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【特集:日本人の「休み方」】
「本の読める店」の発想と組み立て

2019/04/05

  • 阿久津 隆(あくつ たかし)

    fuzkue 店主・塾員

渋谷区の初台でfuzkue という店を始めて4年半になる。「本の読める店」と謳っている。

日々、本を持ってやってきた人たちが、静かに、本を読んでいる。その光景を僕は美しいと思い続けている。そうやって働いている。

「本の読める店」が提供するのは、読書がなににも遮られることなくいかなる気兼ねもしないでいくらでも気の済むまで過ごすことができるそういう時間だ。そしてそれを贅沢な豊かな自分への褒美の時間として享受できるそういう時間だ。それがそのままに実現したらそれは「最高の読書時間」だったと言えると考えている。たとえば家では気兼ねせずに気の済むまで読むことができるが、何かに遮られないかはわからないし贅沢に思えるかもわからない。できるときもあるだろう。そうしたらそれは「最高の読書時間」だったと言える。だが常にそうあれるか。プレディクタブル(予測可能)であるということも肝要だ。それでここのところは映画館のことばかり考えている。映画館は存分に快適に映画を見たい人たちを満足させるための空間で、そこに集まった人たちは映画を見るという目的を基本的に共有して いる。基本的にというのはそうじゃない人も来るは来るからでしかし映画館は映画を楽しみに来たわけではない人(寝に来た人、おしゃべりをしに来た人)を満足させることは考えない。そこに集った人たちが互いに敬意を持ち合いマナーよく過ごしたい。その実現のためにいくつかの決まりごとは設ける。それは気持ちよく映画を見たいと思って来た人たちを守る。

「本の読める店」はそれの読書バージョンだと考えてもらったらいい。それがどんな体験になるのかはどんな場所でもそうだが来てみればわかるし来てみないことにはわからないしおしゃべりするでも仕事するでも勉強するでもどれでもいいが読書以外のことをしに来てもわからないまま帰ることになるし不自由ばかり感じるだけだから来てみたところでわからない。もし読書以外の用途の方が存分に楽しんでくださったとしてもそれは双方にとって幸福な偶然というだけであってそれは狙って起こすものではないし狙うことは一切しない。ゆっくり本を読みたいという欲望を抱えて来た人に満足していただくことだけを考えている。仕事を終えて、あるいは休みの日に、「本を読む」という過ごし方を選択された方に向けて最高の体験を提供することだけを考えている。ではどうするか。

「本の読める店」は何によって成り立っているか。その要素を分解してみると「店をつくる/「先入観は可能を不可能にする」/出店場所を決める/商圏を見定める/セルフビルドをがんばる/本を並べる/店を定義する/きちんと宣言する/誰を幸せにするのかを明確に設定する/ルールを定める/メニューを決める/野暮を選ぶ/言葉に頼る/自由を制限する/枠組みを提示する/余地をなくす/約束をする/ポジティブな言葉を使う/おひとりさまを主役にする/「その人たち」だけで成り立たせる/すべての人が平等でいられるようにする/察するコストをゼロにする/インストールしてもらう/言葉を正確に発する/「わからな さ」の芽を摘む/他者とともにある/「独り」でない「1人」をつくる/共犯意識をはぐくむ/ちゃんと魅力のないものにする/「すべての人」が喜ぶ長居の仕組みをつくる/「すべての人」の範囲を決める/掌編小説「長居、2つのパターン」/「ゆっくり」の滞在時間を知る/値段設定をする/お金で解決する/矛盾をなくす/支払う手立てを用意する/正直に振る舞う/手の内を知ってもらう/飲食への依存から脱する/1500円の報酬を受け取る/「安い客」でいられないようにしてあげる/雑に使えないようにしてあげる/使い倒せないようにしてあげる/満足度を下げずに席を回転させる/喜びをお金で表現する/秩序を守る/入り口までで知らせる/無関係の人をせき止める/きちんと無力化する/用途を制限してあげる/「カフェ」からは遠く離れる/運を排する/静けさを壊す/わりとよくしゃべる/音をコントロールする/既成の秩序をひっくり返す/自分の手で掴ませる/理解を信頼する/どんどん変化する/軸を手放さない/歩きながら考える/次のフヅクエをみんなでつくる」とこうなる。

これは何かと言えば現在店のウェブ上でおこなっている連載「「本の読める店」のつくりかた」の目次でただの目次だがフヅクエが何にどう取り組んでいるかのエッセンスを伝えることはできるためこのようにして貼った。これではわからないと思うならば読みに行っていただけたらと思う。ただこのあたりの項目は今これを書いている2月末の時点ではまだ目次だけしかなく本文は用意されていないから読めない。順次書いていく。そうしたら順次読めるようになる。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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