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【特集:日本人の「休み方」】
働く人の休暇問題と改善策

2019/04/05

休暇の取得促進策

欧州の企業は、年度初めに全従業員の全年休について希望を聴取し、調整して、年間の全従業員の休暇時季と日数を決める。そしてほぼそのスケジュール通りに休む。これを筆者は、「休暇カレンダー」と呼んでいる。日本企業でも、取引先や顧客のために一斉休業日を公表することはある。しかし、全従業員の全年休を計画する企業はほとんどない。あらかじめ年休取得の予定を立てておいたほうが、急に予定を立てるより、あるいは予定を立てないよりも、休みやすくなるだろう。筆者は機会がある度にこの「休暇カレンダー」をお勧めしている。

もちろん、いきなり欧州並みにはできないだろう。当面、年休の一部について、1年間ではなく半期・四半期ごとに、職場単位で休暇カレンダーを作成してはどうだろうか。実際、世間の休日に営業する大手百貨店が、人材確保のためにもワーク・ライフ・バランスのためにも重要な対策ということでこの休暇カレンダーを導入し、成功した。最近の筆者の調査でも、同様の休暇カレンダーを導入している企業はある。欧州企業と同じことをするのではなく、1週間程度の休暇を年に数回取ることができれば、ワーク・ライフ・バランスは向上する。そしてワーク・ライフ・バランスの向上は、人材確保のためにも、ますます重要になっている。

また、私傷病のために年休を取り残す習慣についても、健康保険法による傷病手当金の支給が開始(欠勤4日目以降)されない「待機期間」について、特別有給休暇を認め、その分、年休の必要性を低減している企業もある。これらの中には、有料の診断書ではなく、医療機関の領収書を提示するだけで良いという企業もある。私傷病のための特別休暇があれば、連続休暇を取りやすくなるだろう。

さらに、先進的な企業は、管理職の人事評価に、部下の年休取得状況を反映している。部下を休ませる上司ほど高評価となる。

年休取得を促進するための職場環境整備も重要だろう。業務の偏りがあれば、繁忙度に違いが生じ、多忙な人が休めないという状態になる。この問題については、一つには人材確保、そしてより重要なのは人材育成である。「多能工(たのうこう)」(工場などにおいて、1人で複数の業務ができる能力を持った人材)という言い方があるが、ホワイトカラー労働でも、お互いに業務のフォローができるような育成を進める。

顧客企業の無理な注文のせいで、休みが取れないという状況もあるだろう。コストとスピードだけの競争になっている状況では、なかなか抜け出せないかもしれない。しかし、福岡県のある小企業は、自社の労働者のために、無理を言う顧客をあえて断った。他方で、小規模の顧客を増やすことで、利益の落ち込みを防いだ。この企業には、有名大学の学生も求職に来るようになった。

何もしなくてもいい

「休んでもすることがない」から休まない、という人もいるだろう。しかし、筆者の研究によれば、「休んでもすることがない」という意識の強い人は、実際は年休の取得状況が悪くはなかった。実はそこそこ休んでいるのだ。しかし、すべての年休を取るほど休暇の必要性を感じていないらしい。

休むことでしか得られないことはたくさんある。それが仕事にも人生にも新たな視点や知識、経験や感動をもたらす。しかし、何もしなくてもいい。能動的に何かをすることだけが、休みの過ごし方ではない。近所を散歩するだけで気分転換になる。寝そべって読書をするだけでも、知識が増える。一見、「ムダな知識」も何かの役に立つことがある。尊敬する指導教授は、「休日は身体の休養、休暇は心の休養」と仰った。この意味を深く考えたい。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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