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【特集・コロナ危機と大学】
座談会2:ウィズコロナ時代の医学、医療

2020/08/06

検査体制の充実をどう図るか

竹内 感染しやすい環境でスーパースプレッダーがいると感染してしまうことは明らかなので、いわゆる3密を避け、感染しやすい、させやすい環境をつくらないことが一番重要であるということですね。

もう1つ、今後どうするかという課題に検査体制があると思います。どういう検査をすれば私たちはウィズコロナの時代に感染リスクを下げながら暮らせるのかということです。

齋藤 今、いろいろな検査が行われており、感染していることを、ウイルスの遺伝子をPCR法で検出する方法とウイルスのタンパクを抗原抗体法で検出する方法がまずあります。それから感染していたことを示す抗体を検出する方法についても様々な感度、特異度のものが出回っています。それぞれ簡便さ、検出にかかる時間、検体の処理法などが違う中で、これらをどのように使っていくかは非常に大きな議論になっています。

もちろん検査の処理能力が上がってきているので、これまでの、「できるだけターゲットを絞って見つけていく」という方向からより広く検査を実施して実態を把握することができるようになってきたと思います。

そういった公衆衛生学的な面で見ていく話と、一方で医療現場や医療従事者など、インフラとして守らなければならない場所で、いかに検査を使っていくかはまた別の問題だと思います。

抗原抗体反応による検査法については感度が必ずしも良くはないという話もありますが、少なくとも検査をした時点でウイルス排出量が多い人を把握することで、リスクを下げることはできると思います。そういった使い方は現場のオペレーションの中でどのような目的で使うのかを考えながらやっていく必要があるのではないかと思っています。

竹内 検査の方法によって使う場所、対象をある程度分けていきながら、一番効率のよい検査体制を作るということですね。全例にPCRを毎日やることはナンセンスで、コストもかかってとても現実的ではない。リスクを避けなければいけない場所で速く結果を知りたい場合は、例えば簡便な抗原検査で短時間で行うという方法もあるのではないかということですね。

北川先生、慶應ではPCRの体制が整っていることもあって、抗原検査を救急患者、熱発患者全員にすることは今は考えていませんね。医療者を守る、あるいは患者さんを適切に治療する観点から検査体制については今後どのように考えていらっしゃいますか。

北川 当院で入院前PCRによるスクリーニング検査を全国に先駆けて始めたところ、この方法を都内の多くの病院が採用しました。しかし、現在の状況では必要ないのではないかという病院もあり、また首都圏以外の病院ではあまり導入されませんでした。ただし、東京都、特に新宿区はそれ以外の場所とはまったく違う環境だと考えています。

慶應病院も協力して新宿区PCR検査スポットで連日PCR検査をしていますが、そこでの陽性率は今日(7月1日)の段階で3割から4割になっています。このような環境の中でわれわれは診療していますので、入院前PCR、職員に少しでも症状が出た時のPCR、あるいは外来患者さんが不調を訴えた時のPCRは引き続き迅速に行うべきと考えています。

抗原検査ですが、現在、症状が出た段階から数日間はほぼPCRと同じような感度であると認定されていますが、これから検証が必要です。やはり現段階では私どもの環境ですと、より感度の高いPCRによる陰性の確認がないと陰性として扱えないという状況があります。もちろんこれも100%ではありませんが。

慶應病院は新宿区内にある大学病院で、しかも院内感染を経験したことからも、しばらくは厳密にPCR検査を基軸にした防御体制をとっていきますが、今後、効率がよくて感度のいい抗原検査が出てくれば、例えば救急外来で急変のあった方、今からすぐに手術をしなければいけない方、あるいは分娩が迫っている妊婦の方には抗原検査も行い、迅速に対応していくことも必要かと思っています。

竹内 PCR検査で陰性を確認してから入院していただいている背景には、4月の頭に入院前患者にPCRをやったところ、陽性率が3.3%もあり、その後の1週間で7.3%だったということがあったわけですね。

北川 4月の第3週ですね。それが東京都の感染のピーク時と一致しています。しかし、それから5月、6月は陽性者はゼロで、スクリーニングした患者さんをトータルしますと、現在、陽性率は0.3%程度です。これは首都圏の抗体陽性率とほぼ一致していますので、4月の高いスクリーニングPCR陽性率も当時の市中感染状況を反映していたのだと推察できます。

大学、社会での感染予防

竹内 病院はそのようにガッチリと検査している一方、義塾全体の教育現場あるいは一般の会社などで、今後、教育活動や社会活動が活発になってくる中で、この新型コロナウイルス感染症に対する検査をどのように利用していったらいいでしょうか。

天谷 医学部だけですと600人程度ですが、全塾の学生となると、何万人という単位になります。しかも様々に日常生活が営まれている中、どうやったらキャンパス内でクラスター感染を起こさせないかということを考えると、まずはそれぞれ個々人に感染防御対策をしていただくことです。

体温を毎日測定して、何らかの体調不良があった場合には、それをきちんと報告して対策をとる。キャンパス外における会食等も含めて、生活基準を感染対策用にしていただいた上で、発熱等の症状がある場合には保健管理センターに連絡するという形が現実的なのではないかと思います。

竹内 教員が授業をするにあたってたくさんの学生、生徒を相手にした時に、ある一定リスクでコロナに感染した学生がいた場合、教職員をどうやって守るのかということがあります。

その際に、検査をすればある程度リスクがわかるのではという意見がありますが、まずは教職員、学生・生徒も、体温や体調等をきちっと把握して、それが異常であれば、キャンパスに行かないということを守るという基本原則を徹底するのが重要だということですね。

天谷 リソースの問題をまったく考えなければ、日常的にPCR検査をして、常にクリーンな状況を保つという考え方はあると思います。ドイツのサッカーリーグが週に2回PCRをしていますね。

しかし、大学のようにこれだけ多くの人がいるところで、リソースのことも考えると、やはり体調モニタリングが1つの大きな柱になるのではないかと思います。「1人1人が感染しない、感染させない」という2大原則を守って、この長い闘いを切り抜けなければいけないのではないかと思います。

竹内 今、医学部では学生、教職員全員に「keio.jp」という慶應に関連するすべての人が持っているサイトから毎日検温してそれを入力してもらい、これを第3者が見て、もし熱があれば病院、医学部に来ないというやり方を取っていますね。

天谷 はい。「keio.jp」に毎日体温を記入していただいて、37.5度以上ある場合には管理者及び保健管理センターに自動的に連絡が行くというシステムです。これを上手く利用していただくと、どこかにクラスターがあったり、集団的に熱が出ているということを早期に検出し、対策をとることが現実的にできるのではないかと思っています。

竹内 このシステムを全塾的に広げるというのが次のステップでしょうか。

天谷 はい、このシステム自体は全塾的に広げられますので、全塾的な対応がきちんとできる管理体制になると思います。

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