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【特集・コロナ危機と大学】
座談会2:ウィズコロナ時代の医学、医療

2020/08/06

必要とされる感染症専門家の育成

竹内 慶應の成果はこれからどんどん出てくると有り難いですが、そうは言っても例えばワクチン開発とか、薬剤開発は競合も多く、研究費も莫大で、その受け皿となる組織がないと簡単ではない。慶應の中で感染症の専門家、あるいはウイルスの専門家、ワクチン開発の専門家を、今後はもっと育てていかないといけないのではないかと思うのですが。

佐谷 今回のダメージを受け、われわれが潜在的に感染症を甘く見ていたことがわかっていきました。感染症には勝てるという、勝手な思い込みがあったのではないか。そのために、大きな一撃を食らったという気がしています。

私がかつて仕事をしていたヒューストンのがんセンターに連絡をしたところ、あまりの蔓延にがん診療も十分に行えない状況で、このダメージから回復するには数年かかるだろうと言っていました。アメリカですらそうだったわけです。幸い第1波を何とか乗り切ることができたので、その轍を踏まないようにするためにも、まずは今ある体制で協力して、第2波、第3波を食い止めることです。

それと同時に、今後様々な感染症が流行する可能性を考えて、平時に対策をとっておくべきではないか。スタッフや体制の充実、あるいは今回のことを教訓としてSOP(標準作業手順書)をつくっておく必要があるだろうと考えます。

食事をした時の飛沫感染が大きいことを考えると、感染力が強い時は唾液中にかなりウイルスが含まれているということもあります。まだ唾液からのPCRは一般化していませんが、是非この時期にきちんと整備して、検査を唾液でできるようにしたいとも考えています。

検査や治療に関して、世界全体の情報を迅速に得て、一番先端にある役に立つ情報を集約し提供することも私たち研究者の務めかと考えております。

竹内 慶應の中には感染症に対して興味を持っている人がたくさんいますし、基礎的な分野では世界最先端の基礎研究をしている先生がたくさんいらっしゃるので、ぜひこういう力を結集して、何らかの形で貢献できれば一番いいのかなと思います。

齋藤 今回、いろいろなプロジェクトがすぐさま立ち上がったところを見て、さすが慶應だなと拝見していました。

一方で感染症研究そのものは国内でもあまり注目されていない業界です。実際に病原体を扱う研究者がどれだけおられるか、それをさらに動物実験まで手がける方、そしてフィールドに出ていって疫学研究をやったり、あるいはワクチンなどの臨床開発をやる方がどれだけおられるのかというと、そこは手薄なところがあるのかなと思っています。

こういったパンデミックが起きると、一時的に関心が高まりますが、喉元を過ぎるとすぐ忘れられてしまいます。ぜひここで感染症の危機管理、またそれに向けた研究体制を中長期的に充実させていく必要性を改めて社会が認識してくれるといいなと思っています。

ウィズコロナ時代の生活様式を

竹内 最後に社中の皆さんに向けてのメッセージは齋藤先生、何かありますでしょうか。

齋藤 院内感染のことで1つ是非申し上げたいことは、検査をやって、絶対に病院内にウイルスを入れないぞ、というリスク軽減は非常に重要ですが、一方で、検査をこれだけやっているのだから、感染者はここにはいるはずがない、感染者がいてはいけないんだ、というゼロリスクの考え方に向かってしまうと逆に危険だと思います。

どんなに努力しても感染者が院内で出てしまうことを前提にして、その上でいかにそこで広げないかという方向で対策を考える、そういったマインドを持つことが重要だと思います。これは慶應病院だけでなく、関連病院も含めて非常に重要なことだと思っています。

また、これからは社会全体がコロナにかかりにくい、あるいはかかっても広がりにくい社会を考えなければいけないと思います。本当に集まって仕事をしなければいけないのか。いつも同じ時期に皆が休暇を取らなければいけないのか。本当に皆で都会に住まなければいけないのか。そういった大きな視点で生活の仕方も含めて考える機会になるのではないかと思っています。

竹内 有り難うございます。大変重要なポイントですね。慶應病院は、いつも8時半になるとフロアは患者さんで満杯になり、午前中に診療ピークを迎えていました。これを朝、昼、夕方まで時間の偏りや、曜日の偏りを平準化するというのが課題です。

医師や職員も、働くスタイルをなるべく平準化することが重要かと思います。社会全体も一極集中するのではなくて、個々が自分の仕事のスタイルを決めていくことが求められるのかなと思います。まさに独立自尊、自分で考え、自分らしく仕事をしていただいて、また楽しんでいただくということになるのでしょう。

本日は大変お忙しいところを活発な議論を有り難うございました。

(2020年7月1日、オンラインにより収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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