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【特集:日本人の「休み方」】
座談会: 「休み方」が変われば「働き方」が変わる

2019/04/05

「休ませ方」を考える

山本 皆さんの話をお聞きしていて、やはり、それぞれの人が自分なりの休み方を意識することが大事なのだろうと思いました。

おそらく、休み方に対しての意識があまりないところが、日本人の一番の問題なのでしょう。長期で休むことについての意識も、それから短期でリフレッシュしてリカバリーし、睡眠負債を削っていく感覚もあまりない。

加えて、長期休暇が取りにくい1つの理由に、先ほどあったように長期休暇を取ると、職場が回らないというような心配を持ってしまう。これはやはり、チームとしての仕事の役割があいまいで、メンバーシップ型で仕事をしていることによるのでしょう。ヨーロッパの人たちが1カ月近く休みを取れるということは、その間、誰かがいなくて当然という環境ができているということでしょう。

今まで出てきたような問題点をどう変えていったらいいのか、何が必要なのかを、皆さんにお伺いしたいと思います。

梶木 まず働き方そのものをどうデザインするかを決める必要があると思うんです。メンバーシップ型でいくのか、ジョブ型でいくのか、そのハイブリッドでいくのかです。メンバーシップ型が色濃い組織の場合、強制的に休みを取らせるような環境を整えることが一番なのかなと私は思います。

ただ、冒頭でも言いましたが、じゃあ休んで何するのか。そこから先は、現状は本人に任せられているので、休み方についても、会社の人事か福利厚生が多少面倒を見ていく形も必要かもしれません。例えば、適切な休み方の講座を開くとか、趣味の持ち方とか、休日の過ごし方に関するリテラシーを高めるということです。

一方、ジョブ型であれば、自分で技術を磨き続けなくてはいけないので、休むということも、ただ単に休むのではなく、サバティカル休暇のような、自分の技術を高めるために、休みを使うというリテラシーが必要ですね。

なので、一様に社員にどういう休み方をしてくださいというのではなくて、働き方や職種に応じて、そこはやはりオーダーメイドでアレンジするべきだろうと思っています。

加藤 そうですね。私は長い目で見れば、日本の社会は必ず変わっていくと思うんです。弊社では、新卒採用の女性比率を事務系で40%、技術系で15%にすることを対外的にコミットしています。これを何十年か続ければ、確実に労務構成が変わります。そうすると、働き方も自ずと変わってくると思います。

例えば弊社では今、共働きは全体では4割を切る程度ですが、20代だけ見れば7割ぐらいです。そうすると、給料が2人分あれば別に無理して昇格しなくてもいい、という価値観の人も出てくるかもしれません。子育ても、当然2人でするものになっていくでしょう。

それをどれだけ人事制度など企業の後押しによって加速させるか。私はそれをしないとグローバル競争に勝てないと思っていますので、人事という立場で、この昭和の時代に埋め込まれた様々な構造的な要因を、1つひとつ取り外していくことを考えています。

山本 梶木さんが言われたような、まずは強制的に休みを取らせるというアプローチも人事としては考えられているのですか。

加藤 おそらく、何か1つをやれば済むのではなく、あの手この手をやり続けるという発想が必要なんだろうと思いますね。

山本 休み方についての研修などもされているんですか。

加藤 やりますね。ただ、睡眠に関する講演会をやると、「寝なくていい方法はありませんか」という質問があって社員は講師に叱られています(笑)。

経営側の意識改革が必要

加藤 日々の睡眠については、勤務から勤務までの間を一定時間空ける勤務間インターバル制度を、政府でも今、推進していますよね。

石原 でも、インターバルは8時間という話がありましたが、11時間にしないと駄目ではないかと思うんです。

加藤 そうなんです。全然足りないですよね。

山本 ヨーロッパは11時間ですからね。睡眠に対する講習会を企業がやるということは、経営サイドが企業側のメリットにもなるということを理解してくれているということですね。

加藤 そうですね。現在の会社経営の意思決定をしている人のほとんどが50代、60代の日本人男性で、この人たちに理解してもらうのは相当大変です。大きな企業ほど大変だと思います。成功体験の塊みたいなところですから(笑)。

また、仕組みとして大事なのは、給料の払い方ですよね。今、多くの企業が仕事に対して給与を払っていませんので。

石原 存在に対して払っていますね(笑)。

加藤 これを変えないといけないと思うんですが、変えることができた企業は、経営危機があった会社だけなんです。どの企業も、仕事や役割に対してお金を払わないといけないと分かってはいるんですが、いろいろな理由で変えられないんですよね。

梶木 4月施行の働き方改革関連法で「同一労働同一賃金」が入りますね。あれは、1つの大きなきっかけになるとは思うんです。

山本 この4月の法改正は、いろいろな意味でのきっかけにはなると思います。有給休暇5日の義務付けもありますし、「企業が休みを取らせる」という考え方の転換が、原動力になって、加速していけばよいと思います。

石原 そうですね。私も目標数値を設定することが、日本のビジネスパーソンを動かすには、すごく効果があると思うのです。

2016年の女性活躍推進法が施行されたときも、採用に占める女性の比率や女性の管理職の人数を目標として数字に落として発表した瞬間に本気度が変わりました。

これは明らかにビジネスパーソンの習性です。「達成できませんでした」と公表されてしまったら、相当恥ずかしいので皆、頑張る。この強制力は上手に使えばいいと思うんですね。

SCSKという会社では、有休20日全員完全取得というのを目標にして、ほとんど達成しています。話を聞くと、20日間の休みを取るために、年度初めにすべて計画を立てるのだそうです。計画を立てることでマネジャーが誰に仕事を振るかということが決められるんですね。すると、どんなことにどれだけ時間がかかるのかというマネジャーの感度が上がる。これは素晴らしいことだと思っています。

そこまでいけば、長期の休暇や男性の育児休業取得などもできるようになっていくと思います。

山本 ある人がいなくなると、マネジメントしにくいということも、あらかじめ分かっていれば対応ができる、そして、それをやることがマネジャーの大きな仕事になってくるということですね。

確かに数値目標は日本人に向いていそうですね。政府の取り組みとしても、「休み方改革」を1つのスローガンにして、数値目標を法律に入れていけば、だいぶ意識が変わる気がしますね。

石原 休みの実態を調べてちゃんと公表しなさい、休みに関する改革案を出しなさいというだけの法律でいいと思うんです。睡眠についても、睡眠の質について、企業は配慮義務がありますと明記すれば、あっという間に変わるのではないか。

女性活躍推進法に対して行動目標をオープンにしている会社が、もう1万2千社になっています。施行時点では3千社でした。同じことが、休み方についてもできる気がします。

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