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【特集:慶應義塾の国際交流】
マリー・ラール/リシア・プロセルピオ/カミーユ・カンディコ・ハウソン:日本の大学における国際化とランキング・ゲーム

2024/10/07

主導権を取り戻す、日本の大学からの視点

以下では、2023年と2024年に慶應義塾大学で開催された2つのワークショップの成果を振り返る。このワークショップは、ランキング・ゲームと国際化に関連する重要な問題に大学の経営層(常任理事や学部長、研究科委員長ら)が取り組むことを目的としたものであった。その目的は、日本の大学が、自分たちではどうすることもできないゲームの中で、主導権を取り戻す方法を見つけることであった。

ランキングが日本の高等教育システムにネガティブなイメージを与えていることを踏まえ、ワークショップではまず、歴史的に科学、技術、医学に重点を置いてきた日本の強力な高等教育システム、最先端の科学技術を用いた新しい発明の伝統など、国や組織の強みを振り返った。また、日本は明治維新の時代から国際協力のパイオニアであり、海外からのアイデアを取り入れ、それらを日本に最適な組み合わせとなるよう適応させ、改良してきた。参加者たちは、否定的な評判が多いにもかかわらず、こうした認識が糸口であると考えた。

前述したように、ランキング・ゲームの核心は(大学の留学生数よりも)研究成果の公表であり、言語の壁を乗り越え、人工知能(AI)の助けを借りて日本の学術成果をより広く世界に容易にアクセスできるようにすることが課題であることが理解された。多くの日本人研究者が英語での執筆や出版に消極的であるにもかかわらず、AIの台頭と学術界での利用は、研究成果の伝播を促進している。日本の伝統である長期サバティカル制度は、海外の受け入れ先大学で得られる経験や知識が大きな強みである。サバティカルは、海外の同僚との戦略的共同研究や、英語での共同執筆をより緊密にすることにもつながると感じられた。

パートナーシップは、グローバル化により、高等教育の国際化を特徴づける重要な要素となっている。参加者は、国際的な協力関係の重要性について考察し、双方が利益を確認し、互いへの貢献について明確である場合にのみ、協力関係は機能すると議論した。共同研究は様々な形で存在するが、ほとんどの国際共同研究は、同僚が共同研究や執筆を行うなど、個々の学術レベルをベースとしたものである。このような共同研究を成功させるためには、合意された成果の指標と、パートナー選定の具体的な基準が鍵となる。研究協力者は大学に限定する必要はなく、政府、産業界、地域コミュニティなども含まれる。

ワークショップではさらに、海外の研究者を日本に招聘するスーパーグローバル大学創成支援事業のような日本政府の国際化支援が、相互のコラボレーションを促進する優れた方法であることが議論された。多くの場合、共同出版や研究助成金の提案といった研究成果が最初に合意されないため、こうした機会は生かされていない。このような共同研究は、博士課程学生の共同指導につながる可能性があり、学生と指導教員の双方に利益をもたらす。自然科学分野、そして社会科学分野では、ますます国際的な研究チームの横断的協力が普通になってきている。このことは、カリキュラムの内容だけでなく、学習成果、評価課題、教育方法、研究プログラムのサポートサービスに国際的、異文化的、グローバルな側面を取り入れるのに役立つため、自動的にカリキュラムに影響を与える。

ほとんどの参加者は、研究や国際的なコラボレーションを増やし、大学のランキングを向上させるような改革を行う上で、教育や管理の負担が大きな障壁となっていると考えていた。特に若手教員は、論文の執筆や出版をできるようにするためのサポートが必要であり、中堅教員は、共同研究の入札や出版につながる研究プロジェクトに国際的に参加するためのサポートが必要であることが明らかになった。シニア教員は、研究や出版につながる新しいアイデアを生み出す「研究グループ」のリーダーであると考えられていた。学術界の支援と賛同がなければ、どんなプログラムも変革にはつながらない。

また、事務的な手続きではなく、学術的な手続きであるにもかかわらず、標準的なデータセットを提出し、どのようなデータをどのように提示する必要があるのかを機関が理解する必要があるため、教員と事務職員が協力することで、このプログラムが機能することも明らかになった。国際的なイメージの管理には、広報室や広報担当者のサポートが必要である。レピュテーショナル・インプットの収集には重きが置かれている(QS社のランキングでは最大50%)。特にイメージやブランディングの形成に関しては、同窓生も重要な役割を果たす。

また、国民的な議論を促進し、日本の大学間の緊密な協力を促進することで、日本の大学の特殊性を考慮したガイドラインや参加大学への推奨事項を作成することができると思われた。最終的には、大学間の競争と協力のバランスをとることで、すべての大学にとってより前向きな進展につながる可能性がある。

ワークショップでは、高等教育分野における世界的な変化を踏まえ、日本の大学にも何らかの変化が必要であるとの結論に達した。しかし、こうした変化は、ランキングに振り回されるのではなく、グローバル化する世界における高等教育の目的に向かって努力するという願望によって推進されるべきである。どのような高等教育改革プログラムにおいても、その中心にいるのは学識経験者である。彼らは、ランキングに基づくのではなく、自分たちの教育機関のビジョンを支持している。学者たちは自分の大学に誇りを持っている。彼らは、ランキングシステムを満足させるために特定のことをするよりも、より良い高等教育機関を作るために機関を改善することを受け入れ、支持する可能性が高い。

結論

世界大学ランキングのシステムに対する疲労感は共通の感覚であったが、ワークショップを通じて、慶應義塾の経営層は自分たちの組織の強みを思い出し、自分たちが所有し、信じる戦略的変革プログラムをデザインすることができた。

トップダウンの国際化とランキング・ゲームによって生み出された問題を解決するために前進する道は、日本の学者が何を価値あるものとして認識しているのか、そしてその認識が、国内および国際的な優先事項だけでなく、組織の政策とどのように異なっているのかを調査することであろう。政府関係者や大学の上層部は、ランキング・ゲームの特徴である定量的アプローチに導かれる傾向がある。つまり成果として確かな数字を求めるアプローチである。これとは対照的に、中堅レベルのアカデミック・リーダーは、ランキングをどのように自分たちの組織のミッションを推進するために利用できるかを戦略的に考える傾向がある。そのため、国際的な競争や地位の奪い合いよりも、国の発展に大学がどのように取り組むかをより優先させたいと考えている。これには、持続可能性、環境意識、第3の使命に焦点を当てるなど、ランキング基準と現代世界の課題とのより良い整合性が含まれるかもしれない。学問的価値観や教育機関の使命・目標との関連で評価基準を理解することは、価値観をすり合わせ、ミドルレベルのアカデミック・リーダーが高等教育機関内外で積極的な変革を推進することを支援することに役立つだろう。 (原文英語)

(参考文献)

*1 Hallinger, P. (2014). Riding the Tiger of World University Rankings in East Asia: Where are We Heading?. International Journal of Educational Management, 28(2), 230-245.

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*5 Siwinski, W., Holmes, R., and Kopanska, J. (Eds) (2021).IREG Inventory of International University Rankings 2021.Perspektywy Education Foundation.

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*8 Yonezawa A., and Angela Yung Chi Hou, (2014). Continuous Challenges for World-Class Status among Universities in Taiwan and Japan as Ageing Societies. In: Ying C., Qi W., and Nian C. L.(Eds.), How World-Class Universities Affect Global Higher Education(pp. 85–101). Brill. https://brill.com/display/title/37103

*9 Yonezawa, A., and Shimmi, Y. (2015). Transformation of University Governance through Internationalization: Challenges for Top Universities and Government Policies in Japan. Higher Education, 70(2), 173–186. https://doi.org/10.1007/s10734-015-9863-0

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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