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【特集・コロナ危機と大学】
コロナ危機と幼稚舎の対応/杉浦 重成

2020/08/06

  • 杉浦 重成(すぎうら しげなり)

    慶應義塾幼稚舎長 

はじめに

幼稚舎では、このたびの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の対策や対応については、「児童の『安全』と『健康』を守る」ことを第一として取り組んでいる。文部科学省や厚生労働省等の見解、慶應義塾新型コロナウイルス感染症対策本部の通達、慶應義塾大学保健管理センターの指針や提言等を総合的に判断して対策や対応を講じている。感染の拡大防止による長期に亘る臨時休校、諸行事や各活動の延期ならびに中止、学校を再開し「時差・分散登校」と「遠隔授業」を実施するにあたっては、校医を務めて戴いている保健管理センター教授の德村光昭先生のご教示とご助言に与るところが大きい。

幼稚舎としての危機管理を実践するにあたり、情報を収集して現状を把握し、検討を重ねながら必要に応じて修正や調整を加えている。7月半ば現在、「児童の『安全』と『健康』を守る」には、全教職員が共通認識のもとで対応すべきと考え、児童の下校後に毎日、「本日の振り返り」と題したウェブ会議を実施している。このことによって現状が把握され、教職員が同時に共有し、迅速かつ効果的に対策や対応を修正することができていると思われる。

幼稚舎の取り組み

1月下旬から登校時と給食前に手をよく洗うことと、アルコール手指消毒剤を使用することの励行を始めた。3月2日から6月14日に亘った臨時休校期間中にも保護者へは校報やメール、校医による動画の配信などを用いて、様々な情報や今後の展望等を丁寧に周知してきた。

7月31日までの1学期の延長を決定した上で、6月15日からの「時差・分散登校」での学校再開にあたり、児童、保護者、教職員別に作成した資料を配付した。飛沫感染や接触感染を防ぐこと、密閉・密集・密接の三密を回避すること、「3つの新しい生活様式」として①手をよく洗うこと、②マスク着用、③人との距離を保つことを周知し、徹底するように努めている。

児童の登校時には2台のサーマルカメラで体温を測定し、体温が高いと思われる児童には非接触型体温計で検温、それでも心配な児童は衛生室にて検温の上、校医の問診という3重のチェックを施している。

6月15日~30日を第1期、7月1日~14日までを第2期として、「時差・分散登校」を行った。幼稚舎は電車やバス等をはじめとする公共交通機関を利用して登校する児童が多いため、午前は10時集合、午後は13時集合の「時差登校」とした。また、1クラス36人を2グループに分け、1・3・5年生は午前2時限、2・4・6年生は午後に2時限の授業を受ける「分散登校」とし、児童1名が2日に1回登校することで舎内での密を回避することを心掛けた。7月15日~31日の第3期は、段階的に学校生活を取り戻すための対応として、各クラスの児童が午前に半数、午後に半数が登校し、それぞれ2時限の授業を受けることにした。授業時間数は少ないが、児童は平日に毎日登校し、感染症のリスクはあるものの、児童の生活のリズムやバランスを整え、発達の遅延や心の健康を考慮したことに因る。

2つの連絡系統

幼稚舎は現在、保護者に向けて連絡をする場合、2つのチャンネルを有している。1つ目は、2011(平成23)年に起こった東日本大震災において、電話やメール等に大規模な通信障害が発生し、下校途中であった低学年生の所在が把握できなくなり、深夜まで保護者との連絡が取れないことがあった。そこで、この不備や不安を解消する手立てとして、東急リニューアル㈱の「CONPAS-S」という、一斉またはグループ別、個別にメールを送ることができるメールシステムを導入した。導入後は、それまでの電話連絡網に代わり、自然災害等の緊急時の一斉連絡や欠席の連絡等に利用している。また、各児童が持参するICタグにより、登下校時に児童が校門を通過すると登録された保護者のメールアドレスに連絡が届くようになった。

2つ目は2018年9月に開始し、翌年4月から本格的に導入したKYPS(Keio Yochisha Portal Site:キプス)である。これまで紙ベースで配付していた資料や保護者に提出をお願いしていた児童に関する調査書等がデジタルベースで対応できるようになった。KYPSには通信機能も備わっており、保護者とメールでの連絡を行うことも可能である。

今回のコロナ禍によって、連絡系統が複数あることの有用性に気付かされた。今後はKYPSを軸にメールシステムの統合を計画しているが、児童、ひいては保護者の安全や安心に通じるように努めたい。

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