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【特集:日本人の「休み方」】
座談会: 「休み方」が変われば「働き方」が変わる

2019/04/05

「メンバーシップ型」の功罪

山本 これまで日本人は休み下手とよく言われてきましたが、それはどうしてなのかを考えていきたいと思います。早速「日本型人事制度」について加藤さんが触れられましたね。

加藤 人事的な観点から言うと、先ほど梶木さんのお話にあったメンバーシップ型とジョブ型という区分けでは、日本の企業は、やはりメンバーシップ型なんですね。つまり、職務領域が限定されていない。自分の仕事をやるのは当たり前で、その上で、どれだけプラスアルファをやるかというところも評価の対象になってきた。

すると、自分の仕事が終わっても帰ることができなくなる。チームワークで仕事しているという文化があり、これはプラス面もあると思いますが、ここに長時間労働が常態化する要因が埋め込まれていると思います。

人事制度も、日本は職能資格制度がベースで、役割を果たすことに加え、積み上げた能力をどれだけ発揮しているかを評価することが制度の根幹になっていますので、構造的にやはり長く働くことが求められてしまう。そういう制度的、社会的な背景があると思っています。

山本 いわゆる日本的な雇用慣行を持っている会社というのは、休みが取りにくい、長時間労働になりやすい人事制度があるのではということですね。

梶木 働く人の側から言えば、休みに何をするのかというポリシーがない人が多いということもあります。産業医として長時間労働者へ面談をする際に、「お休みに何をしていますか」と聞くと、「土日は平日の疲れをリカバリーするためにずっと寝ています」みたいな答えが多い。趣味がないので、結果的に時間の使い方が分からないのでは、と思うことがあります。

もう1つ、「休む」ということのかなり大きな部分は睡眠ですが、睡眠に対しての認識が、皆さん低いんですね。良い睡眠が取れた次の日は、頭がすっきりしていて、仕事のパフォーマンスも上がるはずなのですが、睡眠の重要性について子どもの頃から教育されていない。勉強も、睡眠時間を削ってやるという話になりがちです。それが、ひいては休むことに対する意識の低さにも表れていると思います。

島津 そもそも、休むとは何だろうかということですね。あなたの勤務日は月〜金で土日は休みですと。しかし、そうは言っても、研究者だったら、アイデアが浮かんだらメモをするし、文献を読み込むことなどは休日にやっている。これは休みなのかそうではないのか、非常に区別をつけづらいとも言える。

それからもう1つ、体が休んでいるのか、心が休んでいるのかということもある。体は、確かに会社に出勤していなくても、心は仕事のことをあれこれ考えている。こういった状態は休んだことになるのだろうか。何をもって「休む」というのだろうかという本質的な問題があると思うのです。

山本 確かにそうですね。

島津 また、日本人は自己というものの見方が、欧米などと比べてちょっと違うという指摘もあります。日本の場合、相互協調的な自己、つまり、「自分」というものが、相手との関わりの中で定義されている。例えば「島津家の長男」というような形で表されるわけです。その相互協調的な自己というのは、まさに日本の文化の場合、運命共同体的なメンバーシップの仕事の仕方というところにもつながってくるのではないかと思います。

ただ、加藤さんが言われたように、メンバーシップ型の仕事も悪くないところもあるんです。心理学の分類ではパフォーマンスの見方としては2つあります。1つはインロール・パフォーマンスと言って、自分の決められた仕事をどのくらいきちんとやるか。

もう1つは、アウトロールまたはエキストラロール・パフォーマンスと言い、これは職務記述書にはないけれど、自発的にどう仕事をしていくかということです。自分の仕事が決められ過ぎていると、同僚への手助け行動なんかもしないし、野球で言うと、ポテンヒットが多くなってしまう。それも困りますよね。

そのへんの塩梅をどうするか。日本では「情けは人のためならず」と言いますが、相手を助けると、結局いつかは自分に返ってくるという文化も日本は持っている。そのあたりをどう折り合いをつけていくかが課題かなと思っています。

同調圧力の強い日本企業

山本 非常に示唆に富んだご指摘ですね。相互協調型の自己というのは、メンバーシップ型とか、あいまいな職務とかにも関係してきていると。

石原 私が今、40半ばですが、その上の世代と、今の20代ぐらいの世代は、感覚がだいぶ違うのではと思います。いわゆるオールド・ジェネレーションの人たちはやはり休み下手です。

人材マネジメントの観点から言うと、メンバーシップ型であり、相互協調型だったのだと思うんですが、基本的に自律をあまり求められないので、他者と違うことをすることに関して自信がない。これが、日本のビジネスパーソンの特徴だと思うんです。

これは、子どもの頃からの教育もそうです。自分の子どもを見ていても、道徳の授業でも正解を導き出さないといけないという教え方なんですね。「どっちの考え方にも言い分があるね」で終わらないんですよ。

正しい考え方、つまり皆が賛成してくれる考え方が求められていて、そうではない人は基本的に社会の中では損をするということが、脈々と教え込まれている。「人と違っていい」という考え方が支持されることが本当に少ないんですよね。

私も、一企業のマネジャーとして、若い人が、「仕事が終わったので、今日帰ります」と言ったら、ちょっとムカッとするんですよ(笑)。私と同じくらいやってほしいとか、私が満足いくまでやってもらいたいと、言いたくなる気持ちが私の中にもある。

梶木 昭和的なんですね。

石原 そうなんです(笑)。私は初職が銀行なので、最初のワークルールが伝統的日本企業のものなんですが、リクルートもやはり同じで、同調圧力がすごくあると思うんです。

そういった中では、「私、7月に2週間休みを取るので」と、ほとんどの人が言えない。休みと仕事のバリューが、明らかに仕事のほうに偏り過ぎている。これが、私の世代よりも上の標準的なビジネスパーソンの価値観だと思うんですね。

しかし、若い人はだいぶ違ってきています。自分と他者が違ってもいい、人が働いているときに自分が休んでもいい、という考え方は日本型雇用の中で通用しない、という価値観は、何とかすべき時期にきていると思います。

山本 個々人が多様な発想をしてイノベーションを生んでいくことが求められる時代には、今までの価値観はなかなかそぐわなくなってきているのでしょうね。

以前、私は、日本でバリバリ働いている人がヨーロッパに転勤した際、労働時間が短くなるのか、という研究をしました。すると、現地採用で同じ仕事をしている人と比べると、やはり日本人のほうが長くあいまいな仕事をたくさんやってしまうようでした。しかし、それでも労働時間は日本にいた時よりも確実に短くなっていました。

ところが、そうした人たちも日本に帰ってくると、また長くなってしまう(笑)。結局、それは周りの影響を受けやすい、やはり相互協調というか、マジョリティーの働き方に染まってしまうということでしょう。ひとりだけで多く休もうとしても、すごくコストとストレスがかかってしまう社会が日本だということです。

それが、有給休暇の取り方にも密接に関わっていて、有給休暇消化率を国別で比較すると、日本は圧倒的に低いですよね。ヨーロッパの半分以下という統計もあります。一方で法定休日、祝日が多いんです。そこでカバーしているようなところもあると思います。

石原 同調圧力の中で休みを増やしているんですね。

山本 そういう意味では、意図したのかどうかは分かりませんが、日本人の休みを増やす上では、有効な策だったのかもしれません。

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