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【特集・コロナ危機と大学】
座談会1:コロナ危機が教育・研究・国際交流にもたらしているもの

2020/08/06

ポストコロナ禍の「人間交際」

青山 そろそろまとめに入りたいと思います。コロナ禍の影響で会社に行くだけが仕事ではないとか、大学に行くだけが勉強ではない、ということになっていますが、こういった社会常識はどんどん定着してくるだろうと思います。グローバル化にしても、日本国内の教育にしてもそういった行動様式が定着してくると思いますので、大学に限らず、企業にしろ、組織にしろ、この社会の流れに乗り遅れたところは、その先がだいぶ違ってくるはずです。

ですから慶應義塾としてもコロナ禍での体験を1つのきっかけとして、オンラインとオンキャンパスの両立をもって新しい教育と研究の展開を考えないといけません。ここは非常に大事な分かれ道に立っているのではないかと思います。最後にこういった社会を迎えることについて一言いただけますでしょうか。

鈴木 研究で言うと、今まで国際学会に行く、国際共同研究をするとか、自分が移動して相手の前で発表して帰ってくるなど、フェイス・トゥ・フェイスでやることが普通でした。しかしオンラインのウェブ会議でも、実は結構できてしまうことがわかりました。

そうすると国内旅費も使わなくなりますし、先ほど申し上げた泥くさい共同研究を、遠隔でやることも可能になってくる。これは教育でもそうですね。そういう形をつくったもの勝ちだと思います。それが100%でなくても、80、90%満足していればいいのであって、この機にいろいろ考えていくことは研究にとっても非常によいことだと思います。

國領 おっしゃる通りですね。これから大学の形がまさに変わっていく中で、単に苦しい状況に対応するのではなくて、これを活用することによって世界中の学生がバーチャルに慶應の塾生になる可能性もあるわけです。

日本国内でも急速に首都圏大学化しているのが、慶應義塾にとって大問題だったわけですが、それを突破するチャンスにもなります。物理的空間や時間を共有することはとても大事なので、交代でキャンパスに来るという工夫は必要ですが、ほとんどの部分については、クリエイティブにオンラインでやっていくことで様々なニーズに応えられると思うのです。

それから、隅田さんが先ほど言われたことはとても大事だと思います。世界中で大学が貧富の格差を拡大する存在になりつつあり、そのことが大問題になってきている。日本の大学はまだましですが、卒業するまでに2000万から3000万円かかるのが当たり前の世界になってきていて、それゆえ貧富の格差拡大という大学への批判が非常に大きくなっている。それをテクノロジーを使いながら解消していくことは可能だと思っています。

これは、あまり安易に言うと、自分の首を締めかねないところがありますが、スピードを見計らいながらビジネスモデルを転換していくことが必要なのだと思います。世界中の大学がそのことにもう気がついていて、これから急激にそちらの方向へと向かうと思いますし、私の観察では余裕のある大学こそが先にそちらの方向に向かって、いま全力で走り始めています。

むしろ余裕のない大学が、元のモデルへ一生懸命戻ろうとしているという状況があると思います。私は、慶應は先陣を切って先に行く組に回りたいと強く思います。

隅田 私もまったく同意見です。グローバル本部は世界のいろいろな大学の学長や副学長などから話を聞くことが多くあります。トップクラスの大学は研究と教育の両方で、この機会だからこそ、つながっていい研究をしましょう、いい教育をしましょう、一緒にやりましょう、とどんどん走っていっている。そこに慶應が乗っていけないとジリ貧になってしまうと思います。

一方、職員もここ2カ月、完全に在宅勤務でした。ちょっと怖いなと思うのは、皆オンラインで仕事をすることに慣れてしまっているところがある。最近は週に4回ぐらいオフィスに行っていますが、皆、シーンと黙って会話もパソコンに向かってチャット機能で行うという世界になっています。

学生が家でずっとコンピュータ画面だけを見て授業を受けている状況になると、コミュニケーションの取り方が変わってきて、人間らしい付き合いができなくなることが少し危惧されます。今まで大学ではクラブ活動や交換留学と、いろいろな場で人が会うことによって人間形成されていたのが、それができなくなっているところは心配です。

青山 そうですね。隅田さんの今の話を聞いても、やはりオンラインだけでは済まないし、オンキャンパスだけでも済まないということですね。要は慶應義塾のポストコロナ禍の時代に、福澤先生の言われるところの「人間(じんかん)交際」を、どのように実践するかということだと思います。

ここは教職員、塾生そして塾員の皆さんが、それぞれの経験を忘れずに、これを生かして慶應義塾の教育、研究、そして人間交際をしっかり進めていく大学として前に進んでいきたい。これは、慶應義塾の持続的発展に向けてとても大切なことではないかと思います。

本日は、皆さまお忙しい中を有り難うございました。

(2020年6月24日オンラインにて収録)
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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