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【特集:変わる家族と子育て】
座談会:子育ての意識変化とそれを阻むもの

2024/03/05

  • 西村 純子(にしむら じゅんこ)

    お茶の水女子大学基幹研究院教授、グローバルリーダーシップ研究所所長

    塾員(1998社修、2002社博)。博士(社会学)。明星大学人文学部教授等を経て2023年より現職。専門は家族社会学。著書に『子育てと仕事の社会学 女性の働きかたは変わったか』等

  • 藤田 結子(ふじた ゆいこ)

    東京大学大学院情報学環・学際情報学府准教授

    塾員(1995文)。英ロンドン大学大学院博士号(コミュニケーション)取得。2023年より現職。専門はメディア・文化、人種・ジェンダー等。著書に『ワンオペ育児』『働く母親と階層化』(共著)等。

  • 中野 美奈子(なかの みなこ)

    フリーアナウンサー

    塾員(2002商)。大学卒業後フジテレビジョン入社、「めざましテレビ」等で活躍。12年、同社退社、フリーとなる。2023年内閣官房「こども未来戦略会議」有識者構成員となる。

  • 平野 翔大(ひらの しょうだい)

    産業医・産婦人科医/医療ジャーナリスト

    塾員(2018医)。産業医・産婦人科医として働く傍ら、ヘルスケアベンチャーの専門的支援、医療ジャーナリストとしても活動。一般社団法人Daddy Support 協会代表理事。著書に『ポストイクメンの男性育児』。

  • 稲葉 昭英(司会)(いなば あきひで)

    慶應義塾大学文学部人間科学専攻教授

    塾員(1985文、87社修)。1989年東京都立大学大学院社会科学研究科社会学専攻博士課程中退。首都大学東京人文科学研究科教授等を経て2014年より現職。専門は計量社会学、家族社会学。

子育ての移り変わり

稲葉 本日は皆さんお忙しい中、お集まりいただき有り難うございます。今日は家族と子育ての変化をテーマに、皆様とお話ができればと思います。

男女共同参画が言われて久しい中、家庭内での性別役割分担の見直しも進み、育児に対する考え方も、男性の育休取得率の上昇など、この10年で変化が見られるようになったとは思います。一方、まだ政策や意識、行動のレベルで私たちの社会は様々な問題を抱えているようにも見受けられます。

まずは簡単に自己紹介と、差し支えなければご自身の子育てとのかかわりをご紹介いただければと思います。

中野 私は現在、2歳と7歳の子どもを育てながら、出身地の香川でUターンという形で子育てをしています。

私自身の子育てに関しては、両親が歩いて5分ぐらいの距離にいますので、仕事で東京に来る時は両親の力を借りてなんとか仕事をできているという形です。本当に両親がいなかったら仕事をできないというぐらい、すごく頼りにしてしまっています。

また、昨年、「こども未来戦略会議」の有識者構成員に選ばれまして、そこでいろいろと、少子化の課題などについて自分の意見を述べる機会をいただいています。

平野 私は現在30歳で、本業は産業医です。もとは大学の産婦人科の医局にいたのですが、今、女性の健康ケアについて各企業が関心を高める中、都内20社の産業医を担当しています。

また、もう一つの仕事として、男性育児、育休の支援をやっています。これまでいわゆる「イクメン」の流れで男性育休が推進されてきましたが、それをできる環境がちゃんと整っていない中で、「育休を取れ」と言われる状況に対する危機感を、産婦人科医、産業医の現場から感じていました。それに対する一つのソリューションとして自治体・企業での支援システム作りを、男性の当事者の方と一緒にやっています。昨年『ポストイクメンの男性育児』という男性育休に関する書籍を出させていただきました。

藤田 私は、もともと社会学の分野でもコミュニケーションが専門です。でも、あるきっかけで「毎日新聞」で子育てに関する連載をすることになり、「ワンオペ育児」について書いたら、その言葉が世の中に広まるきっかけになりました。これは私が作った言葉ではなくネット上で使われていた言葉でしたが、それを広めたことになってしまい、その年の流行語大賞にノミネートされました。

そのような背景もあり、エスノグラフィ、フィールド調査も並行して、そうした研究を一昨年に共著で出しました(『働く母親と階層化』)。

西村 私はずっと家族社会学の分野で研究をしてきました。これまでワークライフバランス、あるいは女性の就業や子育てに関わるような課題について、主に量的なデータを使って、今がどういう状況なのか、これまでどのような変化があったかなどを中心に見てまいりました。今は主に時間というところに注目して研究してみたいと思っています。

稲葉 最後に私ですが、ちょうど平野さんの二倍ぐらいの年齢になります。子どもは一人で、もう30歳になり、子育ての期間は終わったのですが、妻が新聞社に勤めていたので私が家事と育児を全部やってきました。よく嘘だと言われるのですが(笑)、100%私がやっていまして、今も基本的に家事は私の役割です。

ですので、一応、育児をしている人の苦労や気持ちは私なりに理解しているのかなと思っています。やはり子どもは一人が精いっぱいだったなと思います。31の時に子どもが生まれたのですが、30代は研究者は研究しなければいけない時期で、苦しかったですね。

よく子育てと仕事の両立の話になりますが、私は両立できなかったという感じで、どちらかというと仕事を無理せずに育児を優先せざるをえなかった感じがしています。

「パパ育休」の企業格差

稲葉 では、子育て世代の現状と悩みということで、今、子育ての渦中にある中野さんから、現状、どんなところで苦労されているかなどを、述べていただけたらと思います。

中野 私自身、やはり両親が近くにいることで、すごくサポート体制に恵まれているとは思います。ただまわりを見ると、それこそ「ワンオペ育児」をされている方がたくさんいる。

今、実際に産後パパ育休を取る動きがすごく増えていると思います。ただ地方に実際に住んでみるとわかるのですが、東京の大企業などではパパ育休を取らなければいけないという風潮もあるし、会社の中でも取得を促進する動きがあると思いますが、地方はそれが進んでいません。

特に建設業など男の人が中心の会社だと、自分が育休を取ったらまわりの人の負担が増えてしまうということから、なかなか休みが取りづらいようです。

また、今は育休を取るとお給料の6割がサポートされますが、それでもやはり給料が減ってしまう。特に地方だと、両親が近くに住んでいる人が多いので、父親が育休を取るより、祖父母に子どもを預けてフルで働いたほうが給料が減らない。おじいちゃんおばあちゃんも、孫の面倒がみられてハッピーとなることが多い。

パパ育休は、私もすごくいい制度だと思うのですが、地方や職種によってはなかなか浸透しづらい部分があるのかなと思っています。

平野 先日、ニッセイ基礎研究所が出していたデータでは、コロナで一度、地方回帰が進み、地方の人口は増えたものの、今、また都会流出を起こしている。特に一番都会に出ていくのが、18―22歳の女性だそうです。

その原因の一つは、育児をしてもらえるパートナーや、それができる制度が整った会社を若い女性が志望するようになったからだと。その環境は、なかなか地方では叶えられない。そこで結局、都市圏での結婚を望んで出て行き、都会が女性過多になるそうです。

男性育休が取れるようになってきたのは確かにその通りです。今、給付率を100%相当にしたり、男女ともに育休を取ることを要件にしている大企業もあります。しかし、中小企業や個人事業主が対応できているか、というと実態は全然追いついていません。

大企業とそうでないところのギャップはすごく広がっていて、問題になっているのだろうと思っています。

稲葉 企業格差のようなものが、やはり育休の取りやすさにも反映するということでしょうか。

平野 明らかにそうですね。

藤田 それは地方と東京の差だけではなく、首都圏でも格差はあると思うのです。私たちが2年前に出した研究では階層によって違いが出ることが明らかでした。非大卒のお母さんたちに話を聞くと、彼女らの夫は建築現場で働いている方が結構多いのです。妻は保育園に子どもを預けている、ソーシャルワーカーや介護士、ケアマネ、看護師の方が多い。

すると、男性が会社を休んで家で子どもの世話をすることなんて考えられないようです。夫は家に帰ってきてもスマホでゲームをしながら寝ていて、「パパ、やってよ」と言ってもやってくれない。そういうことが都会でも普通にあって少し驚きました。

一方、大企業に両方とも勤める高学歴のカップルの話を聞くと、すごく先進的で、パパも子どものイベントに積極的に参加し、当然育休を取るような話がたくさん聞かれる。同じ首都圏でも、全然違う価値観で生きている層がいるわけです。

父親が育休を取っているのは全体で17%ぐらい(令和5年度厚生労働省調査速報値)ですが、それは都会の高学歴で先進的なカップルが多いのが現状なのかなと思っています。

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