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【特集:日本人の「休み方」】
座談会: 「休み方」が変われば「働き方」が変わる

2019/04/05

「睡眠」から1日を考える

山本 産業医のほうから、「休み方が大事ですよ」といった視点で企業に訴えかけることはあるんですか。

梶木 そうですね。一番よく話すのは睡眠の時間や質と、労災の発生率の関係ですね。人間は動物なので、1日のうち3分の1は眠ることが必要なんです。そうすると、睡眠の質を高めることが、昼間のパフォーマンスにものすごくつながってきます。

例えば、肩こりや腰痛がある人は、メンタル不調を訴えることも多く、腰痛を治すような運動をすると、メンタル不調も一緒に良くなって睡眠の質が上がり、仕事のパフォーマンスが向上することもあります。

1日の仕事の疲れをリセットして、次の日の英気を養うために、ストレッチをしたり、軽いエクササイズをやると睡眠の質が上がるんです。すると、翌日また元気になって会社に出てこられるんですね。

山本 経営者の方の受け止め方はいかがですか?

梶木 インパクトがあるのは、睡眠3時間のパターンを1週間続けていくと睡眠負債が積み上がっていくというグラフを示したときですね。土日に休息をしても負債は下がり切らず、ずっと溜ったままなんですね。

スタンフォード大学睡眠・生体リズム研究所所長の西野精治先生は、「1日の始まりは、起きたときからではなくて、寝るときから考えてください」と言っています。すると、5時間しか寝ていない日と、8時間寝ている日というのは、その後の昼間の時間の質が変わってくるわけです。「就寝を1日のスタートと考えると、生活の見方がとても変わりますよ」とお話すると、経営者の方も「目から鱗でした」と言っていただけます。

皆が休める社会に

石原 最後に「ワーキングマザー」のことに触れたいと思います。企業に勤める母親たちの休めていない状態は、もうひどいことになっています。いくら女性がたくさん企業に入ってきても、男性が家事をやらないままだと、育児も家事も女性がやるので、当然男性ほど会社で働けなくなり、その割合が増えると全体の労働時間が短くなってしまう。でも、男性も家事を担えばよいわけです。

あるいは、家事負担をどれだけお金で解決できるか。ロボット掃除機を始め、電化製品への投資は、どこでもだいぶ始めているかなと思うのですが、家事のアウトソーシングもできるか、というところもあります。

休むことに対してリテラシーを高め、睡眠や休みが少ないことが、自分の生産性なり、健康に対するリスクを高めていることをきちんと知って、土日に家事を全部やらなくて済むようにならないといけないと思うんです。

家に帰ってソファーに座ってテレビを見る余裕は、たぶんほとんどのワーキングマザーにはありません。彼女たちは、確実に男性より休めていない。そこも含めて、リカバリーのために、きちんと休めているかどうかを調査したほうがいいと思っています。

山本 なるほど、そうですね。今まで、政策・施策でも研究でも、働き方に注目するさまざまなアプローチを取ってきたと思います。それもあって、最近ようやく働き方が変わろうとはしていますが、アプローチはだいぶ出尽くした感があります。ところが、見方を変えて、休み方からアプローチしていくと、まだまだできることはたくさんありそうだということが、今日の座談会で分かり、非常に大きな収穫だったと思います。

上手い休み方ができる人は、おそらくとても優秀な人ですね。そのように見方が変わってくれば、それが広がっていくと思います。また、休ませ方が上手い企業が良い企業だという評価が得られるようにもなると思います。

休み方を通して考えていくことで、石原さんが言われたワーキングマザーの問題や介護の問題、または障害者雇用やダイバーシティーの問題なども、多くの課題を解決する糸口が見つかるのではないかと思います。そう捉えると、休み方改革を通じて、いいことが起きそうだなと、ワクワクしてきました。

今日は有り難うございました。

(2019年2月15日収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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