【特集・コロナ危機と大学】
座談会1:コロナ危機が教育・研究・国際交流にもたらしているもの
2020/08/06
必須となる「ハイブリッド教育」
青山 なるほど。今、隅田さんが言われたハイブリッドというのは、オンラインとオンキャンパスのハイブリッドですよね。そのように授業を行う場合、留学生はやはりオンキャンパスの授業がある時は現地に行くわけですよね?
隅田 そのへんがまだはっきり見えてないのですが、両方を上手く使って、現地に行けるまでは母国でオンライン授業を受けてもらい、留学先大学のキャンパスに「来れるようになったら来てね」と、フレキシビリティを提供している大学もあります。
青山 そうすると1つの授業をオンラインとオンサイトで両方準備するということですね。
隅田 もしくは、授業群をオンラインだけに固めるのと、対面で固めるというように、カリキュラムを大がかりに調整しているみたいです。
ヨーロッパの場合、国際交流を大学の1つの重要な価値のある活動と位置づけて今までやってきたので、ここで止まってはいけないという意識がすごく強いのだと思います。
青山 わかりました。國領さん、この件で何かコメントはありますか。
國領 IT担当として、何を準備しなければいけないのか、しっかり考える必要があると思いました。青山さんは実感されていると思いますが、ハイブリッドというのは「オンラインのみ」よりも難しいのです。
教室での授業を実際に行いながら、それをリアルタイムで配信する、あるいはアーカイブ化してオンデマンドで後に視聴することを可能にすることをできる教室がSFCにはいくつかあって、三田にもあります。しかし、そのパターンを可能にする教室への投資額はけっこうかさみます。
教室で行っている授業をオンデマンド用にアーカイブ化することは、SFCではすでに単位科目化されています。これは映像より、音声をどうやってきれいに録るかに結構人手がかかります。隅田さんがおっしゃったオンラインの時とオンデマンドの時とで、スケジュール的に分けてしまうというやり方は、大学の教員たちにこの複雑な状況に対応していただけるかどうかという話に大きくかかってくるかと思います。
IT担当としては、いろいろな組み合わせがありますが、どんなボールが飛んできても受け止められるようにしたいと思っています。しかし、ものによってハードルが高い、つまりお金がとてもかかるものがあると思います。
現実問題として、秋に大講義型の授業を教室で行うのは無理と言ってもいいと思います。考えられるのは、500人教室を使って200人程度の授業をリアルに行い、かつ留学生等のためにアーカイブすることで、来られない学生にも後から参加できる形にする。今のところ、そんな感じかと私は思っています。
青山さんの腹が固まって、「こうやる」とおっしゃっていただくと、それに向けて頑張って夏休み中に準備します。
青山 いつも國領さんはこういうふうに言うんですが(笑)、お金が大事ということですね。
国際交流にしても、国内の大学もやはりハイブリッドの形をとることが必要になるかもしれません。「ハイブリッドは無理です」と言うと、「では慶應義塾大学とは連携できません」となる恐れもあると思います。ポストコロナ禍の大学のあり方としてグローバル化を進めるには、オンライン、ハイブリッドの教育、研究連携、財政を整えていかなければいけません。
國領 教室にどういう装置を配備するかは、ITCだけでは決められません。学生部の関与がとても大事になってきます。そこは連携が必要となります。
青山 はい。教室や設備などは先の話になると思いますが、これから大学で新しい教室を作るという場合は、オンライン、ハイブリッドに適したスタジオみたいな教室が必要になってくるということでしょうね。
教育、研究方法の進化へ
青山 今、春学期が半ば過ぎて、これから夏休みに入っていきます。他の大学もそうだと思いますが、そろそろ秋学期の教育をどうするかという話になっており、今まさに検討している段階です。今の社会状況から考えて、秋学期から全部が元に戻ってオンキャンパスでということはあまり考えられない。まったく閉めたままというのもかなり問題があり、大学としてどうしたらよいだろうかということになります。
そうすると、やはりいろいろな意味でハイブリッドという形になっていくのではないか。オンラインとオンキャンパスの割合がどういった形で組み合わされるのかはともかく、こういった教育方法はますます進化していくのではないかと思います。今は交通事故に遭い、その事故対策みたいなことですが、そうではなくてこれから大学のグローバル化も含めて、ハイブリッドな教育、研究をどうやって進めていくかは1つ大きなキーになると思います。
ただ國領さんが言われたようにハイブリッドは大変です。どうやって資金や人材を注ぎ込んでハイブリッド教育、研究を進めていくのかは大きな課題です。それぞれのお立場で、これからの大学教育あるいは研究について慶應義塾大学としてどのように対応すべきか、ご意見をいただきたいと思います。
鈴木 私がやっているのは一番泥くさい研究、つまり企業の人などいろいろな共同研究者が遠くから来て、学生と一緒に皆で実験器具を囲む。その後、一杯飲んだりするという昔ながらのスタイルです。それをハイブリッドにしたいと今、考えています。
ウェブ会議もこんなにスムーズにできるようになってきました。そうすると実験現場に、例えば頭にカメラを着けて、学生が実験器具を全部映しながら実験する。それを見ている地方にいる企業研究者が、「いや、違う。そこは穴を開けたらだめだよ。そこのところはもうちょっと温度上げて」というようなリアルな実験もできると思うのですね。
それができれば、実験系で困っている人たちも、相互に行き来しなくてもある程度のことはできるのではないかと思っています。今はまだ不便ですが、その現場にいなくても一緒に実験している感じを作れるシステムができれば、第2波、第3波が来た時に乗り越えていけるのではないかと思います。
そのようなリアル産学連携実験現場システムみたいなものを、ここ2、3カ月で開発できないかと思っています。
隅田 慶應義塾は、国際的に活躍する未来の若者を育成している大学だと考えた時、今回の状況でオンラインで授業をやるしかなくなったことはネガティブな面も多くあったと思います。しかし一方で職員などの働き方を見ていても、オンラインですと1人1人がアカウントを持ち、責任を持って発言し、意見を表明しないといけません。それは授業でも同じで、オンラインでの仕事の進め方や会議の進め方はグローバルスタンダードになってきました。
日本の誰が座っているのか分からないような会議に皆がいて、発言する人は少数という仕事の進め方とはすごく違います。ですから、オンラインでいろいろなことをやってみることは、学生にとってもグローバルスタンダードで物事を進めていくということに関しては非常に意義があると思います。
バーチャルキャンパスという可能性
國領 SFCはこの2年間ぐらいずっとキャンパスを3D計測して、それを学生がバーチャルキャンパスのアプリとして作り込んでくれました。もう少し詳しく言うと、SFCはドローンを飛ばしやすいですので、ドローンで膨大なキャンパスの形状データを3Dで取り、そのデータを使ってキャンパスに行けなくなった学生がキャンパスを散歩できるというアプリです。「cluster」というクラウド上でのサービスにSFCで取った3Dのデータを流し込むとキャンパスが再現できるのです。
アバターと呼ばれるバーチャルな世界での自分の分身が左に行ったり右に行ったり、現実を模した空間上で動かすことができます。 アバターが教室に入って席に着くと、その授業が聴けるようになります。そしてアバターにアイデンティティを持たせて、いつも同じ顔が見えるようにできる。
SFCには密になりやすいバスの問題があり、春学期は本当に全然行けなくなってしまいました。ただ時間や物理的空間など、どこかで同じものを共有していないと、人間同士のコンテクストが共有できないと思います。時間を共有できるのであれば、こういったバーチャルキャンパス上でその空間も共有していくことが大切だと思っています。
この手のツールが今ものすごく発達しています。自分が教室に行けなくても、海外からでもこのアバターに教室に行かせてそこに座っているのとまったく同じような感覚を持たせる。それがそれほどコストをかけずにできあがりつつあります。ということでテクノロジーを信じましょう。
青山 これは素晴らしいですね。学生が自分でキャンパスに行ったことになり、アバターが教室に入って授業が始まる。友達に会うと、そこで会話ができるのですか?
國領 できます。今のところチャットでしかできませんが、それをオンライン会議システムと連動させて、顔を見合わせながら通話することも不可能ではありません。
青山 リアルハプティクスで、握手をするとその感触が伝わってくるといったことができるといいですね。
國領 それもいいですね。まさにハプティクスをやりたいところですね。
隅田 これは国際交流でも、とても使えると思います。国際交流は、大学の様々な活動の中でも、とてもお金がかかる部分なんです。それは海外に行ったり来たりしなければいけないからです。
アメリカの州立大学などではお金持ちの学生ばかりではないので、国際プログラムに参加する学生は、結局奨学金はあっても、裕福な家の学生ばかりが優遇されてしまう。このような格差社会化が問題になっています。
こういうバーチャルキャンパスなどを利用することによって、人が移動しないことでの国際交流が可能になると、今まで参加できなかった学生にも国際交流の道が開ける可能性があると思います。
2020年8月号
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