【特集:日本人の「休み方」】
働く人の休暇問題と改善策
2019/04/05
4月から始まった法規制
2019年4月から、企業経営者は、労働者に年次有給休暇(年休)を5日取得させる義務が生じていることをご存じだろうか(付与日数が10日以上の場合)。1人でも5日未満の人がいれば、違法になる。最近の「働き方改革」の中でも、この年休5日取得義務化は、画期的な規制だ。
正社員の年休取得の実態
労働政策研究・研修機構の調査によれば、正社員の32.5%は取得日数が「3日以下」である(掲載表)。
この表から次のことがわかる。①全体では3~4割の労働者が「5日未満」と思われる(4日と5日が区分されていないため詳細は不明)。②男性のほうが女性よりも0日の比率が高い。③小企業では取得日数が少なく、大企業では取得日数が多い。④営業販売などの職種では取得日数が少なく、専門職では比較的多い。⑤週労働時間が長いほど取得日数が少ない。
これらは、現在の年休に関する大まかなプロフィールである。女性のほうが男性よりも休んでいるように見えるが、女性の育児負担などを考慮すると、必ずしも高評価できない。また、補充要員や人事制度の観点からは、やはり大企業のほうが有利になるだろう。仕事の内容で見れば、ある程度は裁量的に働ける専門職よりも、顧客の都合で働くことが多い営業職などは、休みを取れていないと想像できる。そして、当然のことだが、長時間労働は休暇にも悪影響を及ぼす。
筆者が心配しているのは、全体で3~4割の労働者が「5日未満」と思われることだ。それでも、3~4日取得している人はまだ良い。あと1~2日追加できれば、違法ではなくなる。しかし、ほとんど年休を取っていない、「0日」「1日」などの場合、どうしたら4日も5日も増やせるだろうか。
筆者は、掲載表の調査の10年前にも同様の調査を実施したが、ほとんど変化していない。そして2018年に実施したインタビュー調査でも、まだかなりの企業で課題になっていると感じられた(拙稿「労働時間の規制改革と企業の対応」『日本労働研究雑誌』702号)。つまり、少なくとも過去20年くらいの間(おそらく、それよりもずっと前から)、年休問題は改善していない。
新たな法規制が、じわじわと効果を発揮すると期待したい。しかし、ほとんどの労働者が5日以上取得する状態が定着するには、数年かかるのではないだろうか(2019年はゴールデンウィークの10日間が法律上「祝日」及び土日となり、2020年はオリンピックがあるため、改正法の本格的な影響は2021年以降になると思われる)。
2019年4月号
【特集:日本人の「休み方」】
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小倉 一哉(おぐら かずや)
早稲田大学商学学術院教授、専門分野/労働経済学