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あたらしいミュージアムをつくる: 慶應義塾ミュージアム・コモンズ
第1回 創造的「空き地」で何が起こるのか

2020/10/22

  • 本間 友(ほんま ゆう)

    慶應義塾ミュージアム・コモンズ専任講師

この夏、三田通りに、目を惹くファサードのビルディングが登場した。慶應義塾大学東別館、慶應義塾ミュージアム・コモンズの拠点となる施設だ。ペンマークをあしらったパネルとガラスが、ランダムなグリッドを構成する白いファサードに対して、キャンパス側には植栽に彩られたテラスが設けられ、図書館新館、塾監局、図書館旧館、そして福澤公園の緑に繋がる、一体感のある空間が形作られている。

交流を生み出すあたらしい大学ミュージアム「慶應義塾ミュージアム・コモンズ(KeMCo)」のコンセプトは、松田隆美機構長が2020年3月号の本誌で詳述している。以来半年が経過し、施設の整備はもとより、さまざまな活動プログラムの準備が急ピッチで進められている。

そこで、今月から7回にわたり「あたらしいミュージアムをつくる」と題して、KeMCoで展開する具体的な活動を担当者からお伝えしていく。初回となる今回は、あたらしいビルディングにも少し触れながら、KeMCoの活動やその狙いについて改めて概観してみたい。

大学のコレクションは、収集・蓄積からその後の活用まで、大学の教育・研究活動と分かちがたく結びついて存在している。KeMCoでは、教育・研究と文化財との密接な関係性を表現する、軽やかな展示プログラムを実現したいと考えている。

たとえば、シンポジウムなどの研究イベントで関連する文化財を見せる、授業内容と文化財を結びつけた小さな展示をつくる――こういった、現在進行系の教育・研究を文化財と結びつける展示は、数年単位で展覧会計画を決める通常のミュージアムのスキームにはうまく馴染まない。

KeMCoでは、小規模・短期間の展示を並行して実施することができるように、展示フロアに小ぶりな展示室を2つ用意し、かつ、空間を分割するスライディングウォールを設けた。

一方、大型の展覧会にも対応できるように、実習室やカンファレンス・ルームなど、展示スペース以外の壁も可能な限り展示壁面として設えた。また、階段下のスペースや作業用通路などのちょっとした「隙間」にも、映像投影やケース展示ができる仕組み(スキマ・インスタレーション)を工夫した。2021年4月のグランド・オープン時には、展示フロアに限らず建物のさまざまな場所で作品と出会う体験を提供する予定である。

2020 年7 月、覆いがとれてファサード がお目見えした東別館

収蔵庫での活動を垣間見る

ミュージアムすなわち展覧会と捉えられがちだが、展覧会と並ぶ豊かさを持つのが、文化財の調査・研究、そして保存活動である。ミュージアムでは、これらの活動は収蔵庫をはじめとするバックヤードで行われることが専らで、来館者の目に触れることは少ない。近年、収蔵庫に保管されている作品をそのまま見せる「ビジブル・ストレージ(Visible Storage)」の例が国内でも散見されるが、KeMCoでは「収蔵庫を見せる」ことから一歩踏み出し「収蔵庫での活動を見せる」ことを狙った。展示フロアへ向かう階段の脇には、全面ガラス張りの壁面を持つ収蔵庫前室が控えていて、バックヤードで展開する多様な活動を目にすることができる。

前室からつながる収蔵庫は、慶應義塾初の本格的な文化財収蔵庫で、塾が蓄積してきた幅広い領域の文化財を保管する。さらに、「書の美術館」として名高いセンチュリー・ミュージアムからの寄贈作品も収蔵される。現在、センチュリー文化財団からの作品移管を前に、文字文化をテーマとする充実したコレクションの作品調査を進めているところである。

センチュリー文化財団コレクションの仏像を調査する
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