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【特集:「トランプ後」のアメリカ】
座談会:「分断」の先に何が見えるか

2021/02/05

産業化する2大政党制

渡辺 待鳥さん、いかがでしょうか。

待鳥 今、2大政党が明らかに「産業」化しています。政策や理念を実現するための政治活動だけではなく、シンクタンクや広告代理店などが典型でしょうが、政党の周辺に膨大な資金や優秀な人材が多く流入して、組織としての活動や個々人の生活の基盤になってる。産業化すると現在の政党間関係の維持に利害関心を持つ人が増えすぎて、それを解体できなくなるんですね。

歴史的には、分断の解消策は政党再編成でした。新しい争点が登場して、それまでの政党間関係がそれをうまく処理できなくなると、それに見合った有権者の再編、支持構造の再編が行われ、政党間関係が変わることで調整してきたのだと思います。その際に、古い争点は消滅する。

政党再編成が起こらなくなると、政党間関係は変化しないまま、新しい争点が従来の争点に上積みされていき、政党間対立としては深まってしまう。だからリセットが望ましいはずなのですが、産業化すると既存の政党間競争の構造を崩せないので、再編成が起きないわけです。

もう1つ、ポジションとディシプリン(専門性やそれに基づく規律)を区別することを、回復させないといけないと思うんですね。例えば、何らかのディシプリンを持つ人の専門知識や、そこから行う推論といった議論が、全部ポジショントークに回収されていくという構造が、今、明らかにあるわけです。

だからディシプリンに基づいて発言する人と、単に逆張りとかポジショントークをする人が全部一緒くたになってしまう。これがSNSやネット時代の恐ろしいところですが、でもやっぱりディシプリンとポジションは違うんだと言わなければいけない。

最初に申し上げた権力分立と政党政治の綱引きというのは、ディシプリンとポジションの綱引きだとも言えます。権力分立はディシプリンの世界です。大統領には大統領にふさわしい言説があり、連邦議会には連邦議会にふさわしい議論の仕方がある。こういうものがなくなってしまって、ポジションの世界である政党政治に覆い尽くされる現象は、ディシプリンがポジションに回収されている言論空間の動きと並行しているのだと思います。

これを止めるには、やはりディシプリンに基づいた発言や行動が、ポジショントークとは違うことが広く受け入れられる必要があります。ディシプリンへの敬意を回復すると言うことですね。「そんなこと、どうやってできるの?」と言われたら、「いや、知りません」と答えるしかないんですが。

「何でバイデンが勝ったのか」

渡辺 私は待鳥さんの、ディシプリンを大切にされる姿勢をいつも頼もしく拝見させていただいています。中山さん、いかがでしょうか。

中山 分断がある種構造的なものになってしまっているところで、リーダーがそれにどう臨むか、どう語るかが重要になってくると思います。過去の事例を振り返ると、分断そのものではないんですが、政治不信を収めたということで言えばフォード大統領(1974~77)がいたわけです。非常に地味な大統領で1期も務めませんでしたが、振り返ってみると、ウォーターゲート事件で深まった政治不信を修復するのに、重要な役割を果たしました。

フォードは下院議員でしたが、バイデンは73年から上院議員です。当時の上院は「最も特権的なクラブ」とも呼ばれていて、共和党員や民主党員であるより前に上院議員であるという意識が強かった。そういうカルチャーの中で政治家として育ち、異なった意見も理解し、譲歩、妥協、そして合意するということが体質として身に染み付いている人だろうと思います。

今、民主党で言えば、サンダースとかオカシオ=コルテス(AOC)みたいに、原理原則にこだわる、譲歩しない姿勢が、ともすると人気になる。しかしこの分断に向き合うためにはバイデンみたいな人がいいんだ、とアメリカ人が何となく直感的に選んだ部分はあるのかなと思うんですね。

何でバイデンが勝ったのかという観点から見ると、そういう人をアメリカが欲していたから、という見方も可能だろうと思います。

ボー・バイデン(バイデン氏長男)が亡くなった時に、唯一共和党の上院議員で葬儀に参列したのがミッチ・マコーネルだったというエピソードがあります。マコーネルも85年から上院議員で、まだ古き良き上院の雰囲気が残っていた頃の上院を知っている世代です。

今、民主党と共和党が言葉を交わすことさえできないという状態の中で、この2人なら、少なくとも電話口にお互いを呼び出せるという、こんなに小さいことが、突破口のようなものになるかもしれない。何かこの分断を少しでも融和させるような雰囲気にプラスに作用することを期待したいと思います。

ただ他方でマルコ・ルビオとか、比較的中道派でこれからの共和党を担おうとするような人たちが、早くもバイデン政権に敵対的な態度をとり始めている。それから民主党のほうも、特に左派がバイデンが共和党と妥協することに対して目を光らせている。だからバイデンが動ける余地は実はあまりない。

プラットフォーマーの影響力

渡辺 なるほど。一方で、今、一番影響力があるのはいわゆる「GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)」などのプラットフォーマーだとも言われますね。選挙制度ではなくてプラットフォームのあり方を変えることによって、もしかすると政治の文化が変わってくるのではないかという論考も出てきています。

金成さんがご覧になられて、プラットフォーマーの果たし得る役割、着目されている動きなどはありますか。

金成 GAFAのようなプラットフォーマーはおそらく従来の国家の規制する能力を超えてしまったんだと思うんですね。

今回の選挙では、プラットフォーム上に流れるフェイクニュースに対して、ツイッターやフェイスブックも前回の大統領選時に比べれば、一定の対処をしたとは思いますが、それが十分だったとはおそらく多くの人は思っていないでしょう。とはいえ、取捨選択の権限をプラットフォーマーが独占的に握るのも気持ち悪い。でもそんな仕事は、国家に任せるわけにもいかない。そこは、メディアがどこからも信用されるような機能を果たせれば本来いいのですが、流通網という意味では完全に負けてしまっている。

そうすると、今後の選挙では民主主義における情報網という意味で、GAFAの規制をどうすればいいのかということが焦点になる。残念ながら、私は解をまったく持ち合わせていないんですが、影響力は確かに相当なものがあるのです。

取材で、「そんな話、どこで聞いたの?」と情報源を突き止めようとすると、「確かフェイスブックで誰かが言っていた」と言う。多くの人は、自分がその話をどこから聞いたのか、ニュースの配信元も確認していません。これは本当に驚くほど多くて、特に選挙の直前に、何を流通網に乗せるか、乗せないのか、というところは非常に難しいと思います。

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