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【特集:日本人の「休み方」】
働く人の休暇問題と改善策

2019/04/05

本来の休暇とは

欧州諸国では、最低でも2週間くらい連続していないと、法律上も社会通念でも、「休暇」扱いされない。日本では、勤続年数にもよるが、正社員の多くは年に20日前後の年休を持っている。しかし、せいぜい10日弱くらいしか使わないのが通常である。それも、10日間連続して休むのではなく、夏休みに2日とか、年末年始に3日などと、細切れに取る。

「盆・暮れの休み」は、以前から定着していた。そしてゴールデンウィークも、かなり定着している。つまり年間3回、4~5月、8月頃、12~1月には、それなりの休みを取る労働者が多い。

ところが、これらの時季に休む場合、会社の就業規則などで定められた休日や休暇(特別有給休暇)があることが多い。年休とは別枠の休日や休暇があることは、法律上の年休を取らなくても、それなりに休めるということである。しかし、別枠であるため、また特別有給休暇の夏休みに追加して年休を2日とか3日しか使わないため、結局、年休が減らない。

また、年休を取り残す理由として、「病気や急な用事のために残しておく」という回答も多い。筆者が関わったこれまでの調査でも、回答者の6割以上がそれを挙げ、他の様々な理由の中でも第1位になる。これには、年休を半日・1日単位などで取ることができるという事情もあるが、より本質的な問題がある。

というのも、業務上災害(労災扱い)ではなく、私傷病による出勤不能の場合、多くの企業では「欠勤」として扱われ、その分の賃金は減る。また場合によっては、賞与の査定などにも、欠勤が影響する。そのため、多くの労働者は、欠勤にならないよう、「どうせ余っている年休だから」と、私傷病による欠勤を事後的に年休でカバーし、欠勤ではなかったことにする。それに慣れると、「年休は残しておくもの」という考えが当たり前になる。

休暇のインフラ

連続休暇のための社会的インフラが充実していないことも、年休取得が進まない要因だろう。欧州では、全従業員が一斉に同じ期間の休暇を取るわけではない。例えば、夏季休暇が集中する6~9月の前後、つまり5月や10月などに休暇を取ると、年休にプラス1週間くらいの、特別有給休暇が付与されたりする。そうすることで、事業継続にも悪影響が出ないようにする。また、フランスでは地域ごとに学校の夏休み期間をずらし、親が勤める企業もそれに合わせるという制度がある。これも、ピークをずらす効果がある。

あまりお金のかからない避暑地のキャンプ場に家族と出かける人もいれば、リゾート地の家族と都市部の家族がお互いに住まいを貸し借りして、長い休みを過ごす習慣も定着している(宿泊費がかからない)。

こうした社会的習慣、休暇に関するインフラ整備を考えると、日本には多くの課題がある。例えば、安価な宿泊施設が少ない。ピーク時に宿泊施設が高価なのは、宿泊客が殺到するためだけでなく、その時季以外に客が少なくなることから、ピーク時だけで年間収益の大半を確保しようとするためでもある。もし、年間を通じていつでも宿泊客がいる状態になれば、必ずしもピーク時の値段を高く設定する必要はない。それに、業種別に見て特に非正規雇用の多い宿泊業(繁忙期のみ非正規雇用が増える)などの雇用対策にも、一石を投じる可能性がある。

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