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【特集:新春対談】
新春対談:次世代を見据えた日本の展望

2025/01/06

超高齢社会の到来にどう対応するか

伊藤 医療費・介護費の負担も、それを若者に向ければいいという問題ではないですよね。あとは教育費や投資をどう捉えるべきなのか。医療費負担も、先日、現役世代が年間1人7万円ぐらい、75歳以上に仕送りをしているのと同じだという記事(「日経新聞」2024年8月27日付朝刊)を読みました。

 2025年はいわゆる団塊の世代の方、皆が後期高齢者になるのです。ここからが本当に超高齢社会時代で、2040年ぐらいまで、人手も足りないし、この15年ぐらいが特に大変なのですね。

高齢化とともに人口減少が進んでしまうと、その後も引き続き高齢者比率は変わらないという問題も生じます。人口が増えてくると高齢者比率は徐々に下がるのですが、今のままでは下がらずに40%近くで横ばいになってしまうので、やはり少子化対策は重要だと思います。

伊藤 その中で18歳から30歳の有権者が占める割合が、現在15%程度に下がっているわけです。

 いわゆるシルバー民主主義と言われるものですね。これは大きな問題で、どうしても高齢者に向けた政策が優先されてしまう。また、生産性という面でも、若い人ほどイノベーションを起こしやすいので高齢化はネガティブに働くとも言われています。高齢者の方はやはり新しい技術に慣れるまでに時間がかかる側面もあります。

伊藤 なかなかデジタル化が進まない中、例えばマイナンバーカードを利用した健康保険証でワクチン等の接種記録がつくとか、母子手帳ではなく全部ポータブルで見られるようになったり、お薬手帳も一体化するといった改革は進んでいますね。

しかし、アメリカなどではソーシャルセキュリティナンバーによる管理で、アルバイトで年金を納めた時から、生涯にわたってすべて合算され、どこに転職しても結果的にあなたはこれだけの年金をもらえる権利がありますと、プッシュ型で連絡が来る。それがどうしても日本の場合は、申請ベースになってしまいますよね。

 年金も一部見られるようになっていますが、転職も増え、マイナンバーが普及しましたから、マイナポータルで常に自分の将来の年金が確認できる社会になるといいですね。年金の制度は、複雑でわかりにくいところがありますし。

伊藤 特に若い人、またお金に困っている方々は、何かあったらコロナの時などには収入に応じて申請ではなく自動的にお金が入ってきてもらえるような、プッシュ型の助けがあるといいわけですよね。

 本当にそう思います。データ連携によりこの人が困っているとわかったら、自治体などがすぐに対応できる。そういうデジタルのインフラの利便性をもっと高くしていく必要があると思います。

伊藤 国民全員に4万円を配るようなことをせずに、どの人に何が必要かということを責任をもって国がしっかりと管理した上で見えるようになれば、必要な支援が得られると思うのです。

私も高等教育の将来に関していろいろ発言していますが、お金がない家庭から大学に行きたいということであれば、「あなたはどこの大学に行っても、これだけ毎年支援が得られます」ということがプッシュ型で通知され、国公立大学だろうと私立大学だろうと支援が得られる仕組みになればと思うのです。

 私も賛成です。デジタル時代でスマホを皆が持っている時代に、プッシュ型支援はすごく大事だと思います。カギはデータ連携ですよね。

日本は、1人ひとりの可処分所得を把握しようとすると、税、保険料、手当、それぞれ所管官庁がバラバラなのです。それらを併せると所得の低い若い人の負担率は重いのです。特に社会保険料が高くなっており、生活保護レベルをちょっと超えた所得の若年層の負担率が国際的にも高いです。年収200万といった若い層を支援しなければと思います。

伊藤 その年収200万円の若者が、高齢者に仕送りをしている状態なのですね。

 私はもっと配慮すべきだと思います。

伊藤 個人情報保護があるのでこれはできないとか、いろいろできない理由が出てきますよね。

 マイナンバーカードでもちょっとミスがあったりすると、マスコミで騒がれたり。でも、健康保険も大きな流れとしてマイナンバーカードを進めていますよね。これは大事なことだと思います。

伊藤 やはり必要な人がプッシュ型で助けてもらえるようにしたい。お金がある方はその流れをある程度見られても諦めてくださいと。そこは共助ですからね。

 若い人や困っている人が、そういう支援を受けられるようにしたいですね。

ワイズスペンディングが必要

伊藤 国の財源に関しては、国債の発行をできるだけ抑制して、現役世代のそれなりの負担が大切だということを、翁さんはことあるごとにおっしゃっていますよね。

 子ども、孫たちの世代は人口が大きく減少していきます。その中で、大きな公的債務を抱えたままでいくと、金利がある世界ですから、歳出を債務の利払いに充当しなければならなくなるので、将来世代の社会保障のためにそれほど使えなくなる。

現在の世代のために必要な支出はできるだけ現在の世代でまかなっていかないといけない。すでに対GDP250%の負債を抱えていますので。もちろんすべて現在の世代でということではなく、社会的リターンの大きいものであれば国債発行も必要であるとは思います。

伊藤 将来の投資であればということですね。

 そうですね。財政支出そのものも、やはり社会的リターンの大きいワイズスペンディング(賢い支出)をしていただきたい。

コロナでの給付がありましたが、給付は本当に必要な人たちに集中的に支援する必要がある。電気・ガス、ガソリン補助金はすでに約10兆円を使っています。本当に厳しい事業者、世帯にはしっかり支援する必要がありますが、高所得者まで一律で支援が必要なのか。ワイズスペンディングが重要だと思います。ガソリンはこれからCO2を削減していく政策との整合性もあります。そういうところで、もっと将来のためになるようなお金の使い方ができないかと思うのですね。

伊藤 そうですね。でも将来世代の声を反映させていくのは、先ほどいったように、有権者の中で占める割合が少ないし、また海外から来た若者たちも選挙権がない状況です。

 経済学の分野だと、選挙権のない子どもの親が子どもの立場に立って投票できるような仕組みを取り入れたらどうかという議論がありますが、なかなか現実には難しいと感じます。

1つ海外の例で参考になるのは、独立財政機関の取り組みで、将来世代の利益のために、超長期の財政推計を、議会や、政府の中の独立した組織が出していることです。OECDの国々の多くに存在します。日本でもこうした組織と機能が必要という議論もあります。ようやく内閣府が2024年初めに、2060年までの経済財政推計を出すようになったのは第一歩です。

3つシナリオが出ているのですけれども、成長ケースはかなり楽観的です。やはり医療などの支出増加をいかにメリハリのある形で抑えていくかが重要です。国民皆保険は維持しなければいけませんが、どのようにやるか。特に保険の範囲をどうするのか。

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