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【特集:エンタメビジネスの未来】
座談会:最前線から考える日本のエンタメの可能性

2024/04/05

報道からエンタメの世界へ

三原 では最後に山田さんお願いします。

山田 私は就職活動の時、ジャーナリズムのほうに行こうと思い、テレビ朝日に報道の採用で入りました。でも、それから1年間ADをやって、2年間報道ディレクターをやっていたのですが、テレビの報道のあり方に自分の目指すものとの違いを感じまして。その時、テレビ局というのは実は映画やドラマも仕事にできるんだと気づいたんですね。

異動願いを出し、テレビ朝日で映画プロデューサーとしてほぼ2年ちょっとやらせていただき、ほぼ同世代のクリエイター、プロデューサーたちと向き合える機会を得ました。その時やった作品としては、小栗旬君主演の『岳』という山岳漫画の映画化が一番大きい仕事の1つです。

その後、ドラマ部に移動せよと言われ、10年以上ドラマプロデューサーをやり続けました。当時は世帯視聴率至上主義で、視聴率を取るためにどうやっていいドラマを作るかというと、やはりいい原作を探すのが常道なんです。でも、テレビ朝日という局は当時ドラマは後発で、ヒット漫画はコンペに勝てず原作権が取れない。

しかし、これが実は僕のキャリアにとっては功を奏しています。なぜなら、「じゃあオリジナルで作るしかない」となったからです。オリジナルドラマは基本的には作家さんとプロデューサーで、ゼロから物語を作らなければいけない。その時に必要になるのは、優れた作家と関係をつくり、書いてもらうことです。一緒にどんな企画がいいのかゼロから開発し生み出す、極めてクリエイティブな作業をずっとやらせてもらえました。

代表作でいうと、小栗旬君主演の『BORDER』という作品。金城一紀さんという直木賞作家の方のオリジナル作品ですが、これが自分では最初の成功体験かなと思っています。

ドラマのキャリア後半で自分の中で一番やりきったなと思った作品が『dele(ディーリー)』というドラマです。これは深夜ドラマの枠だったのですが、今までのテレビドラマの作り方に革命を起こそうと思い、テレビドラマ業界には来てもらえないクリエイターたちを集めて、作り方そのものから変えた渾身のプロジェクトでした。

これが自分の中では一番のテレビドラマ時代の成功体験で、テレビ朝日の歴史で初めてドラマでギャラクシー賞の優秀賞をいただき、その後、カンヌのMIPCOMという世界中のドラマのマーケットでグランプリをいただきました。それが僕が最初に、世界でしっかり日本のドラマが勝負できるんだという経験をしたことでした。

三原 ドラマで輝かしい成果を挙げられたわけですね。

山田 しかし、日本のドラマは国内を向き過ぎていて、いい意味でも悪い意味でもガラパゴスで、このまま自分のキャリアが終わるのは嫌だなという思いもあったんです。その時、東宝の人たちから映画を作らないかと声をかけられ、移籍しました。

東宝で、最初に発表できたのは僕の友人でもある川村元気君が初監督をする作品『百花』です。最初からどうやったら世界で賞を取れるかを考え、コアなクリエイティブチームで、まるで映画研究会みたいな作り方をしました。そうしたら運良くサン・セバスティアン映画祭で最優秀監督賞を取り、世界で勝負する上で、自分たちの方法論は間違っていないと自信を深めました。

その後、『怪物』という作品を発表しました。テレビ朝日時代から脚本家の坂元裕二さんと2人で開発していたのですが、この物語は世界で勝負できるというプロデューサーとしての手応えがあったので、是枝裕和監督にオファーしたら、この物語だったら演出したいと言っていただき、カンヌ映画祭のコンペに入り、脚本賞までいただききました。音楽は坂本龍一さんです。

その『怪物』撮影と同時期に、まさに『ゴジラ-1.0』のプロジェクトが動いていました。自分に白羽の矢が立ち、どうやったら『シン・ゴジラ』を超えて勝負できるかという難題を背負いました。途中コロナで延期になったりしたのですが、ふたを開けてみたら、日本の映画の歴史を塗り替え、まさかアカデミー賞(視覚効果賞部門)にノミネート(注:その後3月10日に受賞決定)されるとは思っていませんでした。

自分は『ゴジラ-1.0』と『怪物』でアカデミー賞とカンヌという、エンタメとアートの二極の世界戦を戦った、現状唯一のプロデューサーなのかなと思います。ですので、まさにこれから世界で日本のコンテンツがどうやって勝負できるかを、日本全体にシェアすることに使命感を持っています。

中国の規制の実情

三原 大変インスパイアリングなお話をありがとうございました。

それでは次に、海外とのかかわりについて、お三方のこれまでのご経験と、そこから感じられている問題意識をお伺いできればと思います。吉田さん、中国の書籍出版流通と、関連する規制はどうなっていて、ご自身はそこにどのようにかかわられていらっしゃるのでしょうか。また中国でのメディアミックスはどのようにやられているのでしょうか。

吉田 中国における紙の出版は非常に厳しい規制があり、作品の内容審査もあります。書籍などの出版は、国の制度としても外資が事業を行うことが制限されており、中国国内での出版は、中国の出版社から行う必要もあります。

また、媒体メディアによって管轄部門が違い、電子と紙ではレギュレーションも審査する部門も違うので、各出版社や配信プラットフォームはこういったことをきちんと認識した上で、対応を行っています。

海外では海賊版の問題も大きく、日本のコンテンツは知名度はとても高いですが、正規版よりも海賊版の方が目立つような時代もありました。そこで、版元から海外ライセンシーに対し正規に版権を許諾し、現地できちんとした正規版を作り流通することで、世界各地の市場が整備されてきた流れがあります。

三原 出版する原作を選ばれたり、中国の作家さんを発掘する際、内容的には、センシティブではないものを選ぶような感じでしょうか。

吉田 内容審査があるため、表現に関しては慎重に対応しています。主に、性的表現や暴力表現などですが、これは中国に限ったことではなく、例えばアメリカにも表現のレギュレーションはありますし、イスラム圏やインドはもっと厳しく、各地域の宗教観や文化・価値観に合わせて対応していく必要があります。

三原 具体的に作品を作られていく中で、最初は大丈夫だと思って進めたけれど後から駄目になってしまうといったことはあるのでしょうか。

吉田 中国案件の経験が少ない場合は、そういうことが起こることもあるかもしれません。弊社の場合は、進出から14年になり、事前対応のノウハウも蓄積されてきたと思います。例えばオリジナル作品の場合は、プロットの時点から内容的に問題がないかを社内で検討していますし、映画やアニメも、皆さん同じ作業をされていると思います。

三原 メディアをまたぐときはどうなるのでしょうか。出版やネットなどメディアごとの規制が異なると、メディアミックスがシームレスにできなさそうな印象がありますが。

吉田 そうですね、メディアごとに審査する部門が別になりますから、タイミングが難しいことはあります。

ただ、日本でもシームレスといっても、1つ1つの流通やそのメディアに合わせた展開を、それぞれの担当部門や会社が行っていますよね。協業することで外から見るとシームレスに見えていますが、1つ1つは丁寧に作りこんでいく必要があります。同じように海外でもそれぞれに対応して、プロデューサーがシームレスに見えるようにセットしていく必要があります。それがプロデューサーの大事な仕事の1つだと思います。

サウジアラビアとの国際共同製作

三原 わかりました。では、安部さん。私も会議に参加させていただいたことがありましたが、サウジアラビアと日本の合作アニメ映画『ジャーニー』は、どのように作品を作っていかれたのでしょうか。特にイスラム圏だと、規範みたいなものが強くあって、キャラクターデザインや服装には結構気を遣うことが多いですよね。

安部 どこに対してどう懸念を持っているのか、通訳された文字だけだと、上手く理解しきれないところがありました。例えば色について言えば、アラビアでは太陽が赤色だというイメージがないということなど、詳しく説明いただきようやく私たち日本側の制作スタッフは理解できました。

また、「青」と「緑」の言葉だけでは、お互いに受け止めている色が同じかどうかはわからない、印象がすごく違うことがあるのだなと、キャラクターの衣装の色彩を検討する中で知りました。言葉だけではなく文化としてわかり合って作っていくことがとても重要なんだと勉強させていただきました。

あとは女性の肌を隠す範囲についてや、アクションシーンでターバンがどのくらい乱れてもいいか、ということなどが話題になりました。

三原 結構、従来のステレオタイプとは違うキャラクターに調整が入った印象がありますね。

安部 大人の男性の見た目はひげを生やしていることがスタンダードだと教えていただきました。

髪の色についても、あるキャラクターで灰色っぽい髪色を提案したところ、実際にこの地域にはそういった髪色の人はいないと指摘をいただきました。そのキャラクターの出自が外から来たという設定ということで調整させていただきました。

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