【特集・コロナ危機と大学】
医学生による感染予防指針/門川 俊明
2020/08/06

新型コロナウイルス感染症パンデミックによって、医学教育も大きな影響を受けた。
医学教育において、患者さんを診察する臨床実習は、疾患の理解、臨床手技の習得だけでなく、医師のプロフェッショナリズムを涵養する重要な実習である。2020年3月に、新型コロナウイルス感染症の市中感染が拡大する中、慶應義塾大学医学部は臨床実習の中断を決めた。
私は、医学部の教育の責任者として、新型コロナウイルス感染症パンデミックにあって、様々な決断をする立場にあり、臨床実習をどのように実施するか苦心していた。臨床実習という将来医師になるために重要な教育の場を守るためには、学生も自分たちができることを考えるべきであり、数人の学生に、教育の場を守るために学生たちが何をすべきか考えさせた。
自分たちで感染予防の指針を作って、それにしたがって行動すべきと考えた、5年生、6年生の有志が集まった。大量の文献やガイドラインを読み込み、「新型コロナウイルス感染症COVID-19医学生の感染予防指針」をわずか2週間ほどで作り上げた。指針は「医学生の感染症予防対策のまとめ」「病原体・臨床像」「COVID-19の感染予防と臨床実習の運営に関する基本原則」「院外におけるCOVID-19予防策」「実習開始前COVID-19予防チェックリスト」で構成されている。内容は、感染制御部の宇野俊介先生にも監修していただいた。この感染予防指針は、medstudent.jp にて公開し、他大学の医学生も利用できるようにした。
慶應義塾大学医学部の学生はこの感染予防指針を読み、理解を確認する試験を学生同士で行い、臨床実習再開のための準備をした。残念ながら、緊急事態宣言のため、臨床実習はオンラインで行われることになった。本稿執筆時点では、9月から病院での臨床実習の再開を予定している。
本感染予防指針は、医学生のみならず、看護学生、薬学生などの医療系の学生にも役立つことから、5月末に、最新の知見を取り入れて改訂する際に、「医療系学生のための感染予防指針」として改訂された。本感染予防指針は、学生たちが自分たちで指針を考え、それをもとに行動するという塾生として素晴らしいプロジェクトであったと思う。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
2020年8月号
【特集・コロナ危機と大学】
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門川 俊明(もんかわ としあき)
慶應義塾大学医学部医学教育統轄センター教授