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【特集:新春対談】
新春対談:夢を育てる学塾

2020/01/06

山崎豊子先生の言葉

長谷山 福澤さんの代表的な作品というと、やはり『半沢直樹』ですね。そのドラマができるまでの経緯を教えていただけますか。

福澤 僕は『華麗なる一族』の原作者・山崎豊子先生とお話しした時に怒られたことがあるんですね。「あなたたち、テレビドラマをつくるのはいいけど、日本を支えているのは誰だと思っているの?」とすごい勢いで聞くのです。「経団連の会長ですかね」とか言ったら、「違うわよ! 製造業よ。ものをつくる人たちよ」と言われました。

資源も何もない国が何で先進国でいられるの? それはものづくりの人たちのお蔭だと。「そのものづくりの人たちに、あなたたちは何か応援するようなことをやったの? 何かと言えば医者、刑事、弁護士のドラマばかりつくって」と。こういうものづくりの人たちを応援して、明日も頑張ろうと思わせるようなものをつくりなさい、と言われました。

「確かに」と思い、ガクッときました。ではものづくりの人たちを応援できるようなドラマをつくろうと思い、何かいい原作はないかなと探していたら『半沢直樹』の原作に出会ったのです。『オレたちバブル入行組』、『オレたち花のバブル組』というのが原題で、どんな内容かは分からなかったのですが、読んだらおもしろい。池井戸先生にお願いに行ったら、運よく原作権を誰にも渡していなかったので、ご許可いただけました。

長谷山 そんな経緯があったのですね。

福澤 テレビドラマのファンは女性が多いのです。医者もの、刑事もの、恋愛ものが人気があって、企業もののドラマは大体失敗している。だから銀行のお金に関する話など誰も見やしない、と大反対を食らいました。ですが、企画を出し続けたら、「そこまで言うならやってみようか」となった。ここはTBSのいいところですが、新しい試みに対して割と寛容なのです。それで始めたら、火がついたんです。

長谷山 私もこだわりがあるのは、どんなことにしても、組織の中でどう生きていくか、チームをどう立て直すか、どういうふうに組織の中で戦っていくかということです。上手くいかないからといって組織から飛び出すのではなく、その中で工夫していく。これは無理だと思うようなことも、なんとかできるようにと努力していると、要所要所で助けてくれる人が現れる。

私も『半沢直樹』は全部見ていますが、主人公がどこまでも組織の中で頑張っていく姿と、人間関係の妙味が印象的でした。それに途中ハラハラしながらも、江戸時代の芝居のような勧善懲悪、「正義は必ず勝つ」というところを信じながら見ることができる。これが受けたのではないかなと。

今、女性も組織の中で生きている人が増えているので、そういった社会の転換期に、組織の中で苦闘していく主人公像に対しては女性の間でも共鳴が広がったのではないかという気もしました。

福澤 僕も「正義は勝つ」は大好きです。夢でもいいからこうなってほしいというものを見てもらいたい。そこに至るまではきついことがあっても、「最後は正義が勝つ」のは、やはりいいですよね。よく、「世の中はこんなに甘くないよ」と言われるのですが、「ドラマや映画はそれでいいじゃないか」と思うのです。その時だけでも楽しんでほしいと思います。

また、僕も組織というのは非常に大切なものだと思っています。半沢はあんなに仕事ができるのだったら、組織から出てしまえばいいじゃないか、とも思うのですが、「ここから出ると負け」というような、何とも言えない侍魂があるのではないかと思うのです。

ドラマも、自分だけができても駄目で、カメラマンも必要だし、優秀な美術も宣伝マンも必要です。いろいろな分野の優秀な人が集まっていいものができるんですね。「フリーになったらすごく儲かるんじゃないの?」とよく言われますが、そう簡単なものではない。組織の中で頑張っていくことがいかに大切か。チームワークは大切にしたいと思っています。

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