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【特集:エンタメビジネスの未来】
座談会:最前線から考える日本のエンタメの可能性

2024/04/05

大学に期待すること

三原 様々なお話を伺ってきましたが、このように様々な可能性と課題のある日本のエンターテインメントビジネスについては、大学としても、研究や教育、人材育成の体制をこれまで以上に整備していく必要があるのではないかとも思われます。そのような問題意識の下で、私どもも実際に慶應義塾大学の中でエンタメに関する各種の講座を開講してきました。

座談会の締めくくりとして、実際に現場でエンタメビジネスに携わられている皆さまの目から見て、日本のエンタメビジネスが世界でさらなる飛躍を遂げるために、大学、特に慶應義塾に何を期待するか、ご意見をいただければと思います。

吉田 おっしゃる通りで、人材が日本にもなかなかいないので、もっと海外に出ていってほしいなあ、と思っています。いろいろな地域の人と混ざって仕事をしていると、海外の優秀な人たちがとても目立ちます。海外のそれぞれの拠点の社員たちは、現地語と日本語プラス英語がしゃべれて、怖がらずにいろいろな人と交流できるマインドがある人がやはり多いです。

日本の学生さんもぜひ頑張ってほしい。今後のコンテンツ産業の市場は、もう日本の市場を見るだけではなく、最初から全世界を相手にしていく必要があると思います。日本から世界中に発信できる時代だから、どこの国の誰が見ても面白いと思えるものを、怖がらずにいろいろな人と交流しながら作っていけるような、そんな日本の若い人が増えるといいのになあ、と思っています。

三原 やはり語学とコミュニケーションがカギになりますか。

吉田 語学力はもちろんあったに越したことはありませんが、実は必ずしもそれだけではないと私は思います。日本で本当にメインの制作をしている現場の方たちこそが外に出ていかないと、結局何を作りたいのか、何をやりたいのか、本当のメッセージが伝わらないのではないでしょうか。

KADOKAWAでも、日本の現場の編集者やプロデューサーが海外拠点の仕事に携わったり、外国人社員が日本の編集部に入って、いつかはグローバルで活躍できるようにと頑張ったり、どんどん交流をしていっているところです。

せっかくエンタメ界に来たのですから、楽しんでなんでもやってほしいですよね。エンタメは結構大変な仕事じゃないですか。辛いこともありますし、時間や気持ちも非常に持っていかれる。クリエイティブにこだわり、熱があって、困難があってもコミュニケーションを取り続けて解決できる人が必要だと思います。そうでないと、やはり人を驚かすものを作るのは難しいと思います。

三原 安部さんのいらっしゃるアーチはまさにそういったフロンティア精神的なビジョンで創業された会社だと理解しているのですが、安部さんはどういった人材が必要だと思いますか。

安部 アニメでも四大国際映画祭がありますが、その一強であるアヌシー国際アニメーション映画祭に行く日本人をどんどん増やしていってほしいというのは切に思っています。そこに、慶應の同窓の方がいるというのはとても心強いだろうなとも。

私もイベント会場、試写室、映画祭会場など、いろいろなところで慶應出身の方に出会うことがあるんですね。それがやはり心の支えにはなります。これからは新しいビジョンを世界に皆で打ち出していってほしいと思うので、まさにゲームチェンジしていく中で新しいことに対し面白いからやってみようという方にぜひ、この業界に来てもらいたいなと思います。

そういうきっかけとなるような講座が慶應で開かれ、それを受講して興味を持ちました、という方がたくさん来てくださるのを楽しみにしています。

エンタメビジネスの大学院が必要

三原 山田さん、大学に期待される役割はどういったところにあると思われますか。

山田 僕の今後10年は、そこにしか期待がなくて、ここで言いたいのですが、僕に大学院をつくらせてください。

先ほど吉田さんもおっしゃっていましたが、国内だけで充足する時代が完全に終焉して、成長する産業にするためには世界にマーケットを広げて分母を広げない限り、どのエンタメも生きていけないという状況が明確になっていると思うんです。もう生き残るためには日本だけでは無理という時代になり、有無を言わさず、世界で分母の大きいところで売り上げが上がるエンタメをつくらなければいけない。

僕は経済産業省からエンタメ産業の未来について相談も受けたのですが、皆さんは日本の産業を新たに創造し整備するのが仕事ならば、これからはまずは世界で勝負できる作品をどう生み出すかを中心に支援することに特化したらどうでしょうか、とお伝えしました。そうでない限りは未来を担う産業にはならないからです。

そのためには世界で勝負できるエンターテインメントとは何かを世界レベルで学べる大学院を慶應はつくるべきだと思うのです。これは、映画学とか映画学科ではなくて、ビジネススクール的な商業性とクリエイティブの学びを融合させた形でつくるべきだと思います。

僕ももともと報道出身で、大学で全く専門的な映画の教育は受けていません。それでも、社会人になってからのOJTで、カンヌで賞も取れたし、アカデミーもノミネートされましたので、全慶應生に言えることは、社会人になってからでもいけるということ。大学院からで十分だということです。

そのためには、良質なビジネススクールが参考になると思っています。ハーバードが編み出した徹底したケースメソッドをエンタメビジネスに入れるべきだと思っているのです。

例えばデビッド・フィンチャーがマーク・ザッカーバーグという実在の人物をモデルに『ソーシャル・ネットワーク』を作り上げ商業的に大ヒットし、オスカーにノミネートされるまでを完全にケースメソッドにして学ぶような形です。映画は総合芸術なのであらゆる要素が入ります。企画開発やストーリーメイキング、資金集め、美術、建築、衣装デザイン、音楽、契約もすべて入ります。

ある映画1つを徹底したケースメソッドにして、過去に素晴らしい結果を残したものでまだ暗黙知のままのものを大学のアカデミズムの中で完全シミュレーションする。それをやると、必ず疑似体験を通じた鉱脈が見つかって、「ああ、こういう戦い方するんだ」とわかっていく。

そこからハーバードが何人もの経営者をケースメソッドで生み出しているように、世界で勝負できるコンテンツクリエイターが何人も生み出されると思うのです。そういうものをぜひ作らせてください。

三原 USC(南カリフォルニア大学)などのフィルムスクールでは、映画界で成功した監督などがお金を大学に寄付することで映画の研究と教育が拡充され、そこで育成された映画人材がハリウッドに供給されるといったように、人とお金と知のエコシステムが大学の内と外で回っているように思われます。翻って日本は、エンタメと大学との間には断絶があるような気がします。

山田 断絶しかなかったですね。大学院をつくるなら、そこの講師はまず世界で賞を取るかヒットを生み出していたり、世界的な結果を残している人であるべきです。そこから少しずつ外に出ていけるようになったら、卒業生たちはそのネットワークで、ハリウッドやカンヌなどに影響力のある有力配給会社にインターンに行ったりすれば、外とのつながりをアカデミズムがつなげられるはずです。

極めて実践的な大学院にすべきです。僕は慶應はエンターテインメントをビジネスとして扱いつつも、クリエイションの本質を深く理解しながら融合させて学べる場を作るのは得意なのではないかと思うのです。

吉田 たぶん海外からも来たい方がたくさんいらっしゃると思います。日本のコンテンツ開発とか、メディアミックスを学びたいという声は本当に多いですから。

三原 先日「日吉電影節」という中国語圏映画の注目作を上映する学内のイベントで、『長安三万里』という中国のアニメーション映画の監督・プロデューサーに登壇していただいたのですが、イベント後の懇親会の席でその方たちから日本アニメのメディアミックスやキャラクター・マーチャンダイジングのビジネスについて非常に細かく質問を受けて驚いたことがあります。日本のエンタメビジネスを学びたいというニーズは、アジアをはじめとして海外にも我々が思っている以上にあるのかもしれませんね。

今日は長い間、熱いお話をありがとうございました。

(2024年2月27日、三田キャンパス内で一部オンラインを交えて収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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