三田評論ONLINE

【特集:日本人の「休み方」】
良い睡眠とは何か?

2019/04/05

  • 遠藤 拓郎(えんどう たくろう)

    慶應義塾大学医学部睡眠医学研究寄附講座特任教授、スリープクリニック調布院長

良い睡眠の目安は7時間

現代の社会では5人に1人が不眠に悩み、20人に1人は睡眠薬を服用していると言われています。特に高齢になると不眠症の割合は増すと言われており、超高齢化が進むわが国においては高齢者の睡眠障害は増え続けていく傾向にあります。

厚生労働省の平成27年国民健康・栄養調査結果の概要では、50~59歳までの男性で7時間以上寝ている人の割合は18.3%、女性で14.4%、70歳以上になると男性が47.6%、女性が39.2%となり、男性で2.6倍、女性で2.7倍にその割合が増えます。平成22年度の厚生労働省の診療報酬データを用いた向精神薬処方に関する実態調査研究では、睡眠薬の処方率は55~59歳男性で3.6%、女性で5.2%ですが、65歳以上になると男性で7.6%、女性で10.6%となり、男女ともに2倍に処方率が増えます。

睡眠薬の処方率の急激な増加は、60歳以下の年代にはなく、睡眠薬と抗不安薬に特異的で、抗うつ薬および向精神薬にはこのような傾向は認められません。因果関係については詳細に調べられていませんが、60~65歳に定年退職を迎え、自宅で十分に睡眠時間を確保できる状況となり、急激に睡眠時間が伸びた可能性があります。実際の診療場面においても、定年退職後は自宅で過ごす時間が長くなり、精神的・肉体的負担が減り、過度に疲れない生活、睡眠時間の延長、覚醒時間の短縮から、睡眠欲求が減り、不眠症になるケースを多く拝見します。

一方、筆者の監修のもと手首に着ける睡眠計を使い、睡眠時間とBMI(Body Mass Index :体重と身長の関係から算出される、人の肥満度を表す体格指数)の関係を分析したところ、「痩せやすい睡眠時間」が判明しました(図)。今回の調査の結果、睡眠時間とBMI 値の関係から「7時間睡眠」の人が、もっとも平均BMI値が低いことが判明しました。痩せやすい体にするには、睡眠時間が短すぎても長すぎても良くなく、痩せやすい睡眠時間のベストは7時間であることがわかりました。

睡眠時間別にBMI値を平均すると、男性は睡眠時間が「7時間」または「7時間30分」の人が、女性は睡眠時間が「7時間」の人が、最もBMI値が低いことがわかりました。一方、睡眠時間別の人数を確認すると、男性は「6時間」が、女性は「6時間30分」が一番多く、それらを頂点に睡眠が長くても短くても徐々に人数が減ることがわかりました。痩せやすい睡眠をとるためには、男性はプラス1時間、女性はプラス30分の睡眠時間を意識することが良いとわかりました。

米国と日本で、何度か行われた大規模調査によると、7時間睡眠の人が、6年後に生きてい る確率が一番高いことがわかっています。日本人はすべてのことにおいて極端になることが多く、働き方改革の結果、「極端な働き過ぎ」から「極端な休み過ぎ」にシフトする可能性も考えられます。

今回の結果から、定年退職を迎えたシニア世代の睡眠は7時間を超えないことが睡眠薬の使用率を抑えるポイントとなり、生活習慣病の原因となる肥満を防止したい現役世代は、極力7時間の睡眠を確保することが重要であると判明しました。極端な睡眠管理を信じるのではなく、「良い睡眠の目安は7時間」を覚えておいてください。

14年前にスリープクリニックを調布で開院したところ、全国から患者さんが殺到し、銀座、青山、札幌と広げ、信濃町の慶應義塾大学病院内にも睡眠外来を開設しました。患者が押し寄せる理由は、筆者が開発した「行動計」。500円硬貨ほどの大きさの行動計を腰に着けるだけで、日中の行動量と消費カロリー、入眠のタイミング、睡眠の質や姿勢、寝返りの有無まで知ることができます。良い睡眠をとるには昼間の適度な活動も大切で、行動計により簡単に確認できます。

図 睡眠時間別の平均BMIと人数(2018年3月 ドコモ・ヘルスケア調べ)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

  • 1
カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事