三田評論ONLINE

【特集・コロナ危機と大学】
座談会2:ウィズコロナ時代の医学、医療

2020/08/06

市中感染への備え

竹内 齋藤先生、今、「夜の街関係」とよく言われますが、接待を伴う飲食店(ホストクラブ、キャバクラなど)で感染が広まるのはなぜなのですか。

齋藤 3月頃も東京で夜の街クラスターがありました。要は業種として、マスクをして接客するとか、遠くで話をするといった対策がなかなか徹底しにくいところです。お酒を飲みながらお話ししていれば、マスクを外したままになってしまうかもしれません。お店側が対策を行っても、お客さんが守ってくれるか、という問題もある。サービス業としてなかなか言い出しにくいところもあるかもしれません。そういういろいろ難しい条件が重なっているのだと思います。

また、そういった業種の人たちは病院になかなか行かなかったり、就業しては駄目と言われても、出勤できないと言い出しにくかったり、収入面から断れないかもしれない。また、調査で勤務先や行動歴を訊ねても、そういった店に飲みに行ったとか、勤めているとか、なかなか聞き出せないこともある。そのため、実態が非常に見えにくいといった要素もあります。

そこでのある行為が特に危険というよりは、危険を避けにくい、そして介入しにくい、という複合的な状況がそこにあるというのが正しいのではないかと思います。

竹内 逆に言うとこの情報がかなり流れて、「夜の街に行かなければ安全なのではないか」という安心感があるのも、また注意が必要かなと思います。普通の昼の生活を送っていても、市中で感染者がいて3密空間で接すれば感染リスクはあるわけですね。

齋藤 はい。あと接触感染というルートもありますので、手を洗う必要性を皆だんだん忘れつつありますが、これも非常に重要だと思います。

ウィズコロナ時代の診療体制

竹内 このウィズコロナ時代に病院を今後どのように元に戻していくか。これは大変大きな課題です。北川先生いかがでしょうか。

北川 私どもは厳しい体験をして、いろいろなことを学びました。その中で集中治療チーム、呼吸器内科のような呼吸器感染のプロ、そして竹内先生のような免疫疾患のエキスパートなどが一丸となったチームに治療戦略を最適化していただいたと思っています。もう一度あのようなフェーズが来た時には最善の治療、すなわち重症例の救命はもとより、中等症の患者さんを重症化させない、あるいは軽症例を中等症に進展させない治療ができると思います。

一方で院内感染が起こった時に、どうやって迅速に制御していくかが重要です。暗中模索の中、重大な決断を迫られる場面に何度も遭遇し、私自身も多くのことを勉強しました。今、重要だと思っているのは、そういったことが起きた時にも病院機能の縮小を最小限としていかに乗り切るかということです。

院内をゾーニングし、しかも医療チームをいくつかに分けて、そのチームが活動する場所と担当する患者さんをしっかりと決め、大きな被害が及ばないような体制をとる。それから、診療体制を平準化して、密をつくらずに同レベルの診療をやっていくことが非常に大事だと思っています。

防御に関しては、PCR検査のハードルを下げて、迅速に幅広く行っています。教職員はごく軽微な症状でも保健管理センターを受診し、必ずPCR検査を受けて陰性確認ののち復帰させる体制を堅持しています。それでも市中感染は外来患者さんにも教職員にもこれから出てくる可能性があります。

濃厚接触者をつくらない生活態度を徹底して、たとえ市中感染が出ても、その1人でストップすることが重要です。そして、万が一院内感染が起きても小規模に抑えて診療機能を保っていく。その中でわれわれは大学病院として本来行うべき高度な医療を皆さまに提供しながら、コロナに感染した患者さんに対しても適切な治療を行っていく。このバランスをとってやっていきたいと思っています。

天谷 今後の病院の体制の中で、ぜひ付け加えてお伝えしたいことは、慶應病院は今、完全に感染制御ができていて、安全な病院空間であるということです。

これは北川病院長のリーダーシップの賜物です。しかも感染者とわかっていた患者さんから医療従事者への感染は1人もいない。市中感染で医療従事者に感染が出た例もありましたが、そこからの2次感染は1人も起こっていない。つまりスタンダード・プリコーションを行い、生活の注意を守っていただければ感染は制御できるということです。

受診抑制への警戒

竹内 大変力強いメッセージをいただきました。『三田評論』をご覧になっている皆さまにご理解いただきたいことは、受診抑制が起こってしまいますと、新型コロナウイルス以外の疾患が悪化してしまう可能性がある点です。コロナ禍が過ぎてから受診すればいいと思うのは危険です。これまでと同じように病院にかかるべきことがあったら必ず病院にかかっていただきたい。そのための体制は慶應義塾大学病院、医学部一同が力を合わせて皆さまの診療に当たっているとお考えいただければと思います。

齋藤先生、超過死亡はアメリカでも、イギリスでも最近の報道によれば通常より大幅に増えていますね。それは単に新型コロナウイルスによる死亡率以外に、新型コロナウイルスによって病院の受診を控えたことが重なっていると思うのですが。

齋藤 超過死亡は、新型コロナウイルスによる死亡以外に、そのように間接的に影響した死亡も含みます。

竹内 超過死亡は、日本ではアメリカやイギリスで報告されているよりもかなり低く抑えられていて、まさにコロナで亡くなられた方が上乗せされたくらいかと思います。それだけ本当に上手く病院でコロナの対応をしていただいたのだと思います。

これからは病院受診を抑制したために、他の疾患で超過死亡が上がることがないようにしていかなければいけないと思います。

天谷 これからこのウイルスを制御するには年単位の闘いがあると思います。医学部は、佐谷先生が説明されたドンネルプロジェクトで、様々な観点から基礎研究、臨床研究がされていますので、その活動にぜひご支援いただければと思います。成果が出たら、また皆さまにいろいろな形でお伝えしたいと思います。

福永 今回われわれは慶應病院・社中一丸となって基礎から臨床まで融合しながら治療・研究に当たることができたことは困難な状況ながらも1つの大きな成果であったと思います。

今後はこの成果を慶應病院外のOB、OGをはじめとした医師の方々とも連携をとりながらさらに発展させていければと考えています。現在普及が急がれているオンライン診療を活用するなど、新たなツールを積極的に取り入れながら院外との関係もこの機会にさらに強固に築いていければ良いのではと思っています。

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