【特集:薬学部開設10周年】
創薬研究者の育成を目指して
2018/10/05
私は2008年に慶應義塾大学薬学部に1期生として入学した。修士課程を修了した後、他大学の博士課程に進学したが、今年の4月に縁あって薬学部の助教に着任することになり、再び薬学部に戻ってきた。本稿では、卒業生として、また一薬学教員として慶應薬学部への思いを述べさせて頂きたいと思う。
薬学部には、薬剤師の育成を目指す薬学科と、創薬研究者の育成を目指す薬科学科がある。多くの私立薬科大学は、薬剤師の育成に重きを置いており、私が入学した頃の慶應薬学部も他大学と同様、研究者の育成よりもむしろ薬剤師の育成に注力していたように思う。実際、当時の研究環境は国立大学などと比べると恵まれてはいなかった。そのため、研究者を目指して博士課程まで進学する学生は少なく、研究者を志す学生の多くは、より良い研究環境を求めて他大学の博士課程に進学していた。私自身も、薬科学科に在籍していた。入学当初から研究者を目指していたわけではなかった。しかしながら、研究を進めていくにつれ、研究が楽しくなり、博士課程への進学を考え始めた。
当時私は、田村悦臣教授の指導の下、「コーヒー成分による肥満予防効果」をテーマに研究していた。修士課程においてコーヒー成分が脂肪の蓄積を抑制することを見出しており、博士課程ではその分子メカニズムを明らかにしようと考えていた。分子メカニズムを理解するためには、活性成分を同定することが必要不可欠であった。しかし、当時の薬学部にはこれを達成するための分析装置がなかったため、薬学部でこれ以上研究を進めることは難しく、結局、私も他大学の博士課程に進学することになった。
あれから5年が経ち、再び慶應薬学部に戻ってきた今、当時と比べて研究環境が劇的に良くなっているように感じる。当時はなかったような最新の実験装置が設置され、マウスの飼育スペースも拡張された。今年の初めには最先端の分析装置が複数整備された創薬研究センターが開設され、私が学生時代に断念したような研究も薬学部で行えるようになった。
薬学部がこれだけの研究設備を揃えたのは、東京大学や京都大学をはじめとする国立大学にも負けないくらい、創薬研究者の育成に本気で取り組んでいくという意思表示であると思う。私も一薬学教員としてこの恵まれた研究環境を享受するだけでなく、研究機関としての慶應薬学部の発展、および日本を代表する創薬研究者の育成に貢献していきたい。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
2018年10月号
【特集:薬学部開設10周年】
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三田評論のコーナー |
青柳 良平(あおやぎ りょうへい)
慶應義塾大学薬学部助教