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【特集・コロナ危機と大学】
コロナ禍における体育会活動/山本 信人

2020/08/06

  • 山本 信人(やまもと のぶと)

    慶應義塾体育会理事、法学部教授 

2020年冬から拡大した新型コロナウイルス感染症の影響は、慶應義塾体育会の活動にも影響を与えている。現在の慶應義塾体育会は43部59部門から構成されているが、2月末から5月にかけては全部門で活動自粛を経験した。それでも義塾と先輩団体である三田体育会の全面的な支援と指導のもと、何とか難局を乗り越え、制限的ではありながらも活動再開の局面に入っている。

体育会の組織は次のようになっている。会長は塾長であり、その下に体育会担当常任理事と体育会理事が連なる。理事会は理事、副理事、主事で構成。三田と日吉に体育会事務室が設置されている。学生代表が体育会本部を組織し、各部の活動が円滑に実施できるように事務室と連携をしている。各部先輩団体から構成される三田体育会は、現役の部活動の現場を監督・指導など全面的に支援する。

このように体育会は緩やかな組織体として義塾の中でもユニークな活動を続けてきた。すでにその歴史は128年を刻んでいる。しかも体育会の基本姿勢は各部の自主的な判断と活動を尊重するところにある。

コロナ禍の拡大が不鮮明な段階から、体育会は義塾の方針に則る形で部員・関係者の健康と安全・安心、感染拡大防止を最優先にする態度を鮮明にしてきた。2月28日、体育会は「体育会活動の自粛のお願い(新型コロナウイルス感染症への対応)」を発信した。これはイベントなどの開催中止・延期という義塾決定を受けたものであり、「当面、合宿、送別会などの会合については中止」という依頼をした。

1カ月後の3月27日は、第2報として「週末の体育会活動について」を発信。この2日前の3月25日に東京都が週末の不要不急の外出自粛などを要請するなど、事態の深刻化を受け、体育会は「各部の判断において慎重に活動を行うようお願い」をした。この時点ですでに活動自粛を決断していた部活も少なくなかった。

4日後の3月31日には、「体育会の今後の活動について(お願い)(第3報)」を配信。「当面の間、原則としてすべての活動を自粛していただく方針に変更」という厳しい決断に至り、各部への強いお願いという形をとった。

第4報は4月29日付で、「学内施設の閉鎖期間の延長に伴う体育会事務室の対応および今後の体育会活動について」を配信した。この背景には、すでに義塾は4月7日から5月6日までを学内施設の閉鎖期間としていたが、4月28日付で5月7日以降も当面の間それを延長する決定をしたという判断があった。

体育会活動自粛から2カ月経った5月末、体育会は第五報となる「緊急事態宣言解除後の体育会活動に向けて」を発信した。5月27日付で慶應義塾新型コロナウイルス感染症対策本部から6月8日より教育研究活動の維持のために必要不可欠な塾内施設について、段階的な利用を実施する旨の配信があった。この原則に沿う形で、活動再開へ向けて体育会は各部・部門が個別に方針を作成するよう要請を出した。この文書では、活動前後の注意点、感染が疑われるまたは感染した場合の対処についての指針を明記した。

5月末から6月上旬にかけて、各部・部門からは競技の特性に沿った形で活動再開へ向けてのロードマップが提示された。それぞれのロードマップには、現役部員のみならず、監督・コーチそして先輩団体が知恵を絞った跡がよく見て取れた。体育会としてはすべての文書を慎重に検討し、活動再開可、条件付き、不可という判断をした。

判断基準となったのは、①塾内施設の利用、②屋外・屋内競技、③接触競技、④公式戦日程、⑤感染症対策の具体性であった。このうち調整に時間がかかったのは塾内施設を利用する部活であった。それでも義塾から特別の配慮を受けて、すべての部活が一斉に活動再開というわけにはいかなかったものの、7月半ば時点では、すべての部活が一定の制限の下で活動を再開するに至った。7月5日からはソッカー部男子がリーグ戦に参戦した。

7月3日にはオンラインで監督会議を開催し、コロナ禍におけるスポーツ活動の課題を共有した。塾スポーツ医学研究センター石田浩之教授の基調講演では、感染予防に関する詳細かつ明瞭な指摘があった。

ところが首都圏での感染状況が悪化している状況を受けて、7月12日には「体育会における夏の合宿禁止について」なる心苦しい発信をする事態となった。これも義塾の指針を受けてのものであったが、秋へ向けて夏合宿の重要性は承知していただけに、断腸の思いであった。

大学スポーツは4年間に凝縮している。コロナ禍の影響でその8分の1が活動自粛に追い込まれた。しかも年度後半へ向けて競技団体ごとに公式戦の日程が明確になっているわけでもない。盟友早稲田との定期戦の実現も不明瞭な状況にある。それでも体育会部員は日々の鍛錬を怠らず、慶應義塾の代表として戦う日に備えている。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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