【特集:日本人の「休み方」】
座談会: 「休み方」が変われば「働き方」が変わる
2019/04/05
-
加藤 晋也(かとう しんや)
株式会社デンソー人事部長
塾員(1994商)。大学卒業後、日本電装(現デンソー)入社。東京支店にて市販営業担当後、デンソー労働組合に出向。2009年からアメリカ現地法人に出向。人事部人材育成室長を経て2018年より現職。
-
石原 直子(いしはら なおこ)
リクルートワークス研究所人事研究センター長
塾員(1996法)。2001年よりリクルートワークス研究所に参画し、人材マネジメント領域の研究に従事。15年機関誌Works編集長。17年より現職。女性リーダー育成、働き方改革等を専門とする。
-
島津 明人(しまず あきひと)
慶應義塾大学総合政策学部教授
早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程修了。博士(文学)。東京大学大学院医学系研究科准教授、北里大学人間科学教育センター教授等を経て本年4月より現職。専門は臨床心理学、精神保健学。公認心理師、臨床心理士。
-
山本 勲(やまもと いさむ)
慶應義塾大学商学部教授
塾員(1993商、95商修)。2003年ブラウン大学経済学部大学院博士課程修了。経済学博士。1995年日本銀行入行。日本銀行金融研究所企画役等を経て07年より現職。専門は応用ミクロ経済学、労働経済学。
「休み方」から「働き方」を考える
山本 今日は「日本人の休み方」について皆さまと考えていきたいと思います。今年のゴールデンウィークは、暦上、10連休になる方も多いようですし、またこの4月から「働き方改革関連法」も施行されるタイミングでもあり、「休み方」を通して「働き方」も考えていければと思います。
まず、それぞれの方から簡単にどんなお仕事をされているか、それから、ご自身の好きな休みの取り方、休みの過ごし方を一言お願いできればと思います。
まず、私から申し上げますと、私は労働経済学を専門にしており、主に働き方について、データを使っていろいろな検証をしております。休み方については直接的な研究はそれほどしていませんが、普段は働くほうから人の行動を見ているので、その裏にある休み方という視点から日本人の特性を議論できることを楽しみにしております。
私の理想とする休み方はメリハリのある休み方でしょうか。仕事の忙しい時期とそうでない時期の差がかなり激しく、忙しい時期は、それこそ徹夜に近い形で仕事をしているので、休むときには何もしないで1週間ぐらい休みたいと常々思っています。
石原 私は、リクルートワークス研究所で人事や人材マネジメント、企業における人的資源管理というテーマで研究を重ねてきました。
2014年ぐらいから、政府が「働き方改革」を言い始めるよりも少し早く、長時間労働の改善に向けての研究に取り組んできました。その前に女性の活躍の研究をしており、なぜ女性が働き続けられないか、なぜ女性が企業の中で昇進できないのか、ということの裏には、「長時間労働を厭わない」という暗黙のルールがあることに気づいたのですね。
ここ数年、働き方改革の議論が盛んですが、山本さんがメリハリとおっしゃったように、日本の多くのワーキングパーソンがメリハリをつけて働くということに、まだ慣れていないのが現実なのかなと思っています。
私が好きな休み方ですが、子どもがまだ小学生で、野球をやっているため、私も土日すべてをグラウンドで過ごしているんです。そこで、息子と同じ日に休んでも辛いだけだと最近分かってきて(笑)、私だけが休める日があるというのが一番いい。これが、今の私の「休み」に対する要望です。
島津 私は、実は学部を卒業した後、テレビ局で営業をやっていて、そこで目茶苦茶に働きました。10時〜6時の仕事でした。これは朝10時に出勤して、翌朝6時に帰ってくるということです(笑)。この生活はあまり良くないのではと思い、もう一度大学に入り直して、それから働く人たちのストレスの問題やメンタルヘルスの研究をずっと続けています。
職場のメンタルヘルス、産業保健を中心に研究してきましたが、いい働き方をするためには、やはりいい休み方をしなければいけない、ということに気付き始め、最近は、働き方だけではなく、オフ・ジョブ・エクスペリエンス、つまり仕事以外の経験も少し研究しています。例えば、余暇をどのように過ごすか、気分転換はどうすればいいか、ワーク・ライフ・バランスをどうすればいいか、また「リカバリー」と言いますが、疲労回復をどのようにするかといったことです。
2005年に、オランダに在外研究に行ったのですが、彼らの労働生産性は大変高いのに、大体夕方6時ぐらいにはさっさと帰って、夜、テレビでサッカーを見ながらビールを飲んで過ごしている。さらに、7、8月はバケーションで誰も大学にいない。そういった人たちを目の当たりにして、彼らはなぜそんなにパフォーマンスが高いのだろうと考えるようになりました。
自分の休み方で言えば、オランダ留学中に1人目の子どもが生まれ、その3年後に2人目の子どもが生まれました。このときは東大の医学部に所属していたのですが、2週間だけ育児休暇を取ってみました。一応、医学部の教員の中で第1号でした。
梶木 産業保健コンサルティングアルクの梶木です。私は新日鐵で産業医としてのキャリアを始め、その後、長く大学で教員をしていましたが、一昨年より企業の産業医と産業保健活動の支援を行う会社を設立し、中小企業から大企業を顧客として働いています。
最も長いキャリアである大学時代は、産業医向けの研修会を土日や夜に行っていたこともあり、休みが削られることがありました。ただ、会社を作ってからは、自分のペースで仕事を選択できるので、休みも自分で工夫しながら取っています。
今の仕事の仕方は「ジョブ型」ですが、以前はどちらかというと「メンバーシップ型」で仕事をしていました。ジョブ型になったことで家族との時間も増えましたし、私自身も最近は趣味や体力作りのための時間を取ることもできるようになってきました。
好きな休み方は、年に数回、家族との旅行やゆったりとした時間を確保しつつ、平日の睡眠を十分に確保できるライフスタイルが理想です。
加藤 私は、デンソーという自動車部品メーカーで、人事労務関係を中心にキャリアを積んできました。今、働き方改革が盛んですが、自動車業界も「C A S E(Connectivity, Autonomous,Sharing, Electrification)」という言葉で象徴されるように大きく変化をしています。人が車を持たない、買わない、乗らない、という社会になって車が売れないときに、自動車部品メーカーはどうやって生き残っていくかが問われています。
さらに、長らく続いたガソリン、ディーゼルという内燃機関から電気自動車や水素社会になったときに、要らなくなる部品が山ほどある。産業構造が大きく変わっていく中で、当然われわれも働き方を変えていかなければいけないのです。
時代が大きく変わる中、やはり日本型の人事制度の構造的な問題があります。今の人事制度を、どのように大きく変えていくことができるか。現在、アプローチを変えていこうと思っているところです。
自分の休み方についてですが、子どもが3人いますが、だいぶ手がかからなくなってきましたので、最近は1人で休むのが好きです。一番いいのは、平日に午後休を取って、自分の好きなラーメンを食べに行ったり、自分だけの時間を半日どう過ごすかと考えるのが大好きなんですね(笑)。
2019年4月号
【特集:日本人の「休み方」】
カテゴリ | |
---|---|
三田評論のコーナー |
梶木 繁之(かじき しげゆき)
株式会社産業保健コンサルティングアルク代表取締役
1997年産業医科大学医学部卒業。医師。博士(医学)。労働衛生コンサルタント。新日鐵㈱君津製鐵所産業医等を経て2017年より現職。産業医科大学産業保健経営学非常勤講師。専門は産業医学、健康経営など。