはりラグビーというのはフォワードだなと。日本戦もそうでしたが、どんなに足が速い人がいてもあの押し合いに負けると、勝てないのですね。

長谷山 ラグビーの原点はフォワードにあると。

福澤 そうですね。だから地獄のようにスクラムをやらされるのです。慶應時代、2、3時間ぶっ続けでやらされましたが、やればやるほど強くなるんです。そうやって本当に苦労したところは押せるのです。

ちょっと押されたぐらい大したことないだろう、と思うかもしれませんが、最初のスクラムでグッと押されてしまうと、「この試合はやばい」と焦り出すのです。押し合い、スクラムはいかに大事かということです。

長谷山 もともと慶應のラグビーは、伝統的にフォワードを重視していましたよね。一昔前、同志社や早稲田のバックスが華麗にパスを回す一方で、慶應は愚直にとにかくフォワードで、スクラムを押していたと思います。そう考えると、実はフォワードを起点にしていた慶應は一番世界のラグビーに近かったんじゃないかと思うのですが。

福澤 そういうことです。全く才能がない人たちでも、押し合いは練習すればするほど強くなるのです。バックスのパスのセンスは、生まれ持った才能が必要だと思いますが、慶應はそれほどいい選手は入ってきませんでしたから、とにかくフォワードを鍛えてどうにかしていたのです。これは非常に大切なことで、フォワードが強いとそう簡単に負けないのです。

長谷山 当時は相撲部屋に出稽古に行ったりしたのですか。

福澤 相撲部屋はよく行きました。

長谷山 私は20年間、体育会相撲部の部長をしていましたが、慶應は春日野部屋と仲がよくて、引退した関取が師範をしてくださったり、幼稚舎のちびっ子相撲も毎年、春日野部屋でお世話になっています。そこで聞いたのですが、アメリカからアメフトの選手が相撲部屋に来た時、ものすごい体格の人が「ぶつかり」をやっても、力士には全く通用しない。ポンポンはじかれてしまうそうです。力士と練習したらスクラムが強くなる、という発想は、慶應の蹴球部は目の付け所がよかったなと。

福澤 『ノーサイド・ゲーム』でもフォワードが春日野部屋に出稽古に行きました。でも、現役に近いフォワードも全く歯が立たなかった。僕らも学生時代に行きましたが、やはり「押す」ということに関しては、相撲が世界一だなと思います。

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