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【特集:薬学部開設10周年】
座談会:これまでの10年とこれからの10年

2018/10/05

ゲートオープナーという役割

金澤 おっしゃるとおり、われわれの教育の仕方を見直す時期でもあるのかなと。コアカリキュラムだとどうしても金太郎飴みたいな薬剤師をつくろうとしますが、慶應らしい薬学部をつくっていくというところを考えていきたいですね。佐藤さんはいかがですか。

佐藤 大学とか大学院は人間形成の場だと思うんですね。もちろんカリキュラムがあって、学ぶのですが、それだけだったら教科書を読めばいいということですよね。いかに素晴らしい場を持てるかということが、その後、その人が社会人になって社会をリードする世代になったときに生きてくるところではないかと思います。

日本人のいいところでもあり、悪いところでもあるのですが、何か規制などがあると、それが固定観念になって変えられない。でも、規制だってしょせん人間がつくったものなので、つくったときはそれがリーズナブルなものだとしても、社会の変化によっていろいろ変わってくるわけです。

変える必要があるのであれば、どう変えるのがいいのか、きちんと共通理解のもとでどんどん変えていくべきものではないかと思います。

私は慶應でも講義を持たせていただいていますが、「パブリックヘルスのゲートキーパーであり、ゲートオープナーになりましょう」と話しています。ある規制やルールをつくってそれを守ることは社会の秩序を守るためには必要なことですが、このルールがあるから、ここまでしかできないというのではなく、培った知識や経験をもとに、今あるものをまた変えていくことも重要なのではないかと思います。

われわれは日本人なので、まず一義的には日本ということを考えますが、国という壁にとらわれずに、日本だけではなくアジアや世界のリーダーになれる学生がたくさんいらっしゃるのが慶應ではないかと思います。この学び舎でいろいろな知識や経験を積んで、それをベースにいかに社会にはばたいていくか、世界のリーダーになっていくかということが、求められているのではないかと思います。

グローバルなプロジェクト等もすでにあるとのことですが、慶應に来たからこそ経験できることがあると思いますので、学生時代にできる経験をたくさん積んでほしい。慶應の学生は、他の学問領域や他国の人と触れ合うことで、新しいアイデアを得て、それを行動に移していくことができる能力を持っている学生なのではないかと思います。そうしてよりよい新薬や、よりよい公衆衛生環境を提供するためのリーダーになっていただけたら素晴らしいと思います。

金澤 有り難うございました。だんだん責任が重くなってきました(笑)。

上原 結局、どういう人材をつくれるかなんでしょうね。社内を見ても、同じ部署でも伸びる人と伸びない人がいる。本人のアンテナの問題、感受性の問題で、高く広くアンテナを広げ、さらに深く広げられるか。これは薬剤師でも、あらゆる仕事に就く人でも同じだと思います。

できるだけ他の学部と交流したり、あるいは4、5年の臨床だけではなく、街のハンバーガー店でアルバイトでもいいからお客さまと接するとかいろいろな経験をして、「これはなぜだ」というような気づき、要するに座学だけではなく、体験をさせることが必要ではないかと思うのです。

金澤 おっしゃるとおりですね。10周年式典のときに宣誓してくれた博士課程1年の男子学生が、僕はラオスの研修で現地の医療を見て博士課程に進学しようと思ったと話してくれました。

もともと看護医療学部がラオス研修を始め、そこに医学部や薬学部の学生が一緒に行っているのですが、何でもある日本とはまるで違い、何もないところで学ぶことが大いにあって、これを何とかするには僕の今の知識では足りないから、博士課程に行かなければ、と思ったようなんですね。

慶應は能力の高い学生が入ってきますから、その学生を伸ばすような教育システム、これまでの薬学ではあまり行われてこなかったようなところも、ほかの学部を参考に積極的に取り入れ、視野をグローバルに広げた活動をしていきたいと思っています。

薬学部としても、今回皆さまに言っていただいたことが、もうここまで来ましたよと、次の機会にお話しできるようにしていきたいと思っております。

本日は有り難うございました。

(2018年8月20日収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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