【特集:変わる家族と子育て】
座談会:子育ての意識変化とそれを阻むもの
2024/03/05
ケアを重視しない社会
稲葉 男性はまず稼得役割というか、世帯の家計を支えるということが第一に期待されているところがある。これはアメリカでもそうです。その期待が非常に強いので、まずそれを優先して、残った時間で育児や家事をという形にどうしてもなってしまう。
逆に男性が実際に育児や家事をやっていても、なかなか職場ではそうは思われないのではないでしょうか。私が育児をやっていたのは随分前ですが、職場では誰も私がそんなことをやっていると思わないので、残業はどんどん降ってくるし、雑用も振られるし、ものすごくきつかったですね。
一方で、同じ大学の教員でも女性は出産されると、やはりまわりが配慮するところがあるんです。でも男性については、そういうところはなかったなと。それも育休の取りにくさと関連しているのかなと思っています。
平野 産業医をやっていて思うのは、日本では子育てのようなケアだけでなく、往々にしてセルフケアより仕事が優先されるんですね。それは会社もそうだし、本人もそうなんです。明らかにメンタルを病んでいる人が、回らない仕事のことを考えているわけです。
それぐらいケアというものに対して金銭的な価値もプライオリティも置かれていない。これが近年の話なのか、国民性なのかはわかりませんが、結局、誰もが人をケアするし、自分をケアする、ということが当たり前になっていないんだなと思います。育児でなくても自分をケアする時間やパートナーをケアする時間があってもいいはずです。
私の知人で助産師でありながら会社を経営している方がいますが、彼女のまわりはケアする側の立場である助産師なので、多忙な経営者であってもお互いにケアをして当然だよね、みたいなところがあります。子どもができたらお互いに行き来し合う。一晩うちで見るからゆっくりお風呂に入っておいでよ、というようなことを当たり前にやっている。
人をケアすることは同時に自分をケアすることであるとなってくれると、育児やまわりのケアに、もっと皆の目が向くのだろうと思いました。
家事の外部化という選択
稲葉 なるほど。ところで中野さんは家事代行サービスなどは、あまり使われませんか。
中野 家事代行は、子どもが生まれる前から丸亀市のシルバー人材センターというところを利用しています。
高齢者の方が週に3回ぐらい、私が子どもの時から、人は替わっていますが、来てくださっているんです。ちょうど私が二人目を出産した時に、母が足をケガして、2カ月ぐらい入院したんですよ。一番厄介だったのは、父を見なければいけなかったことです。すごく昔の人間なので、お茶を出せとか漬物を切れとか言うんですよ。
産後、私もヘロヘロなのにそう言われてとてもイライラして、その時にシルバー人材の方が、多めに来てくれたことが本当に有り難かった。何より話し相手がいてくれるという安心感は、産後、すごく心の支えになりました。
稲葉 主にハウスクリーニングをやってもらった感じですか。
中野 そうです。お料理ではなく、掃除機をかけてもらったりとかですね。
稲葉 西村さんもシルバー人材を使われていましたか。
西村 はい。うちは子どもが小さい時からずっと頼んでいます。
稲葉 お子さんが多いですから。4人いらっしゃるので。
西村 シルバー人材センターにお願いするのがコスト的にもリーズナブルで、割と地元の近所の方が来てくださるという安心感もありました。週2日ぐらいは来ていただいて、掃除と、夕食を作ってもらう時もありました。
稲葉 家事代行サービスを上手く使うことで両立が可能になったという部分はあるわけですか。
西村 それは大きかったと思います。どうしても自分が帰れると思っていた時間に帰れないこともあるので、帰った時に夕食がある程度できているということはすごく有り難かったです。
稲葉 藤田さんはそういうものを使われましたか。
藤田 使いました。でも、西村さんのように4人子どもがいれば、来ていただくことですごく助かると思うのですが、うちは子どもが一人なので、シルバーだと近所の年配の方が来るから逆にすごく気を使ってしまって。時間のマネジメントもしなければならないので、これはあまり意味がないのでは、と思ったこともあります。
稲葉 平野さんはそういうサービスは使われたことはありますか?
平野 私は実は社会人2年目から使っています(笑)。
中野 一人暮らしで?
平野 そうです。自分自身、無茶苦茶な働き方を臨床現場時代はずっとしていたので、荒廃していく家事を見てお願いしたという経緯がありました。
産業医として子育て世帯に対してもこういうサービスをご案内することはあります。その一番の意義は孤立しないことです。しんどいと思った時に2人で家に籠られてしまうとどうしようもなくなるので。
家事代行を入れること自体、もちろん自分の手数を減らすこともそうですが、自分自身がケアされていると感じることができる。自分が気付いていないことがあった時にここをこうしておきましたと言われると、自分の生活をケアしてもらえると感じて少しうれしい。そんなこともあるのではないでしょうか。
手作りにこだわる理由
稲葉 やはり家事代行サービスを使うことで、可能になっている部分もあるということなんでしょうね。僕はあまり使わなかったんですよね。だから家の中が荒廃してしまいまして(笑)。
家事代行などを使う一方で、これはあまり外部化しないという部分もありませんか。食事は手作りにこだわるとか、そういうこともあると思うのです。
中野 うちはスーパーもすぐ近くにありますし、それこそ母が近くに住んでいるので、おかずをもらったり、あげたりという部分では手作りにはこだわっています。
稲葉 それはやはり健康にいいとか、安全性の部分ですか。
中野 そこまでこだわりはないのですが、お野菜がすごく安く買えるのが大きいですね。香川では市場のような所で買うのですが、生で食べられるぐらいすごくおいしい。せっかくこんなものがあるのに料理をしないのはもったいないと思い、手間はかかりますが、それこそ今は時短のレシピなどがたくさんSNSに上がっていますので。
稲葉 やはり子どもが生まれると、手作りのものをという人は多いですよね。
中野 それは人によりますね。こだわる人はたぶんすごくオーガニックにこだわって、熱が出てもキャベツを頭に載せたり(笑)。
西村 私自身は、自分が作らなければいけないという感じは全然なくて、シルバーの方にお願いして作っていただいたものを食べることもまったくオーケーです。今はいわゆる週末にドンと届くようなものも結構利用しています。
藤田 私たちの調査では、フルタイムで働いている正規雇用の人は、サービスや調理器を活用して夕食を用意するという話が多くて、非正規や主婦の方はなるべくきちんと手作りしたいという人が多かったです。
非正規の方は、つまり家族のケアをするために非正規なので、夕ご飯を買ってしまうと意味がなくなってしまうんですね。そうすると、自分のアイデンティティの問題で作る。専業主婦の方からも、夫に家事をやられると私のやることがなくなってしまうから、夫には家事はやってほしくない、という話がたくさん聞かれて驚きました。
稲葉 ゲートキーピング仮説というやつですね。
藤田 皆さん、自分の家庭での存在価値にすごくこだわりがある。専業主婦のコミュニティでは手作りが当たり前という感じなんですよね。だからやはり働き方、仕事によって結構違うということは日本の中でもあります。
一方、中華圏はテイクアウトがすごく充実して朝ごはんも外で食べたりするぐらいです。また、アメリカやイギリスは、チンするレトルトがものすごく充実しています。最近読んだ論文によるとcooking 自体が、アメリカだとheatingと同じ意味になっていると。一から材料を切ったりするのはすごく手の込んだ料理で、普通のcookingではないのだそうです。
ですので、簡略化されつつあるけど、他の国と比べると日本はお母さんの手作りがまだ多いのかもしれません。今、服は60年代以降は既製品がいっぱい出たので誰も作らないですよね。海外では、家庭の料理も服のように買ってくるものになるのかもしれません。
稲葉 そこをどう評価するかということはありますよね。先ほどケアの評価が低いという話がありましたが、逆に家事や育児の価値が高いと言えるところもありますよね。つまり料理などは手作りのものを大事にして、それを出すことに価値があるということで、それを優先する。でも、それではやはり両立が難しくなるという批判も、当然あります。
私自身は実は手作りに非常にこだわりまして、まず外食はしないですね。お総菜もあまり買わないで自分で作ります。やはり、子どもが生まれてからは随分こだわるようになって。だから両立ができなかったのかもしれません。
結局、両立するには家事時間を減らさなければいけないわけです。逆に非正規の人たちは、むしろ家事や育児を優先して合間に仕事をするという選択をしているので、家事などは手作りにこだわるということでしょう。
そういう家事や育児のあり方をどう評価するかは、なかなか難しいですね。料理などは手の込んだものを作らずにミールキットを利用して外部化すればいいんだという意見も、当然あるかと思います。ただ、そうはいってもそこまで割り切れないのも本当なのかなという気もします。
2024年3月号
【特集:変わる家族と子育て】
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