【特集:エンタメビジネスの未来】
座談会:最前線から考える日本のエンタメの可能性
2024/04/05
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安部 幸枝(あべ ゆきえ)
アーチ株式会社プロデューサー
塾員(2001総)。デジタルハリウッド大学大学院DCM修士(専門職)。株式会社アミューズ、株式会社クリーク・アンド・リバー社、株式会社ジェンコ等を経て現職。映画『この世界の片隅に』『ジャーニー 太古アラビア半島での奇跡と戦いの物語』アソシエイトプロデューサー等。
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山田 兼司(やまだ けんじ)
映画・ドラマプロデューサー(東宝株式会社 所属)
塾員(2003政)。大学卒業後テレビ朝日入社。報道局を経て、映画・ドラマプロデューサーとして勤務。ドラマ『BORDER』シリーズ、『dele』などを手がける。2019年東宝に移籍。『怪物』(カンヌ映画祭受賞)、『ゴジラ-1.0』(アカデミー賞受賞)等をプロデュース。
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三原 龍太郎(司会)(みはら りょうたろう)
慶應義塾大学経済学部准教授
文化人類学者。2017年オックスフォード大学大学院博士課程修了・博士(人類学)。専門はアニメを中心とした創造産業の海外展開。ロンドン大学東洋アフリカ研究院(SOAS)金融経営学部講師等を経て2020年より現職。2018年よりアーチ株式会社海外展開顧問を兼務。
日本のエンタメビジネスのステージが上がった?
三原 本日はエンターテインメントビジネスの最前線でご活躍されている皆さまにお集まりいただきました。
日本のエンタメビジネスはここ数年でステージが1つ上がったのではないかという印象を私は持っています。
私は文化人類学という学問分野を専門としており、その観点からアニメの海外展開をフィールドワ―ク(現場密着取材)という手法で追いかけてきました。『涼宮ハルヒの憂鬱』というアニメ作品の北米展開を2007年から2年ほどフィールドワークしたのが始まりですが、その当時日本のアニメは「海外で人気があるがその人気を収益につなげられていない」とよく言われていました。
その理由の1つとして「流通の仮説」と私などは言っていましたが、例えばインターネットはまだアニメ作品の海外への正規の流通チャネルとして確立されていませんでした。ネット空間は海賊版の巣窟というイメージが今よりずっと強かったのです。
また、『千と千尋の神隠し』がアカデミー賞(長編アニメ部門)を受賞したことが日本アニメの世界的人気の象徴的事例として語られていた時期でもありますが、その一方で日本の映画ビジネスが北米の劇場配給網にどれだけ食い込めているのかを疑問視する議論もあったように思います。
しかし、ここ数年でそういった「流通」のボトルネックが解消されつつあるようにも見えます。ネット配信ではネットフリックスやアマゾンプライム、中国のビリビリなどが海外へ向けたアニメ作品の正規の流通プラットフォームとして定着してきました。
また、まさに『ゴジラ-1.0』がそうだと思うのですが、東宝が北米で直接配給をやる動きが出てきたり、漫画では集英社の「MANGA Plus」のように、自社作品を海外の読者に直接配信するサービスも出てきました。
このように、海外への「流通」という観点で見た場合、日本のエンタメビジネスはやはりここ数年でステージが一段上がったと言うことができるのではないかなと思っています。
翻って国内を見ると、最近起きた『セクシー田中さん』事件がある意味で象徴的ですが、エンタメビジネスを進める際にクリエイターの方たちとどのように向き合うべきなのかという論点があります。
日本のエンタメの人気を人気たらしめているのはひとえにクリエイターの創造力なわけで、彼ら彼女らにいかに気持ちよく仕事をしていただきながら、なおかつお金も儲けるかというのは、ある意味でエンタメビジネスの永遠の課題かと思います。
本日は、そのような問題意識を念頭に置きながら、新たなステージに入りつつある日本のエンタメビジネスが世界でさらに飛躍するためには何が必要か、皆様と議論できればと思います。
中国でメディアミックスを展開
三原 まずはこれまでのキャリアや携わってきた作品などについて、簡単に自己紹介をいただければと思います。
吉田 私は、1998年角川書店(現KADOKAWA)入社後、漫画編集部に配属となり、漫画事業をメインとして仕事をしてきました。
漫画の編集者は、作品をゼロから作るところから、メディアミックスのプロデュースまで、基本的にすべてを担当しています。私が入社した頃は、ちょうどKADOKAWAがメディアミックスを本格的にやり始めた時期で、多数の作品に参画してきました。
そうした中、海外で私の担当作品をドラマにしたいという話があり、それが海外との最初の仕事となりました。その当時はまだ「海外で作られるドラマってどんなもの?」という時代でしたが、台湾の制作会社の有名プロデューサーさんより、台湾ドラマにしたいというお話をいただいたんですね。
そこからしばらく東アジアを中心に、原作出版社としての立場で、ドラマへの原作許諾や作品開発、作品に出演する海外のタレントさん絡みのお仕事などを行っていました。
2000年代に入り、いよいよKADOKAWAも中国大陸に進出しようという話になり、2008年から中国大陸の担当となりました。第1社目として、2010年に中国広州に合弁会社の広州天聞角川を設立しました。天聞角川は出版事業をメインにしている会社ですが、商品化をはじめとするメディアミックス事業なども行っており、KADOKAWA本体にある機能を同じように持っている会社です。
そして、2018年に100%子会社の角川青羽上海を作りました。出版事業は天聞角川ですでに成功していましたので、もう一歩先の、中国のオリジナル作品で世界へ進出していく、作品をゼロから作ってメディアプロデュースもしていく、そんなメディアミックスをメインとしたプロデューサー集団の会社として運営しております。
映像の仕事がやりたくて
三原 では、安部さんお願いします。
安部 私は学生時代、ドキュメンタリー制作のゼミに入っていました。就職活動の時には、テレビ局など映像業界を中心に受けましたが叶わず、2001年、アミューズという会社に入社し、IT戦略室というところで、Webコンテンツの制作などに携わり始めました。
それでもやはり映像の仕事にかかわりたいと思い、2005年に開学2年目のデジタルハリウッド大学院で、資金調達やコンテンツ産業についてなどを勉強し、そこで学ぶうちに、プロデュースのほうに進みたいという気持ちが一層強くなりました。
そこから広告会社へ転職し様々な手法でのアニメーションのプロデュースに携わりました。その後、2015年にジェンコというアニメを中心とした企画・プロデュースの会社に転職しました。そちらで、映画『この世界の片隅に』という作品にアソシエイトプロデューサーとして参加し、その作品が国内だけでなく海外でも多くの方に見ていただき、国内外の映画祭でも賞をいただくことができ、海外はそこから意識したところがあります。
そこから、また新しいことに挑戦できる場を求め、今のアーチに転職しました。先頃、サウジアラビアの企業マンガプロダクションズ様と東映アニメーション様の合作劇場アニメ『ジャーニー 太古アラビア半島での奇跡と戦いの物語』に携わらせていただきました。
最新としては、昨年末にYouTubeで公開されたMIXI様製作の『モンストアニメ マサムネ-使命の赤き刃-』に参加いたしました。
2024年4月号
【特集:エンタメビジネスの未来】
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吉田 さをり(よしだ さをり)
角川青羽(上海)文化創意有限公司董事長・総経理
1998年角川書店(現KADOKAWA)入社。漫画編集者として数々の作品に携わる。2008年より中国事業を担当し、10年~広州天聞角川動漫有限公司第一編集部総監、雑誌「天漫」特別主席顧問。15年~角川国際動漫教育(台湾)特別顧問を経て、18年より現職。