【執筆ノート】
『ポストイクメンの男性育児──妊娠初期から始まる育業のススメ』
2023/07/26
「男性が育児をできないのは、『社会構造の問題』である」。
――本書は「ポストイクメン」と題して、大きな変革を迎えている「男性育休」について、社会的側面から解きほぐした、そんな1冊としてお届けしている。
筆者は産婦人科医として妊婦・母親に、そして産業医として労働者の父親に接している。その中で、育児にうまく携われない父親を多数見てきたが、その裏に根強い「社会構造」があると考えている。70人以上の両親にヒアリングを積み重ねてきた内容を基に、「なぜ男性が上手く育児をできないのか」を社会問題として捉え、解決策を丁寧に提示した。
前半では父親・母親のリアルな声と、様々なデータを元に、どのような経緯で「男性の育児参画」が求められるようになったのか、そしてどういう環境で男性が育児に臨んでいるのかを解説した。そこには「知識なし・経験なし・支援なし」という「三重苦」があり、余程育児適応性の高い男性(=イクメン)でない限り、うまく育児に携われないのが今の日本の現状であると説いた。
後半ではこれに対する解答として、企業や社会、そして父親個人がどうすれば良いかについて、専門職としての提言(=ポストイクメン)をまとめている。同時に筆者は一般社団法人として、書いた内容を自治体と共に実装していく事業も行っている。
今の日本の男性育休は、法改正などにより制度は充実した。しかし、「育休を取れば育児をできる」わけではない。むしろ形式的に育休だけを取らせれば「取るだけ育休」と批判の対象になり、支援なく育児に縛り付ければ社会的孤立を招く。制度と同時に、地域・制度レベルの支援が必要だが、ここには未だ目が向けられておらず、拙著がその火付役となることを期待している。
多くの方に「育児のモヤモヤを言語化してくれた」「歴史とエビデンスを基に、体系的にまとめられている」「これまでに向けられてこなかった、大事な視点」と評していただいた。父親だけでなく、パートナーや家族、上司や社内担当者・行政職員などすべてに読んでほしい1冊であり、ぜひ塾員の皆様にもお読みいただけたら幸いである。
『ポストイクメンの男性育児──妊娠初期から始まる育業のススメ』
平野 翔大
中央公論新社
272頁、1,034円〈税込〉
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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平野 翔大(ひらの しょうだい)
Daddy Support 協会代表理事、産業医、産婦人科医・塾員