三田評論ONLINE

【特集:薬学部開設10周年】
三学部合同教育の進展

2018/10/05

  • 大谷 壽一(おおたに ひさかず)

    慶應義塾大学薬学部臨床薬物動態学講座教授・学部長補佐 〔学習指導主任〕

2008年の法人合併による慶應薬学部の誕生は大きな出来事でしたが、この時期は、全国の他の薬学部も大きな変革の中にありました。2006年入学者より、薬剤師養成のための薬学部の課程が4年から6年へと延長されたのです。従来の4年間の課程では臨床的能力の教育が不十分であるとされ、6年制教育では、医療現場で必要な能力を備えた人材を養成することが求められました。法人合併前の共立薬科大学も、薬学教育という点ではさまざまな先進的取り組みを行い、日本をリードする大学の一角ではありましたが、単科大学という制約もあり、教育における他の医療系学部との連携は必ずしも十分なものとは言えませんでした。したがって、法人合併と薬学教育6年制移行を好機に、薬学部において他の医療系学部との教育連携に対する期待が高まったのは必定であったと言えます(なお、慶應薬学部は、薬剤師養成を目的とする6年制の薬学科〔現定員150名〕と4年制の薬科学科〔現定員60名〕の2学科からなりますが、三学部合同教育の対象は薬学科の学生となっています)。

こうした状況下に、医学部の門川俊明先生(現・医学部医学教育統轄センター教授)が中心となって、医学部、看護医療学部、薬学部の三学部の教員が集って議論を重ね、2011年度から三学部合同教育がスタートしました。初年度は、三学部の1年生全員(薬科学科は除く。以下同じ)を対象とした初期教育と、三学部の最終学年(医学部・薬学部6年生および看護医療学部4年生)を対象とした後期教育からスタートしました。

2011年の後期教育の対象者は、ちょうど6年制課程の1期生でした。初年度に限っては希望者のみではありましたが、彼らに他学部学生とともに学び、考える機会を提供できたことは薬学部として大いなる喜びであり、ご尽力いただいた医学部ならびに看護医療学部の先生方、関係者の皆さんに対して感謝の気持ちで一杯でした。以来、後期教育では、チーム医療を実践することを教育目標としています。具体的には、教員側で練り上げたシナリオ(腎機能低下患者の模擬症例)と事前課題を学生に提示しておき、当日は専門医による導入講義を受けた後、医・看・薬の学生からなる10名程度のグループに分かれて当該シナリオについてグループディスカッションを行います。グループディスカッションでは、各学部の視点から患者が抱える問題を抽出し、患者の医療・ケアをどのように行うか、医療チームのメンバーの役割を考慮に入れてまとめ、その医療・ケア計画を発表します。これにより薬学部生は、患者中心のチーム医療における薬学専門家としての自らの役割を理解し、他職種のメンバーと協調して問題に対処することを学びます。実施時期は5月上旬、会場は、信濃町キャンパスと芝共立キャンパスの2カ所で行われています。

初期教育も、同じく5月、入学間もないこの時期に、日吉キャンパスにおいて1日かけて実施されています。この段階では、いずれの学生も医療者としての教育は受けていませんので、将来のチーム医療を見据え、チームの一員としてのあるべき態度を考え身に付けることを目標としています。グループワーク中心の教育を提供することで、対話を通して、コミュニケーションの重要性を学びます。

中期教育は、1年遅れて2012年9月より開始されました。対象は、医学部・薬学部4年生および看護医療学部2年生で、薬学部の学生にとっては、座学がおおむね終了し、実務実習に行く前にあたります。中期教育は、よいチーム医療とは何かを理解することを目標としており、医療に関するテーマでの講演に続いて、関連するテーマで学部混成のグループディスカッションを行うことで、医療チームについて理解を深めていきます。こちらは、湘南藤沢キャンパスで実施されています。

これら三回の教育は、薬学部を含め三学部すべてで必修化されており、チーム医療の理解と実践力の向上に大きく貢献していることはもちろんですが、各学部のキャンパスを訪問する機会にもなり、学生の学部間交流の良いきっかけにもなっているようです。さらに、2018年度の大学病院新病院棟竣工を機に、慶應病院での実習中に、実際の患者の治療を医学部や看護医療学部の学生とともにチームで学ぶ機会を増やすことも計画しています。

医療チームにおける薬剤師に課された期待と責務に応えることができる薬剤師を養成するためには、三学部合同教育はなくてはならない教育です。薬学部としては、総合大学たる慶應義塾のメリットを最大限に生かすとともに、医学部や看護医療学部の教育にも微力ながらも貢献できるよう、今後も三学部合同教育に尽力、推進していきたいと考えています。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

  • 1
カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事