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【特集・コロナ危機と大学】
座談会2:ウィズコロナ時代の医学、医療

2020/08/06

第2波、第3波への備え

竹内 では今後はどうしていったらいいのか。国の方針も含めて第2波、第3波に対する備えを考えていきたいと思います。

齋藤先生、4月から5月にかけての第1波を踏まえて、これから国の動きはどのような方向に向かっていくのでしょうか。

齋藤 人と人との接触を8割削減という、東京都心が空っぽになるような対策を行って、第1波をどうにかいったんは収めることができました。そうすることで特に医療体制を整備する時間稼ぎはできたと思っています。

しかし、再びこういった対策を行うことは社会的にも抵抗感は強いでしょうし、経済の面からもなかなか難しくなってきます。また、今は国境もほぼ閉じている状況ですが、海外との交流が全くないという状態もそう長いこと続けるわけにはいかないでしょう。

一方で、いわゆる集団免疫をつけるような方策というのもまだまだ時間がかかりそうで、1、2年では難しいかもしれない。そう考えると今後の対策はなかなか難しいところはあります。

1つ大きな方針としては、医療・公衆衛生体制を底上げしていくことです。それによって社会的にこの流行が許容できる幅を広げていく。具体的には重症者の治療体制を改善していく。あるいは治療薬の開発も非常に重要です。重症化しにくい治療法、医薬品ができれば、当然、社会的にもこの流行への許容度は上がっていきます。

公衆衛生体制という面では、今までクラスター対策をやってきているわけですが、その流行状況をなるべくリアルタイムに、その実態をしっかりと監視下に置くことで、社会の許容度を上げていくことができると思います。

また感染対策という意味では、どういった状況で集団感染が起こりやすいのかを理解していくことで、より賢く感染対策をとることができると思います。そうすることで、大人数を集めるイベント等に対する社会的な許容度を高め、以前の生活に近いところに戻していけるのではないかと思っています。これが大まかな国の考え方かと思います。

竹内 これまでの世界の新型コロナウイルス感染症の中で、先ほどご指摘いただいたスーパースプレッダーの特徴はわかっているのでしょうか。

齋藤 スーパースプレッダーについては、ウイルスの排出量が多い人、それから多くの人に感染させやすい環境の2つの要素があると思っています。現在、高齢者のほうがウイルス排出量が多いという話もある一方、若者で無症状の方でもウイルスを多く排出している方もおられる。その本態はまだわからない部分があります。

「感染させやすい環境」という点では、今までも3密対策と言っていますが、まさにこれが本態ではないか。無症状の時、あるいは咳などがなくても会話などの機会に感染させる可能性があり、ここが一番難しいところです。意識して避けることが難しい感染様式があるために多くの人が感染してしまう。それが3密のような場であると思います。

竹内 環境の部分では感染のさせやすさがわかってきた。一方、個人レベルでどういう方がウイルス量が多いのかはまだわからないところがある。

武漢型、さらにはヨーロッパ型など、ウイルスの種別によって感染させやすい、あるいはウイルス量が多いということについての世界のコンセンサスはあるのでしょうか。G614Dの変異があるウイルスがヨーロッパ型で感染させやすいというデータもあると思いますが。

齋藤 今の流行状況の中でウイルスの変異と感染しやすさを明確に関連づけられるエビデンスはまだないのではないかと考えています。

北川 齋藤先生のお話を聞いて、慶應病院で起こったことはまさにこの2つの典型例であったと思いました。1人は比較的高齢で免疫機能が落ちた方が一気に発症して、周りの同室者に感染させたという事例。

それから研修医の場合、発端者は市中感染でしたが、そのあと研修医ルーム等での集団生活で感染が広がり、そして会食の場で一気に広がりました。齋藤先生がおっしゃった典型的なスーパースプレッダー、感染しやすい環境における集団感染を体験したという印象です。

一方で、まったく無症候のままうつさなかったという事例も多くあり、そこをどのように見極めていくかが課題です。臨床上はこれから非常に知りたいところだなと感じています。

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