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【特集:「トランプ後」のアメリカ】
座談会:「分断」の先に何が見えるか

2021/02/05

トランプ現象を生み出したもの

渡辺 中山さんはいかがですか。

中山 私はトランプ現象は以前からあったものを、増幅させたに過ぎないところがあると思っていて、トランプ主義は、少なくともそのコンテンツは一切オリジナルではない。

ツイッターによる発信、排外主義やナショナリズムの扇動、グローバリズムに対する抵抗、対外介入に対する違和感も、政治のエンターテイメント化も、一切トランプがつくり出したわけではない。それらが受け入れられる状況があって、トランプがそこにうまく合致した。トランプ現象というのは、ここ10数年のアメリカにおける諸々の傾向が生み出したものだという感じがします。

予兆は明らかにいくつかありました。決定的だったのは2008年の共和党副大統領候補サラ・ペイリンですね。ペイリンを政治空間に本格的に呼び込んだのが、後に反トランプのシンボルになるジョン・マケインだったことも皮肉です。

それから、2010年頃にソーシャルメディア空間をベースにティーパーティー運動が突如出現した。あれはリバタリアン的な衝動を内に抱えた、連邦政府の肥大化に対する抵抗運動だ、という形でわれわれは理解しようとしましたが、中心的なモチベーションは、やはりオバマに対する違和感です。

ペイリン的なるもの、ティーパーティー的なるものがあり、さらにトランプが同時期にバーサーイズム(オバマについて、アメリカ国外で生まれたのだからアメリカの大統領になる資格がないと主張する運動)を立ち上げた。そう考えるとトランプ主義は、ここ十数年間アメリカが内に抱えてきたものが、トランプを媒介にして表面化したものに過ぎない、と捉えるべきだろうと思います。

では具体的に、トランプはどういう影響を共和党にもたらしたか。共和党というのは保守主義の政党ということで、「小さな政府」「理念と力に依拠した国際主義」「信仰と伝統に依拠した良き生活」を追求する、という3つの軸を掲げてきました。しかし、トランプ政権の4年間は、結果として、この3つの軸の否定だった。

今、共和党がいわば軸となるような統治思想を失い、他方で今回トランプが負けたので、それに対するある種の反動が党内で起きるのかどうかが注目されます。

民主党のほうもトランプという現象を前にして、バイデン、クリントンに象徴される、従来型の穏健な中道左派的なポジションに対する違和感が高まった。金成さんから、メディアが左傾化を強調しすぎでは、という指摘がありましたが、例えば「社会主義」という言葉に対する許容度の高まりなど、明らかにある種の変化は起きているのだろうと思います。

トランプ大統領自身が、分断を乗り越えるという発想がほぼゼロの人だったので、結果として両党の中のフリンジ(極端な立場の人)を勢いづかせて、妥協を模索して何かを解決していくという政治文化を破壊した。

確かにアメリカのデモクラシーの健全さの表現でもある、という部分がなきにしもあらずですが、やはりアメリカの民主主義が機能不全に陥っている兆候として、トランプ現象を捉えたほうがいいと私は思っています。

なぜトランプは大統領になれたのか

渡辺 岡山さんは、『アメリカの政党政治──建国から250年の軌跡』を最近出されました。改訂版が出た時に、もしトランプについて評価を書き加えるとすればどう記すでしょうか。

岡山 その本ではアメリカ建国以来250年分の話を書いたのですが、その超長期の流れにトランプを位置付けるとして、そもそもなぜトランプみたいな人が出てこられたのかが1つのポイントになると思います。そしてそれは、19世紀終わりぐらいから進んできた変化が行きつく所まで行きついたことの表れではないかと考えています。大きく3つのポイントがあります。

1つは、2大政党以外の第3党が選挙に参加すること自体が難しくなったこと。先ほど金成さんがおっしゃった、2つから1つを選ぶ状態になっていったということですね。しかし2つ目に、この間にそれぞれの政党や政治家が外部の主体から影響されやすくなってもいます。選挙資金を外部から投入するのも容易になり、そしてトランプがまさにそうであるように、もともとある党の政治家でなくても、その党から選挙に出ることがしやすくなってきたのです。

そして第3に、そのような状況下で、待鳥さんも触れられた2大政党の分極化が起き、両党の対立も深まった。その結果、独自の支持層やまとまった資金を調達できれば、誰でも大統領選挙の予備選でそこそこ以上に勝負できる。さらに候補指名を勝ち取ってしまえば、自党の支持者の票を得られるので、トランプのように政治家でなくても当選してしまえたりするわけです。

実は、これは前任のオバマも似ているところがあります。彼も政治経験はかなり浅く、演説がうまい以外まだ政治的実績の少ない新人が大統領になったことは「ベンチャー民主主義」と呼ばれたりしました。その次がトランプだったわけで、今はこうした政党政治のアウトサイダーがどこからか登場して、政治を目いっぱい攪乱し得る状況が生まれている。たまたまトランプがそういう構造を実に巧みに使った、と説明できるように思っています。

これは構造的なことなので、今後も似たようなことは起き得ます。同じアウトサイダーでも、トランプっぽい人からまったく違うタイプまで、いろいろな候補者が出てくる可能性があります。後から見ると、トランプはそのさきがけだったと思うのかもしれません。

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