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【特集:変わる家族と子育て】
座談会:子育ての意識変化とそれを阻むもの

2024/03/05

婚活促進よりもセルフケアを

稲葉 中野さんが言われたように今、非常に未婚率が上昇していて、生涯、結婚しない人が男性が3割近く、女性はもう少し低くて2割ぐらいです。育児支援を充実させると社会の分断を生むという話もありますが、今の話だと、そうではないということになりますね。

少子化の基本的な原因は、結婚する人が減少していることが圧倒的に大きいんですよね。一組当たりの夫婦が産む子どもの数自体は、少しは減っていますがそれほど大きくは減っていない。すると、子育て支援を充実させることがどれだけ少子化に歯止めをかけることになるのかが議論になります。

藤田 私は、少子化になるという前提で社会の仕組みを考えるべきであって、無理に少子化を改善しようと婚活をさせたりするのは全く意味がないし、個人の幸せよりも産めよ増やせよみたいな政策は、若い人の感覚にも全く合っていないと思っています。

子どもが欲しい人が産めるようにするのは重要だとは思いますが、そうした的外れなことをするよりは一人一人が幸せに生きられる方向を考えていくべきでしょう。子育て支援自体が少子化対策に影響はなくても、きちんと子どもが幸せに生きていけるような形を考えること自体、まだ全然足りていないと思うんですよね。

平野さんがおっしゃったセルフケアにもつながっていると思います。日本は男性がセルフケアを全くしない。高齢者で具合が悪くても寂しくても、助けてと言ったら恥ずかしいという感じがあります。そういう人たちがいる社会では他人をケアする発想は生まれてこないと思うんですよね。そういう意味でも多面的に支え合うような社会になれば、いろいろなことが違ってくるだろうと思います。

平野 私は実は「推し活」ってすごいセルフケアだなと思っているんです。もちろん推している相手もケアしていますが、あれは何よりもセルフケアなのだと思うのです。

産業医面談で結構、「推し活をしています?」と聞くんですよ。これができなくなったら、まずいなと見ているぐらいです。ああいう自分が好きなことへの偏愛を語れるところも一つのケアとして、日本人の文化にはすごく合っていると思っています。子育てもある意味、そういう要素があるのだろうと思っています。

稲葉 セルフケアの問題というのは、社会学でも、特に高齢者の問題としてよく出てきています。今は未婚で高齢期を迎える男性が増えていて、そういう人たちがセルフネグレクトに陥りがちであるとよく指摘されています。そういう意味では、われわれの社会にあるジェンダーみたいなものを平等化していかない限り、この問題は解決できないという感じはしますね。

男性育児をめぐる諸問題

稲葉 この何年かのトピックとして重要なのは男性による育児ですが、このあたりの状況について平野さん、まず今後の課題や現状で思うところはいかがでしょうか。

平野 まず、男性の育休を、男性が育児をしたいから取得したのが北欧であるなら、女性の負荷を軽減して、出生率を上げなければ、ということからやったのが日本だと、総論的にはそういう捉え方をしています。そして、日本では、与えられたものとして男性育休、育児というものが降ってきたがゆえの、矛盾を今、生んでいると感じています。やはり多くの男性にとっては、今はやれと言われているからやっているような状況で、ここをいつ脱却できるかがポイントです。

若い世代は育休を取りたいと言っていますが、それは本心からやりたいと思っているのか、社会的にそういう権利を勝ちとることがいいと思っているのか、ほとんどの人は、おそらく子育てが何たるかをイメージできていない。

その状況で皆が子育てに入っていくからには、それがきちんとできるような環境を整えなければいけない。子育てはもちろん楽しく面白いものだと思ってもらいたいけれど、同時に家族にとって大きな負担を負わせることも、また事実ではあると思うのです。

そういったことを伝えながら、子育てという選択肢を取れる社会であるということ。育休も自分から取りにいく社会になると、その時期も主体的に選択する話になっていくのかなと。そのあたりの社会の意識、教育をもう少し分解したら、教育設備が足りない、行政支援が足りないという話になってくると思います。

稲葉 日本の男性の家事育児参加はずっと低いと言われてきたのですが、時間としては、最近、増えていますね。内閣府の2022年の報告書では、世帯全体で見ると、3分の1ぐらいの家事を男性がやり、育児も増えてはいる。

そういう意味では政策の後押しもあって、主体的に選んだのではないのかもしれませんが、家事育児へのかかわり自体は増えている。ただ、それでも多くの部分は女性が担っている実態はあります。保育園や幼稚園、小学校の保護者会などで、お父さんが参加することは増えていますか。

中野 すごく増えています。入学式などのイベントは、私の実感ではお父さんもすごくたくさん来ているなと思います。授業参観も私が子どもの時はほとんどお母さんしかいなかったので、増えているという印象はあります。

稲葉 そういう場でお父さんたちはお母さんたちのネットワークの中に、うまく溶け込んでいますか?

中野 溶け込んでいますね。お父さんは普通の会社員の方ですが、有休を取って子どもの晴れ舞台だから見に来ているという感じです。保護者会などでも、お父さん率は高いですね。

稲葉 それはだいぶ大きな変化ですね。

平野 先日、たぶん日本で一番大きな子育てイベントのベネッセの「たまひよファミリーパーク」というものがありました。私は展示側で参加したのですが、年を追うごとにどんどん男性率が上がっていて、ついに男性が男性の友人を誘って来た人がいました。

今までは女性だけか、夫婦で来るかでしたが、すごく急速な変革が起きているというのは、そういう面からも感じられると思います。

中野 少し前だと、たぶん男性が行っても気恥ずかしいので、行きたくても行けない人が多かったですよね。

稲葉 僕は皆さんよりずっと前に育児をやっていたので、保護者会などに行くと、大体男性は僕一人。するとこちらが気後れしてしまって、お母さんたちのネットワークに入れないんですよね。だから、例えばどこの医者がいいとか、どこの塾がいいといった情報が全く入ってこなかったんですよ。

藤田さんも保護者会では男性の方をお見かけすることは多いですか。

藤田 来てはいますが、でもやはり男性が増えているのは週末のイベントとか娯楽系ですね。

稲葉 サッカーとかキャンプとか。

藤田 やはり平日の昼の保護者会だと今でも少ないと思いますし、学校の行事も女性にとっては義務だけど、男性にとっては自分に余裕がある時に土日に参加したりするものという感じがあるのではないでしょうか。そこの部分は変わっていないと思います。

西村 小学校などでは、おやじの会というのがありますね。その会に期待されているのは、一つは溝の掃除、扇風機の汚れを取ったりする汚れ仕事。それからキャンプ、スイカ割り、花火等のイベントというのが典型的です。

そういったイベントでは羽目を外していいような雰囲気もあり、これは育児の場面での性別分業だと思うことがあります。お父さんと遊ぶ時はルールを気にしなくてもいいという一方、母親には相変わらず、子どもの身のまわりの世話が期待されているなど、育児の場面での性別分業を、より深めていくような方向性が、現状ではあるかなと思うことはあります。

若い世代の意識変化を後押しするには

西村 一方で若い世代の意識変化は、実際に起こっていると感じます。中学生と高校生を対象としたNHKの意識調査で、2022年では、将来、自分が子どもを持つことになった時、どのように育児を分担するのがいいと思いますかという質問に、中学生も高校生も7割程度が、母親も父親も同じようにかかわるのがいいと回答しています。

10年前、2012年のそれと同様の調査では、中学生、高校生ともまだ半数ぐらいしか、母親も父親も同じぐらい育児にかかわるのがよいという回答がなかったということです。10年の間に20ポイントも増えたというのは、かなり大きな変化ではないかと思っています。

これは若い男性たちがパートナーをもった時に、片方だけがケアを圧倒的に担うという状況はおかしいと、ようやく気が付き始めたということかもしれません。それは大きな変化だと思います。

それを社会が後押しする、皆が同じようにケアを担える働き方にしていくような形で、社会が若い世代の意識の変化をサポートするということがこれから必要ではないかと思っています。

稲葉 そうした意識を持っている人に、それが実現できるような社会的サポートをするというのはまさにその通りですが、一つは労働時間などをもう少し柔軟にして短くすることが不可欠です。配偶者が8時に帰ってくるようだと、未就学児や小学校低学年のお子さんがいる場合、かかわれませんよね。

平野 社会生活基本調査のデータから国立成育医療研究センター研究所の政策科学研究部が出していたのが、現在政府が目標としている「男性の家事+育児時間2時間半」を達成するためには仕事プラス通勤で9.5時間以内に収めなければ難しいということでした。

9.5時間というのは、通勤に片道45分かかったら、残業ゼロということになる。それぐらいじゃないと、まともに子育てはできないということです。残業したら特に未就学児まではほぼ子育ては無理、という意識が形成されてくると、社会は変わっていくのではないでしょうか。

稲葉 あとはやはりオンラインで仕事ができるような人たちは、多少、他の人たちよりは柔軟性はあるのかなと思います。

ただオンラインで在宅で仕事ができるというのは、ホワイトカラーで大卒の人たちが多数なので、それこそ階層差のようなものが反映されてしまうかもしれない。労働時間の長さ、短さというよりも柔軟性というか、両立可能な労働時間の重要性が、はっきりしてきたのかなという感じがします。その中で選択可能性があるということが大事なのかと思います。

平野 あともう一つはわれわれもそうですが、育児を支援する側、保育や医療、それこそ産婦人科医も、夫婦で来ているのに女性だけを見て話をするんですよ。ここが変わらなければいけない。支援側や制度設計側がちゃんと男性も育児をするんだという大前提のもとに動けるかどうかは、もう少し進まないといけないと思うのです。

稲葉 保護者会が平日の昼間というのも、仕事を持っている人は参加できないですよね。有給休暇を取れということなのかもしれませんが、簡単に取れないケースも多いでしょう。もう少し時間をずらして土曜や平日の夜にやるとか、そのあたりは変えてほしいというのはありますよね。

今日はいろいろなお話ができてとてもよかったと思います。長い時間、有り難うございました。

(2024年1月18日、三田キャンパス内で収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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