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【特集:薬学部開設10周年】
慶應義塾大学薬学部の過去・現在・未来

2018/10/05

病院実務実習への取組

前述したように6年制薬学教育は薬剤師養成を目的としていることから臨床薬学教育の充実は不可欠である。慶應義塾大学病院(以下、慶應病院)は、日本における最先端の医療を提供する施設の1つである。そのような先進的な病院で実務実習を行うことは6年制薬学教育の目標の実現を可能とする。その一方で、実務実習生を受け入れる薬剤部は、大学病院としては数少ない外来調剤を院内で実施している薬剤部であり、多忙を極めている。合併当初、慶應病院では1回に20人を超える学生を受け入れた経験はなく、受け入れる薬剤部側も送り出す薬学部側もそれぞれに不安を抱えてのスタートであった。準備段階の話し合いは、薬学部と薬剤部の関係者だけでなく病院長や担当副病院長、信濃町と芝共立の各担当常任理事も交えて行われ、受け入れ回数と人数、実習費などの交渉に加えて、薬剤部の2名の指導薬剤師について薬学部の人件費で予算配分することが合意された。その後は、2名の指導薬剤師と薬学部の実務実習委員会を中心に具体的な実習プログラムが作成された。

当初の実習プログラムは調剤、注射調製を中心に構成された「物」が主体のプログラムであった(表)。しかし、6年制薬学教育の病院実務実習では、病棟での服薬指導やチーム医療に、より多くの時間を割くことが期待されていた。このため、これらの活動を学生に体験してもらえる状況を作り出す必要があった。このことが、薬剤部が業務を見直し新たな業務に取り組むことに繋がった。ともすれば保守的な傾向があった薬剤部が新たな薬剤師業務を目指して歩み始めたことは、薬学部生の受け入れが引き起こしたシナジー効果とも言える。表に示すように、現在では調剤や注射調製の実習期間は半減し、服薬指導と専門チームの病棟活動の実習期間が倍増している。これを可能としたのは、薬剤師の資格を必要としない業務を外部業者に委託できるよう人材雇用面での人事部の配慮があってのことである。現在は、病棟薬剤業務の実習期間は他の病院と遜色ないまでになってきており、外来調剤についてはむしろそれを経験できることが、慶應病院の「売り」にもなっている。

表 病院実習内容の変遷──服薬指導・専門チーム教育の充実──

薬剤師養成教育のさらなる充実

薬剤師養成教育の主要な部分は、実務家教員と呼ばれる臨床系教員が担っている。臨床系教員は原則5年以上の薬剤師としての実務経験を有していることが要件となっている。しかし、5年以上の実務経験があっても大学の専任教員となって臨床現場を離れてしまうと数年で臨床能力は一気に低下する。このため臨床系教員の臨床能力の維持・向上が課題の1つとなっていた。これを解決するために薬学部では「臨床系教員のOJT(On the Job Training)」の受け入れを薬剤部に申し入れ、2014年から開始となった。現在、慶應病院で4名、国立がん研究センターで1名、薬学部附属薬局で2名がOJTを行っている。効果的な実務実習は学部における質の高い事前学習があってこそであり、臨床系教員のOJTは有効に機能していると言える。さらに、事前学習に病院薬剤部の薬剤師も数多く関わり、病院と学部が一体となって指導できていることは合併による大きな収穫である。

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